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ロク

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美都子は帰宅すると、鷹雄が早く帰らないかと待ち侘びた。

「姐さん、オヤジが戻りました」

子分が鷹雄の帰りを知らせて来たので、美都子はウキウキしながら鷹雄を出迎えた。

「お帰りなさい」

美都子の機嫌が良いのが、鷹雄には不気味だった。

「楽しそうな顔して、何か良いことでもあったんか?」

鷹雄は部屋に向かう。

「今日ね、兄さんの所に行ったのよ。久しぶりに一彦や叔母さんとも会ってきたわ」

絶対に寄り付かなかったくせに、何しに戸灘の家に行ったのかと鷹雄は考える。

「一彦も大きくなって、もう大学生ですってね」

「ああ」

鷹雄は無関心に返事をする。

「私ね、良いこと思いついたのよ」

美都子の良い事に鷹雄は怪訝な顔を向けた。

「兄さんは結婚しそうにないし、どうせなら一彦に跡を継いでもらったらって話したのよ」

「どういう風の吹き回しか?戸灘の家の事に口を挟むなんて」

どんな裏が有るのかと鷹雄は美都子を睨む。

「やぁね、怖い顔して。私は戸灘の家を出た人間だけど、戸灘家の事は心配してるのよ。兄さんが結婚するつもりがないなら、一彦と摂子に継いで貰えば良いと思って」

「!」

美都子の言った事が聞き間違えかと鷹雄は動きが止まった。

「聞こえなかった?せっちゃんが一彦と結婚したら良いと思って」

にこやかに笑う美都子の瞳は、邪な影しか見えなかった。

「……そう言うことか。摂子と一彦を無理矢理結婚させようって魂胆か」

鷹雄は馬鹿馬鹿しくて可笑しくなる。
摂子は自分のモンだと言ってしまいたくなるのをグッと堪えた。

「魂胆だなんて人聞きの悪い」

美都子はクスクス笑う。

「一彦の両親も乗り気なのよ」

美都子は嘘をつく。

「ほぉ。一彦とねー」

鷹雄と摂子を離すために、美都子が無理矢理縁談を嗾けたのは鷹雄には良く分かった。
そこまでして、摂子を排除したい気持ちも良く分かった。

「一彦もまだ学生だし、式は大学を卒業したらすぐにでもと思っているのよ。あなたも賛成でしょ?せっちゃんだってもう20歳よ。結婚したっておかしくない歳なのよ」

美都子はもうそのつもりで動いている感じで、鷹雄は先手を打たれたと思った。

「良い家に嫁ぐのが女の幸せでしょ」

「……さあな」

鷹雄があまりにも素っ気無いので、美都子は内心腹を立てていた。
それでもここで鷹雄と喧嘩になっては、摂子と一彦の結婚の妨げになると堪える。

「摂子にも聞いてみる。俺から話しておく」

絶対に美都子が摂子に関われない様に鷹雄はガードする。
美都子は我慢できずにカッとなる。

「……いい加減、せっちゃんに会わせてくれても良いんじゃない?」

「お前、どの口で言うん?お前が摂子をこの家から追い出したんだろ。望み通りお前の前から摂子を消してやっただろ」

「……それでコソコソ会ってるんはどういう了見なの?」

「風呂入ってくる」

美都子のことを無視して鷹雄は部屋を出て行った。
美都子は唇を噛み締め、何がなんでも摂子と一彦を結婚させてやると決めた。
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