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シチ

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結局、鷹雄の子供は真一ただ1人。
その真一も、今では音大に通う大学生になっていた。
もちろん美都子は一度だって、真一を息子だと思ったこともなく育てたこともない。
今にして思えば、摂子のように真一と触れ合えていたら、今より鷹雄に愛されていたのではと思うこともあった。
そうすれば、摂子の様に愛されていたのかもと。

「そうね。過去を振り返ったって戻りはしないものね。私が鷹雄の妻だと言うことも、この先も変わらないことだし」

鷹雄に1番に愛されなかったが、自分は鷹雄の妻だとその座を譲るつもりはなかった。

「お前は本当につえーよ」

やはり戸灘の娘だと度々思うが、美都子の芯の強さに鷹雄は笑う。
美都子が言った様に、もし美都子が男だったら、政龍組の組長の座を争っていたかもしれない。
この地位を手に入れるのは、もっと困難だっただろうと思った。

「そう?」

美都子は尋ねて苦笑する。

「これでもビクビクしてるのよ。いつあなたから離婚を突きつけられるか。勿論、私は何があっても離婚するつもりはないけどね」

牽制しながら美都子は言う。
三木も亡くなり、離婚を止めてくれる美都子の味方は、もう誰1人としていない。 

「じゃあはっきり言う。俺はお前と別れる。そのつもりでいてくれ」

鷹雄の冷たい言葉に、いよいよこの日も訪れたのかと、美都子はこの先の覚悟を決めるしかない。
それでも美都子は何があろうと、離婚届に絶対に判を押すつもりはなかった。
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