貉達の燔祭 （鳴かない杜鵑 spin off３）

シチ

9

「……せっちゃん、今頃どこでどうしているのかしら」

「ん？」

「誰かに嫌われたり、疎ましくされることを私は知っていたのに、私はずっとせっちゃんに同じことをしていたわ」

鷹雄は黙って美都子を見る。突然なぜ摂子の話をするのか分からなかった。

「でもね、あの子がいなくなって本当にホッとしてる」

「まだ摂子が嫌いか？」　

「大っ嫌いよ」　

こんな時でも、やはり美都子は素直だと鷹雄は笑う。

「初めて会った時から嫌いだった。可愛くてお人形さんみたいで。きっといつか私の大事なものを全て奪われると思った」

自分のことを言われているのかと鷹雄は何も言えない。

「奪われるなら、奪ってやろうって思った」

おかしな言い方をすると鷹雄は思った。

「お前でも奪われるなんて考えとったんか？」

美都子はクスリと笑う。

「初めから分かってたわ。鷹雄が摂子と会ったその時に、摂子は鷹雄をきっと好きになってた。私のようにね」

美都子はフッと息を吐いた。

「摂子と鷹雄が愛し合う前に、私はあの子からあなたを奪ったの。私が奪われるのは嫌だったから」

「なんやそりゃ。訳分からん」

鷹雄がフッと笑う。

「つまらないプライドよ。あの子の優位に立ちたかったの」

美都子は、何があっても鷹雄から愛されないのは分かっていた。
だったら憎まれても自分に引き留めておきたかった。
摂子にだけは絶対に奪われたくなかった。

「私は鷹雄の妻よ。摂子は所詮愛人だわ。私の方が……」

言いかけて美都子は笑う。

「少しは私を愛してくれていた？」

泣きそうな笑顔で美都子は尋ねる。

「ああ。結局お前のことは捨てられんかったぐらいにはな」

「意地悪な言い方。でもありがとう。そばに置いてくれて」

「バーカ。つまんねーこと言うんじゃねーよ。お前はずっとそばに居るんだよ」

鷹雄は優しい笑顔で美都子の手を握る。
握り返す美都子の手は、もうほとんど力が入っていなかった。