あなたの指先で触れられたい

五嶋樒榴

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俺と君

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「蓮見先生。僕、泣かなかったぞ!」
予防注射を受けた男の子は、グッと痛みに堪えて蓮見にそう言った。
「うん、偉かったね!よし、ご褒美だ」
蓮見は笑顔でそう言うと、ペロペロキャンディを男の子にあげた。
「30分様子を見て、大丈夫だったら帰っていいですよ」
蓮見がそう言うと、親子はお辞儀をして診察室を出て行った。
「先生、お疲れ様です。午後の診察まで休んでくださいね」
年配の女性の看護師長の酒井さんが声を掛けると、蓮見はうーんと唸って背伸びをした。
「はい。お疲れ様です。お昼食べてきちゃいますね」
蓮見はそう言うと、病院の裏の自宅に入った。
「先生、お疲れ様。ご飯出来てるよ」
可愛い笑顔で蓮見を迎えたのは、2ヶ月前の7月から蓮見の家に居候をしている家出青年の真冬だった。
真冬は大学生だと言っていたが、通っていた大学を編入してしまい、それが原因で両親と大喧嘩になり家を飛び出た。
街をふらついている時に酔っ払いに因縁を付けられ暴行され、蓮見の病院に運ばれてきたのだった。
「うん、ありがとう」
少し照れながら蓮見は言う。
テーブルには、肉じゃがと玉子焼きと今朝の残りの味噌汁が用意されていた。
「あー、良い匂いだ。腹減ったー」
蓮見が席に着くと、真冬がご飯をよそって蓮見と自分のところに置いた。
「いただきます」
蓮見はそう言うと、肉じゃがを口に運ぶ。
「うん!旨い!真冬はなんでも上手だな」
幸せそうに蓮見が食べる姿を、嬉しそうに真冬は見つめる。
「先生が美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるよ」
満足そうに真冬は言いながら、真冬も肉じゃがを食べた。
「先生。僕、そろそろこの家を出ようと思っているんだ。いつまでも先生にお世話になるのも悪いし。バイトしながらアパートも探すよ」
真冬の言葉に蓮見は怖い顔をする。
「俺は反対だよ。家に帰るのなら仕方ないけど、家出したまま一人暮らしなんてさせられない。バイトしたいならしても良いけど、この家を出て行くのはダメだ」
むすっとして蓮見は味噌汁を啜る。
「だって、いつまでもこんな生活してたら、先生の婚期だって遅れちゃうよ」
心配そうに真冬は言う。
「こ、婚期って」
蓮見が焦りながら言う。
「病院のみんなが心配してる。病院と家の往復で、出会いもないし、もういい年なのに独身なのはって」
それを気にしてこの家を出ると真冬が言ってるんだと蓮見は思った。
「余計な心配しなくていいよ。真冬がこの家に居たくないなら仕方ないけどさ」
むくれながらご飯をかっ込んで蓮見は言う。
「僕はずっと居たいよ。先生のこと好きだし、病院のみんなも好きだし」
先生のこと好きだし。と言われて、蓮見はドキンとした。
変な意味で言っているのではないと分かっていても、蓮見は反応してしまう。
蓮見が真冬をこの家から出せない原因はそこにあった。
蓮見は真冬に恋していた。
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