上 下
41 / 81

10

しおりを挟む
鷹雄は摂子にも引っ越すことを告げた。

「嬉しい!今まで通りしんちゃんと暮らせるんだ」

摂子は心底ほっとしていた。
戸灘が亡くなり、戸灘から受ける性愛から解放された事も嬉しかったが、鷹雄や真一と共にこの家から出ていけることが本当に嬉しかった。

「ただ、新居に移っても美都子からどんな扱いを受けるかは覚悟してくれ。お前を守るためには、美都子の機嫌も損ねるわけにいかんから。大丈夫か?」

鷹雄の優しさに摂子は泣きそうなほど嬉しい。
いつも美都子がきつい事を言っても、酷くならないように鷹雄は摂子の肩を持つ事はしない。その分、必ず摂子をフォローする。
美都子を切り捨てるのは容易いが、それは摂子のためにもならないと鷹雄は分かっている。
いざとなれば、美都子が摂子に取り返しのつかない事をしてしまうのではないかといつも考えているからだった。
いつ誰が敵になるか分からない世界で、身内の事で足元を掬われる事は鷹雄も避けている。

「私、今のままで幸せなの。しんちゃんと鷹雄さんのそばにいたいの。この先も、2人のお世話をしたいの」

摂子が自分を慕ってくれるのが鷹雄は嬉しくてならない。
摂子をこの家に置いていくのは、まだ独身の正二が摂子に手を出すかもと考え嫌だったのと、鷹雄も自分を制しながらも摂子に惹かれていたからだった。
もう17歳になった摂子を、このまま誰にも穢されたくなかった。
もちろん、戸灘と摂子の間にあった事を鷹雄は全く知らない。摂子は処女だと思い疑ってもいない。
本当に摂子が心底惚れた男ができたら、その時は摂子を手放さなくてはいけない事は重々承知しているが、今はまだ自分のそばで笑っていて欲しかった。

「真一は摂子がおらんと、一人でまともに飯も食えんのは悩むところだがな」

鷹雄がそう言って笑うと摂子も笑う。

「しんちゃんだって来年は小学生だよ。いつまで私がお世話できるか分からないけどね」

摂子が少しだけ寂しそうな顔をすると、鷹雄は摂子の頭を優しく撫でる。

「バーカ。摂子はいつか自分の子供の世話すんだよ」

「だから、それはッ」

摂子は無理だと言おうとしたが鷹雄は首を振る。

「いつか必ず、惚れた男のガキを産むんだよ。絶対だ」

鷹雄の目が優しくて、摂子はもう否定ができなかった。


 いつか必ず。


そんな風に愛し愛されることがあるのかと、鷹雄以上の男が現れるのだろうかと、摂子は思って胸が切なくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【R18】どうか、私を愛してください。

かのん
恋愛
「もうやめて。許してッ…」「俺に言うんじゃなくて兄さんに言ったら?もう弟とヤリたくないって…」 ずっと好きだった人と結婚した。 結婚して5年幸せな毎日だったのに―― 子供だけができなかった。 「今日から弟とこの部屋で寝てくれ。」 大好きな人に言われて 子供のため、跡取りのため、そう思って抱かれていたはずなのに―― 心は主人が好き、でもカラダは誰を求めてしまっているの…?

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

全ては望んだ結末の為に

皐月乃 彩月
恋愛
ループする世界で、何度も何度も悲惨な目に遭う悪役令嬢。 愛しの婚約者や仲の良かった弟や友人達に裏切られ、彼女は絶望して壊れてしまった。 何故、自分がこんな目に遇わなければならないのか。 「貴方が私を殺し続けるなら、私も貴方を殺し続ける事にするわ」 壊れてしまったが故に、悪役令嬢はヒロインを殺し続ける事にした。 全ては望んだ結末を迎える為に── ※主人公が闇落ち?してます。 ※カクヨムやなろうでも連載しています作:皐月乃 彩月 

処理中です...