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イチ

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鷹雄は組の仕事の他にも、戸灘の家の仕事も積極的に動いて、戸灘の家にも慣れてきていた。
1950年から始まった戦後復興期から、1954年からの高度経済成長期で、戦後の暗い時代も過去のことになりつつある時代だった。 

「鷹雄、少し休んだら?」

美都子が縁側にやって来て、鷹雄にお茶を運んできた。

「すみません、お嬢にそんな事してもらって」

庭の草刈りを中断して、首に掛けていた手拭いで汗を拭きながら鷹雄は縁側に腰掛けた。

「お嬢、て呼び方、やめて欲しいな。美都子って呼んで欲しい」

頬を少し染めて美都子は言う。

「あー。前の親分の家でも、娘さんをお嬢って呼んでたもんで。直します」

にっこり笑って鷹雄は言う。
美都子はその笑顔だけでドキドキする。
このままずっと2人きりで過ごしたいと思った。

「摂子はまだ学校から戻らないんですか?」

鷹雄の口から摂子の名前が出て、美都子は不機嫌な顔になる。

「せっちゃんがいないとつまらない?」

拗ねる様に美都子が言うと鷹雄は美都子を見る。

「あ、いえ、そう言う事じゃなくて。お嬢、美都子さんもひとりでつまらないかと思って」

鷹雄はそう言うと茶を啜った。

「私、もう遊び相手が必要な子供じゃないわ。もう、結婚だってできる。せっちゃんがいなくても、何もつまらなくもないし寂しくもないわ」

美都子は熱い目で鷹雄を見る。
鷹雄はその視線を感じながら美都子を見ない。
美都子が自分に好意を持っているのも、とうに気がついていた。
ただ相手は6歳下の親分の娘。
バツイチで真一がいる自分が、迂闊に手が出せる相手でもないし、手を出す気もなかった。
それに外に出れば女に不自由がなかったからだ。

「そうですね。変に気を遣ってすみません。さて、日が落ちる前にもう少し草を刈っておかないと。ご馳走さんでした」

鷹雄は立ち上がり草刈りを再開する。
素っ気ない鷹雄だったが、その硬派な雰囲気に美都子は鷹雄に更に好意を寄せる。
いつか自分だけを見て欲しいと思った。
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