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夜更けに鷹雄は家に帰り着いた。
最近は夜更けに帰る事が多い。
襖の隙間から灯りが漏れていて、摂子の部屋の前で鷹雄は足を止めた。
「起きとんのか?」
美都子に気を遣って、鷹雄は小声で襖の前で摂子に声をかける。
「すみません!直ぐに電気消しますッ!」
電気を無駄遣いしてるのを、咎められているわけではないのは分かっているが、鷹雄が夜更けに近くにいるだけで摂子は胸が苦しくなる。
「ああ、良いよ。そんなのは気にするな。どうせ本でも読んでんだろ?」
小説を胸に抱きしめ摂子は頷く。
「とても楽しいお話なの。しんちゃんにも勧めたくて」
「俺と一緒で勉強嫌いの真一が本なんて読めるんか?」
摂子との会話が楽しくて、鷹雄は声が弾む。
「しんちゃん勉強好きだよ。特に音楽が好きで、いっつも私に歌って聞かせてくれて」
摂子の声を聞いていた鷹雄が摂子の部屋の襖を開けた。
摂子はびっくりして鷹雄を見る。
煙草と石鹸と女の香水の香りの鷹雄に摂子はドキドキする。
「やっぱり帰った時にお前の顔を見るとホッとする。今日も生きて帰ってきたと実感する」
鷹雄の言葉が、美都子から受けた摂子の苦しみを軽くする。
たとえこれ以上近くに行けなくても、子供の頃から守ってくれた鷹雄が大好きで堪らない。
「お、おかえり、なさい」
なんと言って良いか分からなくて摂子が言うと鷹雄はプッと笑う。
「今更か?」
「言う暇が無かったから」
摂子が愛らしくて、鷹雄は笑顔になる。
「家のこと以外に真一の世話や勉強まで見てるんだから、あまり夜更かししないで早よ寝れよ」
「うん。おやすみなさい」
摂子は真っ赤になる。
「ああ。おやすみ」
鷹雄は優しい眼差しでそう言うと、摂子の部屋の襖を閉めたあと、視線を感じてギクリとする。
薄暗い廊下に、美都子が鬼の形相で鷹雄を睨んで立っていた。
「私に先に挨拶もせずに、摂子の部屋に寄るなんて、どう言う神経してるのかしら?」
鷹雄は美都子をじっと見る。
「くだらねー事をグジグジと。前を通ったら、電気がまだ付いていたから声を掛けただけだ。別に部屋に寄ったわけじゃねぇ」
鷹雄は声を荒げることもなく冷静だった。
「せっちゃんだってもう子供じゃないわッ!」
「おい、大声を出すな」
鷹雄はムッとして自分の部屋へ向かう。
摂子は美都子に見られていたんだと、襖のそばに寄って美都子と鷹雄の会話を聞いていた。
「大声を出させるようなことばかりするからでしょ!なんで毎晩浮気してくるのよ!」
「……俺がそう言う男だって何度言えば気がすむんか?ええ加減にせーよ」
鷹雄は部屋の中に入った。
「せっちゃんの部屋で何をコソコソしてたのよッ!私に言えないことしてたんでしょ!」
「やかましいわッ!ええ加減にしろっちゅーのが分からんのかッ!俺が摂子に何かするわけないやろうがッ!」
もうこれ以上は言わせるなと、鷹雄は美都子を部屋の入り口で睨む。
「部屋に早よ入れ!」
「どうせせっちゃんが誘惑してるんでしょ?」
鷹雄は堪忍袋の尾が切れかかる。いつまでもグダグダと言う美都子の手を握ると部屋に入れようとした。
「せっちゃんはね、そうやって男に媚びるのよッ!私のお父さんにもそうだった!せっちゃんはね、お父さんの愛人だったんだからッ!」
最近は夜更けに帰る事が多い。
襖の隙間から灯りが漏れていて、摂子の部屋の前で鷹雄は足を止めた。
「起きとんのか?」
美都子に気を遣って、鷹雄は小声で襖の前で摂子に声をかける。
「すみません!直ぐに電気消しますッ!」
電気を無駄遣いしてるのを、咎められているわけではないのは分かっているが、鷹雄が夜更けに近くにいるだけで摂子は胸が苦しくなる。
「ああ、良いよ。そんなのは気にするな。どうせ本でも読んでんだろ?」
小説を胸に抱きしめ摂子は頷く。
「とても楽しいお話なの。しんちゃんにも勧めたくて」
「俺と一緒で勉強嫌いの真一が本なんて読めるんか?」
摂子との会話が楽しくて、鷹雄は声が弾む。
「しんちゃん勉強好きだよ。特に音楽が好きで、いっつも私に歌って聞かせてくれて」
摂子の声を聞いていた鷹雄が摂子の部屋の襖を開けた。
摂子はびっくりして鷹雄を見る。
煙草と石鹸と女の香水の香りの鷹雄に摂子はドキドキする。
「やっぱり帰った時にお前の顔を見るとホッとする。今日も生きて帰ってきたと実感する」
鷹雄の言葉が、美都子から受けた摂子の苦しみを軽くする。
たとえこれ以上近くに行けなくても、子供の頃から守ってくれた鷹雄が大好きで堪らない。
「お、おかえり、なさい」
なんと言って良いか分からなくて摂子が言うと鷹雄はプッと笑う。
「今更か?」
「言う暇が無かったから」
摂子が愛らしくて、鷹雄は笑顔になる。
「家のこと以外に真一の世話や勉強まで見てるんだから、あまり夜更かししないで早よ寝れよ」
「うん。おやすみなさい」
摂子は真っ赤になる。
「ああ。おやすみ」
鷹雄は優しい眼差しでそう言うと、摂子の部屋の襖を閉めたあと、視線を感じてギクリとする。
薄暗い廊下に、美都子が鬼の形相で鷹雄を睨んで立っていた。
「私に先に挨拶もせずに、摂子の部屋に寄るなんて、どう言う神経してるのかしら?」
鷹雄は美都子をじっと見る。
「くだらねー事をグジグジと。前を通ったら、電気がまだ付いていたから声を掛けただけだ。別に部屋に寄ったわけじゃねぇ」
鷹雄は声を荒げることもなく冷静だった。
「せっちゃんだってもう子供じゃないわッ!」
「おい、大声を出すな」
鷹雄はムッとして自分の部屋へ向かう。
摂子は美都子に見られていたんだと、襖のそばに寄って美都子と鷹雄の会話を聞いていた。
「大声を出させるようなことばかりするからでしょ!なんで毎晩浮気してくるのよ!」
「……俺がそう言う男だって何度言えば気がすむんか?ええ加減にせーよ」
鷹雄は部屋の中に入った。
「せっちゃんの部屋で何をコソコソしてたのよッ!私に言えないことしてたんでしょ!」
「やかましいわッ!ええ加減にしろっちゅーのが分からんのかッ!俺が摂子に何かするわけないやろうがッ!」
もうこれ以上は言わせるなと、鷹雄は美都子を部屋の入り口で睨む。
「部屋に早よ入れ!」
「どうせせっちゃんが誘惑してるんでしょ?」
鷹雄は堪忍袋の尾が切れかかる。いつまでもグダグダと言う美都子の手を握ると部屋に入れようとした。
「せっちゃんはね、そうやって男に媚びるのよッ!私のお父さんにもそうだった!せっちゃんはね、お父さんの愛人だったんだからッ!」
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