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イチ

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鷹雄の後ろに、座布団の上で寝かされている赤ん坊に摂子は気がつく。

「赤ちゃん」

摂子が見たそうにするので鷹雄は摂子を手招く。

「可愛い」

摂子は、手を握ってスヤスヤ眠る鷹雄の息子を眺める。

「この子、なんて言うんですか?」

真一しんいちだよ」

「真一ちゃん。しんちゃんて呼んでいいですか?」

嬉しそうに摂子が言う。鷹雄は摂子を優しい目で見て頷いた。
その二人のことを、美都子は険しい顔で見つめる。
美都子は真一には一切の興味がなかった。鷹雄の前妻の子と言う感情だけだった。
可愛いと言う思いより、逆に面倒だと思ってしまっていた。

「しんちゃん。摂子だよ。仲良くしてね」

大切な者を見るように摂子は真一を見つめ続ける。

「摂子は赤ん坊が好きなのか?」

鷹雄の問いに摂子は頷く。

「孤児院でも赤ちゃんのお世話してたから。みんな可愛かった。みんな私に懐いてくれた」

孤児院での生活は、辛い生活だけではなかったんだと鷹雄は思った。
この見た目で、どれ程多く傷ついて来たのかと、そして美都子の態度を見て、この家でまだ傷つけられているんだろうと鷹雄は思った。

「そんなに真一が気に入ったんなら、摂子が真一の世話をするが良い」

戸灘からそう言ってもらえて摂子は嬉しくなった。
摂子は自分が真一を大切に世話をするんだと、この家での光を見た気がした。
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