お前の唇に触れていたい

五嶋樒榴

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嫉妬深い

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マンションのエントランスで礼央は橋元を見送る。
橋元は病院に向かって歩いて行った。
礼央は橋元の姿が見えなくなるとマンションの植え込みに向かう。
橋元の部屋から投げてしまったジッポーの行方を探すために、雨で濡れている植え込みの繁みの中を手で掻き分けながら探し始めた。

この辺に落ちたと思ったんだけど。
もう!
僕は馬鹿だ!

つい嫉妬に駆られ、頭に血が上ってしまった。
礼央の嫉妬深さは、母親に捨てられた影響だと自分でも分かっている。
男を作って出て行ってしまった母。
他の誰かに、愛する人を取られることに対して極端に恐怖を感じる。
今まで付き合って来た3人の恋人達もそうだった。
初めは礼央の嫉妬も、愛されている実感と皆喜んで許容するが、次第に礼央の束縛に恋人達は他に逃げてしまう。
最近別れた男は浮気が原因だったので、特に今は疑心暗鬼になりやすかった。
「あ!あった!」
礼央はやっと見つけると、枝で擦り傷だらけの手で濡れて汚れたジッポーを握った。
投げてしまったジッポーを手に取りホッとする。

物に罪はないのにね。
分かってる。
総司さんが、特別の感情でこれを使っていたわけじゃないって。
でも、嫌なんだ。
これに触れる総司さんを見るのが。
総司さんの過去を見せられてる気がして嫌なんだ。

礼央は掌の中のジッポーを見つめていたが、エントランスに戻り橋元の部屋のポストにジッポーを入れると駅に向かって歩き始めた。
【昨日はごめんなさい。部屋から投げ捨てたライター、ちゃんと拾ったから。ポストに入れておきます。お仕事頑張ってね】
礼央はメールを打ち終わるとため息をついた。
もう2度とあのジッポーを目にすることはないと分かっていたが、その後の行方がどうなるかはもう聞かない様にしようと思った。

今まで付き合って来た人たちみたいに、総司さんに嫌われたくない。
まだ始まったばかりの関係だけど、すごく好きになってる。

礼央はそう思いながら唇に指を当てた。
橋元とのキスを思い出す。
初めて会った時、ボサボサの頭に無精髭。
だらしなくて変人で、イヤらしい奴と思った出会いは最悪。
再会した時に、爽やかになっていたから好きになったわけじゃない。
橋元の誠実さに好意を持った。
橋元が呆れるほど嫉妬するほどもう好きになっている。
本当は今夜も橋元と過ごしたかった。
ベッドで抱きしめられ、キスをしていた時に橋元にオンコールが来た。
今夜も誘われた時、ずっと一緒にいたいと思ってしまった。
でも、今夜は父親と約束があった。
大事な話があると言われた。なんとなく想像は付いている。
本当は、そっちよりも橋元を優先したかった。
そんな風に思う自分が可笑しくなる。
自分がどれほど嫉妬深いか分かっていたから、橋元の様にモテそうな男は敬遠していたつもりだったのに。
それでも、もう礼央の中は橋元でいっぱいになってしまった。
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