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イチ

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美都子と摂子は座敷を出て、摂子が自分の部屋に戻ろうとするのを美都子は目で追う。

「勘違いしちゃダメよ。鷹雄だって、せっちゃんのこと、本当は気味が悪いと思ってるのよ!珍しい子って思ってるのよ!お父さんの手前、ああ言っただけなのよ!真一を使って媚び売って。厭らしい子」

6つも年上の美都子がムキになって摂子に言う。
その辛辣な言葉に摂子は傷つく。

「…………分かってます。しんちゃんは本当にただ可愛かったから」

小声で摂子はそう言って足早に自分の部屋に入る。
美都子は、自分が言ってしまった心ない言葉にグッと胸が痛くなる。
本当は、摂子の様な子に優しくしてあげたいと思う気持ちもある。
好きで混血に生まれて来たわけでも、親に捨てられたわけでもない。
そんな事は十分に分かっている。
自分だって結核になった時、みんなから疎ましくされた。
近づくことを嫌がられた。
完治した今でも、それは心の傷になっている。
でも、何故か摂子には優しくなれない。
自分より劣っている摂子を、可哀想だと同情しながらも好きになれなかった。
そして今回、鷹雄の存在を知り、美都子は更に摂子が疎ましい。
鷹雄が摂子を見た時の優しい瞳。自分には向けられなかった瞳が悔しかった。


 せっちゃんなんて、誰からも愛されないのよ。
 鷹雄だってきっとただの同情だわ。


自分に言い聞かせる様に美都子は心の中で呟いた。
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