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ロク

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摂子は静かに鷹雄の病室に入ると、鷹雄が眠るすぐ側の椅子に腰掛け、早く元気になってと眠っている鷹雄のそばで泣く。
美都子が倒れた事で、ヤスがやっと摂子を鷹雄の病室に呼べたのだった。
鷹雄が1番望んでいることをヤスは承知している。

「鷹雄さん」

摂子の声が届いたのか、鷹雄は瞼をピクリと動かすと、摂子の匂いを感じ目をゆっくりと開けた。

「鷹雄さん!」

鷹雄が目を覚ました事で、摂子が鷹雄の名を再び呼ぶ。

「……やっぱり、摂子か。お前の匂いがした」

酸素マスク越しの鷹雄の声が摂子の耳に届いた。

「目が覚めてよかった!看護婦さん、呼ばないと」

摂子が枕元のスイッチを押そうとすると、鷹雄はその手を軽く握った。

「もう少しだけ、お前とこうしていたい。お前に、そばにいて欲しい」

鷹雄の弱々しい声に、摂子は胸が一杯になる。
もう二度と会えないと思っていたので、鷹雄が無事に目を覚ましてくれて摂子は嬉しくて堪らない。

「鷹雄さん」

「お前が、そばにいてくれたから、目が覚めたんだな」

摂子は鷹雄の手を両手で握り涙を流す。

「怖かった。もう二度と鷹雄さんに会えないって思ってた。良かった!」

「お前に会わずに、死ぬわけないだろ。俺が今度は、お前に救われたな」

摂子は泣き笑いの顔で鷹雄を見つめる。

「また、お前の笑顔が見れたな。これからも、ずっとそばで、笑ってくれや。お前の笑顔が、俺は大好きだ」

摂子は笑顔でうんうんと頷く。
ドアがノックされて、摂子はビクッとして振り返った。
眠っているはずの美都子かと思い心臓がドキドキする。

「摂子。声がしとるけど、何かあったか?」

ヤスの声に、摂子はホッとして鷹雄を見ると、鷹雄が笑顔で頷いたので、摂子は椅子から立ち上がりドアを開けた。

「鷹雄さんが、目を覚ましました」

「マジかッ!会長!」

外で待機していた、鷹雄の舎弟や子分達が病室に入ってきた。

「心配かけたな。もう、大丈夫だ」

鷹雄の声に皆が安堵した。
一番安堵したのは、もちろん摂子だった。
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