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シチ

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その後も一向に摂子の行方は分からず、だからと言って流石に警察に頼る事は出来ずに、ただ闇雲に鷹雄は摂子の消息を追った。
摂子がいなくなって直ぐに、もちろん正二の所へも聞きに行ったが、正二も心当たりがないと摂子を心配する。
鷹雄は組のこともあり、摂子のことだけに心血も注げず、気が付けば、摂子がいなくなって1年近く経とうとしていた。

「美都子の容態はどうだ?」

鷹雄がヤスに尋ねる。

「特に今日も変わりはないと」

「そうか。分かった」

不幸は重なるとはよく言った物で、美都子は癌に侵されていた。
ある日、また熱が続き、病院で検査を受けると肺癌が見つかってしまったのだ。
若かったせいか、美都子の癌はあっという間にリンパ節にまで移転し進行していた。
もう末期だと宣告され入退院を繰り返していたが、現在は激しい痛みにモルヒネも投与され、もう最期を迎える時が近付いていた。


『戸灘んとこの美都子が結核になったらしいぞ』

『ねぇ、なんでみっちゃんと遊んだらダメなの?』

『美都子、近寄るんじゃねーよ!結核が移るだろうがッ!』

『あっち行って!』

『美都子がさ、結核なったんだってさ』


瞑った目から涙が流れ落ち、その顔を鷹雄は見ていた。
指先でその涙の雫をすくうと、美都子は頬に触れた指先の感触で目を覚ました。

「……鷹雄?」

「ああ。静かに眠っとったが、涙が落ちて来よった」

美都子も、自分が泣いていたことに気がつき手の甲で涙を拭う。

「私が結核になって、その時の夢を見ていたわ」

「どこか痛むか?」

痛みはモルヒネで抑えているとは言え、あまりにも衰弱している美都子を鷹雄は労る。

「……あちこち痛いわ」

儚気な笑顔に、鷹雄は眉間に皺を寄せる。

「医者にもっと薬を増やしてもらうか?」

美都子は首を振った。
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