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シチ

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「摂子。開けても良いか?」

カーテンの向こうから一彦の声が聞こえて、摂子はベッドの上から声がした方に目を向ける。

「ええ。今、お乳をあげているところよ」

一彦はカーテンを開けると、素早く滑り込むように摂子が居るベッドへと入った。
病室で摂子は産まれたばかりの赤ん坊に授乳をしていた。

「吸い付きはどうだ?」

「まだ1日2日でそんなに上手くは飲めないわよ」

クスクス笑う摂子は、もうちゃんと母親の顔をしていた。
それを一彦は、穏やかな目で見守る。
摂子が母乳を与えるのは、鷹雄との子供だった。
鷹雄がいずれ美都子と離婚して、摂子は鷹雄との結婚を夢見ていたが、月の物が止まっていた事で妊娠に気がついた。
摂子に子供ができたら美都子がどんな事をするか恐ろしくて、摂子はお腹の子を守るために鷹雄の前から消えたのだった。

「生まれたばかりだって言うのに、この子は本当に別嬪さんだな」

一彦は愛おしそうに、摂子の子供を見詰める。
一彦は正二が起こした事業を手伝い、今は専務として正二の片腕になっていて、数年前から神戸の会社を任せられていた。

「毎日ごめんなさい。お仕事で疲れてるでしょ?」

「この子の顔を見たら疲れも吹っ飛ぶさ。早く一緒に住みたいでちゅねー」

一彦の赤ちゃん言葉に摂子は笑う。

「……本当に、この子を連れてかず君の家に戻って良いの?」

「良いに決まってるだろ。正二さんに摂子のことを頼まれて俺は引き受けたんだ。この先も、摂子は俺のところにいれば良い」

妊娠を知った摂子は、直ぐに正二に相談した。
美都子にバレれば危険な事は、正二もよく分かっている。
あの4人での話し合いの時、鷹雄を奪われるなら摂子を殺して自分も死ぬと言ったのは、ハッタリではないと分かっているからだった。
いくら鷹雄の子分達が摂子のボディガードをしていても、絶対に安全とは言い切れない。
摂子は鷹雄に取っては弱点であり、鷹雄に反発している幹部が、美都子に加担しないとも言い切れない。
万が一があれば、摂子と子供を失う可能性がゼロとは言い切れなかった。
下手をすれば、鷹雄の地位すら危うくするかもしれないと。
それを汲み取り、正二は摂子に、鷹雄と子供、どちらを取るか決めさせた。
摂子と子供の身を守り通すことは無理だと判断し、両方を欲するなら手助けは出来ないと、そこは正二も鬼になって摂子に決断させた。


「私、この子を産みたい。鷹雄さんの子供を産みたい」


摂子の答えを聞き、正二は神戸にいる一彦に、落ち着くまで摂子を預かってほしいと託した。
それしか、正二も摂子を助ける道が無かった。
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