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戸灘が帰ると和子が病室に入ってきて、戸灘が持ってきたリンゴの皮を剥き始めた。
美都子は目を瞑ってため息をつく。

「美都子さん?お加減でも悪くなりました?」

心配そうに和子が尋ねる。

「いえ、大丈夫よ。ちょっと」

美都子が今回熱を出した原因を誰も知らない。
戸灘に手を握られた時に払ってしまったのは、それは、昨夜の出来事が原因だった。
珍しく夜中まで小説を読んでいた美都子は、不意にトイレに行きたくなってしまった。
真っ暗で明かりの少ない屋敷の中を、トイレまで怖くて行きたくない。
それもあって美都子は寝る前に必ずトイレを済ませていた。だが、昨夜に限ってまた行きたくなってしまった。
屋敷には夜になると、戸灘と美都子と摂子しかいない。
戸灘の子分や舎弟達は、渡り廊下の先の別棟にいるからだ。
夏が過ぎ、もう秋も深まる時期で夜は長い。


 まだ、せっちゃん起きているかしら。
 せっちゃんについて来てもらおう。


美都子はそう思って摂子の部屋に向かう。

「せっちゃん、せっちゃん。まだ起きてる?おトイレに一緒に行ってくれない?」

返事がないので美都子は摂子の部屋の襖を開けた。
暗がりの中布団に近づくが摂子の姿がなかった。


 せっちゃんもトイレに行ってるのかも。


美都子はそう思うとトイレに行くのも怖くなくなり、廊下を歩いて寒々としたトイレに向かう。
トイレの扉を開けたが摂子の姿はなかった。


 せっちゃん、トイレじゃなかったのね。


美都子はそう思いながら用を足して自分の部屋に戻ろうと思った。
ふと摂子が部屋に居なかったのを不審に思い、まさか夜中に鷹雄の元にいるのではと美都子は思った。
そう思うと美都子は一気に怒りが込み上げ、渡り廊下に足を進めた。
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