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まだ美都子と三木の関係性を知らず、鷹雄は三木に美都子との離婚を匂わせたことがあった。 

「オヤジの死に際に、俺は美都子を頼まれた。お前も覚悟の上で美都子を娶ったんだ。離婚なんて寝ぼけたことぬかすな。オヤジはお前の女遊びも黙認しとったんだから、お前もオヤジとの約束は最後まで守れ」

この言葉を聞いた時、鷹雄は美都子の本性を見た気がした。
足繁く三木の元に通っていたのは、これが理由かと悟った。
三木が美都子を可愛がるのは、戸灘の娘だったこともあるが、戸灘を守るために三木自身も負傷し、その世話の一切を美都子が看たからだった。
鷹雄を離さないために三木を自分の味方に付けたのだ。


「すまんの、みっちゃん。オヤジを守れんかった」


戸灘の葬儀も終わり、美都子もまだ悲しみの中、入院中の三木の元に訪れた時だった。


「お父さんの事は、いつまで経ってもこの悲しみから抜け出せないけど、私には鷹雄もいるし、組のみんなも力になってくれてるわ」


美都子が涙ぐみながら言うと三木は頭を下げた。


「オヤジは、みっちゃんのこと心配してた。子供の中で、一番みっちゃんを愛していたからな。鷹雄は女にだらしねぇから、みっちゃんが泣かされていることも知っとる。でもな、みっちゃん。あんたが選んだ男だ。俺も鷹雄の事は買ってる。鷹雄が組に対して不義理さえせんかったら、俺は鷹雄に跡目をいつか譲るだろう。だからな、みっちゃんも辛抱せぇ。俺がお前を守ったる。オヤジができなかった事、みっちゃんのことも俺が引き受けるからな」


政龍組の組長の三木に、鷹雄ももちろん逆らえるはずがなかった。
その三木が美都子の後見人にもなったのだから、美都子に逆らえる者も戸灘の時のようにいるわけがない。 
三木と美都子の間で交わされた親子の盃の様な関係に、鷹雄はやはり摂子を新居に連れてきて正解だと思った。
鷹雄の目が届かない、前の戸灘の家に残しては、それこそ摂子は美都子のいいように扱われるのは目に見えている。
美都子の中にある、したたかさやあざとさに、鷹雄は笑うしかなかった。
もちろん、鷹雄とて打算がなかった訳ではない。
鷹雄を拾ってくれた杉田への恩義、歴代の組長に対しても仁義を果たしてきた。
だが結局は、自分の欲望のために、この世界で生きてきたんだと鷹雄は思った。
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