優しいあなたは罪な人

千秋の嘘

3

美紅は鼻歌を歌いながら愛する千秋のために、キッチンで手の込んだロールキャベツを作っていた。
今夜は千秋が、美紅にプロポーズをしてくれた記念日。
きっと千秋はそんな事は覚えてないのは分かっていたが、美紅は自分の中では大切な記念日の１つだった。
ずっとずっと好きだった千秋と付き合いはじめて、突然プロポーズをしてくれた時、美紅は本当に嬉しくて泣いてしまった。


　千秋さん、早く帰ってこないかな！
　なんでロールキャベツなんだろってきっと思うんだろうな。


ご機嫌でロールキャベツを作ってる最中にスマホの着信が有り、美紅は慌ててスマホを手に取った。
相手は千秋だった。

「もしもし。千秋さん、仕事終わった？」

美紅の声は自然と弾んでしまう。

『ああ。あと少しで家に着くと思う。出先から直帰だから』

ホテルから1番近い駅の改札を通って、自宅へ向かう電車のホームへと千秋は足を運ぶ。

「うん、分かった！今日ねッ」

『ん？』

「あ、ううん。気をつけて帰ってきてね」

言いかけたが千秋を驚かそうと美紅は言わずに耐えた。

『ああ。じゃあ』

スマホを切って美紅は顔がニヤける。
いつもはまだ帰宅時間じゃないのに、今夜はいつもより早く帰ってきてくれる事が記念日だった事もあって美紅は嬉しくなった。
一方の千秋は、スマホをポケットにしまい溜め息をつく。
美紅の声を聞いて胸が締め付けられる。
今更何をこんなに辛いと思うのか、自分の愚かさに笑うこともできない。


　覚悟の上だろ。
　自分で美紅を裏切っておいて、家に帰りたくないとか何を俺は考えているんだ。


分かっていても足取りは重い。
今頃、美奈子は何をしているか気になる。
自分と同じように後悔して、居た堪れない気持ちなのかと想像する。
こうなると想像していたくせにいざ現実に起こってしまうと、想像を超えた後悔を千秋は実感した。