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シチ

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五代目政龍組組長の三木が、病で呆気なくこの世を去り、鷹雄が六代目政龍組組長を襲名し、歴代の組長が築き上げて来た政龍組の体制は関東では最大となっていた。
しかも鷹雄が組長となった歳は、初代の北澤誉の45歳を抜き、最年少の44歳だった。
それでも三木を支えていた幹部達は、三木の遺言に異議は唱えず、鷹雄を支持する者が多かったのだった。

「お父さんが死んでから、なんかあっという間だったわ」

鷹雄が襲名披露で着た、紋付の羽織袴を美都子は畳みながら、政龍組の紋を指先で撫でた。

「考えてみたら私たちも、もう20年近く夫婦でいるのよね」

しみじみ語る美都子に、鷹雄は何も言葉をかけないが、美都子をただじっと見た。

「私の人生なんて、鷹雄と違って極める物は何もなかったわ。所詮女なんて、ただのお飾りですものね」

男として生まれていたら、きっと今のような惨めな人生ではなかったと美都子は思った。
鷹雄の立場に、自分がなっていたのではと。

「ふふふ」

突然美都子が笑い出した。

「何が可笑しいんだ?」

「いえ、何でも。ただちょっとだけ、あり得ないことを想像したら可笑しくなって」

美都子が何を考えているのか、鷹雄は全く興味はなかった。

「私が男だったら、どんな世界だったんだろうと思ってね」

「男に生まれたかったんか?」

「今思えばよ。子供の時から体が弱くて、お父さんに可愛がられてた頃や鷹雄と出会った時は、そんな事を考えたこともなかったけどね」

女でいる事が辛かったことなどなかった。
女だったから、愛する鷹雄と結婚も出来たのだから。

「鷹雄との間に子供が出来たら良かったのに。そうしたらこんな事、思うこともなかったのにね」

「仕方ないだろ、出来なかったもんはどうしようもない」

美都子の気持ちを鷹雄は分かろうとはしない。
どんなに美都子が、鷹雄との子供を望んでいたか。
それが例え、鷹雄を繋ぎ止めておくだけのものだとしても。
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