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俺と君
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「ぎゃあー、んぎゃあー、あーん」
1歳は過ぎている赤ちゃんが、ぐずって嫌がって母親の腕の中で暴れる。
「はいはい、嫌だねぇ。少し我慢だよぉ。よーし、良い子だ!」
聴診器を外し、手早く喉の奥と耳、鼻の中を診る。
「ふぎゃあ。ふぎゃぁ」
「よーし、お利口さん。もう終わったよ」
母親は赤ちゃんのロンパースのスナップをはめる。
「喉が少し赤いですね。風邪だと思います。とりあえずシロップのお薬出しておきますので様子を見てください。それでも熱が下がらなければまた診せてくださいね」
カルテに必要なことを書くと、パソコンに処方する薬を入力する。
「ありがとうございます」
母親はお辞儀をして診察室を出て行った。
「お疲れ様でした。午前はこれで終わりです。午後は、大学病院に行くんですよね?」
看護師長の酒井さんが器具を消毒する。
「お昼過ぎに僕の代わりの応援の後輩が来てくれるから。ここに来るのは初めての奴だからまたみんなでフォローしてあげてね」
蓮見は古巣の大学病院の教授に会いに、月に一度大学病院に行く。
教授は蓮見に目をかけていたので、大学病院を去ったことが残念だった。
蓮見が教授に会っている間、外科の医師が代わり番こに蓮見の病院を手伝ってくれる。
蓮見は白衣を脱ぐと、病院から家に移動した。珍しく鍵がかかっていた。
「ただいま。お昼ご飯、食べれるかな?」
リビングに入るとキッチンを見る。
真冬の姿がない。部屋はシーンとしていた。
「買い物でも行ったかな?」
昼食の準備も出来ていない。
時計を見た。大学病院へ行く時間を考えて、仕方なくカップ麺を戸棚から出した。
「久しぶりだな、カップ麺も」
ちょっと寂しい気持ちでやかんで湯を沸かす。
3分待って、ズルズルとカップ麺を啜った。
味気なかった。
だが、仕方ないとスープも飲み干すと流しでカップ麺の容器を水ですすぎ出かける準備を始めた。
真冬はゴミを捨てに行きながら、公園でぼぉっとしていた。
なんとなく家に居たくなくて、帰りそびれてしまった。
蓮見のことで頭がいっぱいになっていて、何もする気がしなかった。
「くんちゃーん、そろそろ帰ろうよぉ。お母さん、お腹すいたなぁ」
遊具で遊ぶ子供に声をかける母親の声に真冬はハッとした。
「じゃあ、あと滑り台してからー」
子供はそう言って滑り台に走っていく。
公園の時計を見ると、もう13時を過ぎていた。
ゴミを捨てに来ただけのつもりだったので、スマホも家に置いて来てしまっていた。
「やばい!診察時間終わってる!先生のお昼用意してない」
慌てて真冬は走って公園を出る。
午後の診察は14時からなので、よほど病院が混んでいなければ、12時30分過ぎに蓮見は昼食を摂りに帰ってくる。
真冬はハァハァ言って玄関の鍵を開けた。
「先生!もう病院に戻っちゃったのかな?」
キッチンに行くと、シンクの中にカップ麺の容器が入っていて、真冬はそれを見て口元をキュッと締めた。
「ごめんなさい」
そう呟くと、真冬はこっそり病院に様子を見に行った。
蓮見の姿が見えない。
白衣を着た、蓮見ぐらい背の高い若い男が見えて真冬はドキリとした。
「ん?患者さん?まだ診察時間じゃないんだけど」
「ぼ、僕は、違います!」
真冬の言葉に、若い医師は首をひねる。
「あら、真冬君。こっちに来るなんて珍しい。先生はもう出かけましたよ」
看護師長の酒井さんに言われて、真冬は、え?と言う顔をする。
「出かけたって、どこに?」
不安そうに真冬は尋ねる。
「前にいた大学病院ですよ。月に一度行ってるのよ」
真冬はそうだったと思い出した。
確かカレンダーに書いていたはずだった。
前は、まだ自分もこの家に来たばかりだったので、あまり気にしてなかった。
「あのぉ」
真冬が若い医師を見る。
「はじめまして。星川です。君が真冬君だったんだ。真冬君の話はさっき蓮見先生に聞きました」
なんとなく真冬は気恥ずかしかった。何も知らないのは自分だけの気がした。
蓮見のことだから、きっと昼にもう一度ちゃんと言ってから出かけるつもりだったんだろうと思うと、真冬は自分は何をしていたんだと責めた。
真冬は星川にお辞儀をすると家に戻った。
自分の部屋のテーブルの上のスマホを手に取ると、蓮見から【行ってきます】とメールが入っていた。
夕方近くに、蓮見は病院に戻ってきた。
「遅くなってすまなかったね。大丈夫だった?」
診察室に蓮見が入ってくると、星川は笑顔で迎えた。
「大丈夫ですよ。相変わらず患者さんの多い病院ですね」
「まぁね。うちは小児科もやってるから特に子供の患者が多いからね」
蓮見は白衣を着ると、星川とバトンタッチをした。
「真冬君がこっちに来ましたよ。先輩が大学病院行くこと忘れていたみたいです」
「そうか。前に言っておいたんだが、きっと忘れていると思ったから、昼休憩に言おうと思ったけどすれ違いになっちゃってね」
笑いながら蓮見が言うと、星川も笑う。
「ん?なに?」
「いえ、相変わらず面倒見がいいなって。真冬君の事、先輩は同居人って言ってたけど、本当は預かっているんでしょ?」
「あ、聞いた?」
照れ笑いを蓮見はする。
「少し。じゃあ、今日はこれで」
そう言って星川は診察室を出ようとした。
「時間あるなら家で待ってろよ。夕飯食ってけば?真冬の料理最高に旨いよ」
蓮見は今日の礼も兼ねて星川を誘った。
「じゃあ、遠慮なく」
星川は笑って言うと診察室のドアを閉めた。
1歳は過ぎている赤ちゃんが、ぐずって嫌がって母親の腕の中で暴れる。
「はいはい、嫌だねぇ。少し我慢だよぉ。よーし、良い子だ!」
聴診器を外し、手早く喉の奥と耳、鼻の中を診る。
「ふぎゃあ。ふぎゃぁ」
「よーし、お利口さん。もう終わったよ」
母親は赤ちゃんのロンパースのスナップをはめる。
「喉が少し赤いですね。風邪だと思います。とりあえずシロップのお薬出しておきますので様子を見てください。それでも熱が下がらなければまた診せてくださいね」
カルテに必要なことを書くと、パソコンに処方する薬を入力する。
「ありがとうございます」
母親はお辞儀をして診察室を出て行った。
「お疲れ様でした。午前はこれで終わりです。午後は、大学病院に行くんですよね?」
看護師長の酒井さんが器具を消毒する。
「お昼過ぎに僕の代わりの応援の後輩が来てくれるから。ここに来るのは初めての奴だからまたみんなでフォローしてあげてね」
蓮見は古巣の大学病院の教授に会いに、月に一度大学病院に行く。
教授は蓮見に目をかけていたので、大学病院を去ったことが残念だった。
蓮見が教授に会っている間、外科の医師が代わり番こに蓮見の病院を手伝ってくれる。
蓮見は白衣を脱ぐと、病院から家に移動した。珍しく鍵がかかっていた。
「ただいま。お昼ご飯、食べれるかな?」
リビングに入るとキッチンを見る。
真冬の姿がない。部屋はシーンとしていた。
「買い物でも行ったかな?」
昼食の準備も出来ていない。
時計を見た。大学病院へ行く時間を考えて、仕方なくカップ麺を戸棚から出した。
「久しぶりだな、カップ麺も」
ちょっと寂しい気持ちでやかんで湯を沸かす。
3分待って、ズルズルとカップ麺を啜った。
味気なかった。
だが、仕方ないとスープも飲み干すと流しでカップ麺の容器を水ですすぎ出かける準備を始めた。
真冬はゴミを捨てに行きながら、公園でぼぉっとしていた。
なんとなく家に居たくなくて、帰りそびれてしまった。
蓮見のことで頭がいっぱいになっていて、何もする気がしなかった。
「くんちゃーん、そろそろ帰ろうよぉ。お母さん、お腹すいたなぁ」
遊具で遊ぶ子供に声をかける母親の声に真冬はハッとした。
「じゃあ、あと滑り台してからー」
子供はそう言って滑り台に走っていく。
公園の時計を見ると、もう13時を過ぎていた。
ゴミを捨てに来ただけのつもりだったので、スマホも家に置いて来てしまっていた。
「やばい!診察時間終わってる!先生のお昼用意してない」
慌てて真冬は走って公園を出る。
午後の診察は14時からなので、よほど病院が混んでいなければ、12時30分過ぎに蓮見は昼食を摂りに帰ってくる。
真冬はハァハァ言って玄関の鍵を開けた。
「先生!もう病院に戻っちゃったのかな?」
キッチンに行くと、シンクの中にカップ麺の容器が入っていて、真冬はそれを見て口元をキュッと締めた。
「ごめんなさい」
そう呟くと、真冬はこっそり病院に様子を見に行った。
蓮見の姿が見えない。
白衣を着た、蓮見ぐらい背の高い若い男が見えて真冬はドキリとした。
「ん?患者さん?まだ診察時間じゃないんだけど」
「ぼ、僕は、違います!」
真冬の言葉に、若い医師は首をひねる。
「あら、真冬君。こっちに来るなんて珍しい。先生はもう出かけましたよ」
看護師長の酒井さんに言われて、真冬は、え?と言う顔をする。
「出かけたって、どこに?」
不安そうに真冬は尋ねる。
「前にいた大学病院ですよ。月に一度行ってるのよ」
真冬はそうだったと思い出した。
確かカレンダーに書いていたはずだった。
前は、まだ自分もこの家に来たばかりだったので、あまり気にしてなかった。
「あのぉ」
真冬が若い医師を見る。
「はじめまして。星川です。君が真冬君だったんだ。真冬君の話はさっき蓮見先生に聞きました」
なんとなく真冬は気恥ずかしかった。何も知らないのは自分だけの気がした。
蓮見のことだから、きっと昼にもう一度ちゃんと言ってから出かけるつもりだったんだろうと思うと、真冬は自分は何をしていたんだと責めた。
真冬は星川にお辞儀をすると家に戻った。
自分の部屋のテーブルの上のスマホを手に取ると、蓮見から【行ってきます】とメールが入っていた。
夕方近くに、蓮見は病院に戻ってきた。
「遅くなってすまなかったね。大丈夫だった?」
診察室に蓮見が入ってくると、星川は笑顔で迎えた。
「大丈夫ですよ。相変わらず患者さんの多い病院ですね」
「まぁね。うちは小児科もやってるから特に子供の患者が多いからね」
蓮見は白衣を着ると、星川とバトンタッチをした。
「真冬君がこっちに来ましたよ。先輩が大学病院行くこと忘れていたみたいです」
「そうか。前に言っておいたんだが、きっと忘れていると思ったから、昼休憩に言おうと思ったけどすれ違いになっちゃってね」
笑いながら蓮見が言うと、星川も笑う。
「ん?なに?」
「いえ、相変わらず面倒見がいいなって。真冬君の事、先輩は同居人って言ってたけど、本当は預かっているんでしょ?」
「あ、聞いた?」
照れ笑いを蓮見はする。
「少し。じゃあ、今日はこれで」
そう言って星川は診察室を出ようとした。
「時間あるなら家で待ってろよ。夕飯食ってけば?真冬の料理最高に旨いよ」
蓮見は今日の礼も兼ねて星川を誘った。
「じゃあ、遠慮なく」
星川は笑って言うと診察室のドアを閉めた。
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