僕と貴方と君と

五嶋樒榴

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動物園で手を繋ぎました。

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電車で座れると、明星は美峰の手を繋いだまま寄っかかって寝てしまっていた。

「疲れたんだね。天使だなぁ」

美峰がほっこりしながら明星を見つめる。ふたりの前に立って吊革に掴まっていた優星も明星に優しい眼差しを向ける。

「柊木さんに良いところ見せたくて頑張ってましたからね。すみませんでした。せっかくの休日に子守の手伝いさせて」

優星は美峰に謝る。

「気にしないでよ。僕も楽しかったし。動物園なんてこんな機会がなければ行けなかっただろうから」

ゲイの自分が、この先動物園に行く確率はほぼないと美峰は思った。
もう周りは結婚し始めている。子供がいる友人も増えてきた。
でもこの先、結婚することも子供を持つこともない自分が、動物園に行くことは皆無だと思っている。
この貴重な時間を与えてくれた、優星と明星に感謝の気持ちが芽生えていた。

「あの、また、誘っても良いですか?明星もすごく嬉しそうだったし、俺も3人で出掛けたいし」

少し緊張しながら優星は言う。
美峰は嬉しくて満面の笑みになった。

「僕で良ければまた行きたいよ!是非誘って欲しいな」

美峰の言葉に優星はホッとした。

「すげー嬉しいです。そう言ってもらえて。俺、融資の仕事何も分かってなくて、先輩からも自分で率先して学べって言われて。でも柊木さんは、俺が質問するとすごく丁寧に教えてくれた。だから俺、厳しい仕事にもついてこれたし。柊木さんがいてくれたおかげです」

確かに銀行業界は厳しい。場所によっては新人の離職者も激しい。
業種は違えど、優星がそんな風に言ってくれて、美峰も役に立てたことが嬉しかった。

「僕なんかで役に立てたなら嬉しいよ」

美峰の笑顔が優星には眩しかった。
美しい笑顔に癒される。

「ズルいです。なんで柊木さんてそんなに笑顔が素敵なんですか?ずっと思ってた。俺、そんな風に優しい顔で笑えないから」

拗ねるように優星は言う。
真っ赤になって美峰は照れる。
優星にそんな風に言われたら、嬉しくて恥ずかしくて、擽ったくて。

「やだな。僕、そんな風に言われたら恥ずかしいよ。葉山君こそ、優しい笑顔だよ。僕は葉山君の明星君を見る笑顔にいっぱい癒されたし」

今度は優星が真っ赤になった。美峰に褒められて嬉しいと顔が綻ぶ。

「明星に対しても、凄く優しいし。明星なんて、俺が先に柊木さんと知り合ったのに、簡単に柊木さんを名前で呼んで甘えて」

不満そうに不機嫌な顔で優星は言う。美峰は可笑しくなってつい笑ってしまった。

「明星君はとても良い子だね。寂しいことも素直に表現できるし、大人の顔色も窺わないし。葉山君がちゃんと育ててきた証拠だよ」

にっこり笑って美峰が言うと、優星は美峰を見つめてつい膝の上の美峰の手を握った。

「ありがとうございます!柊木さんにそんな風に言われてめっちゃ嬉しい!」

優星の手の温もりを感じて美峰は真っ赤になった。
手を握られて嬉しくて、心臓の音が優星に聞こえたらと焦ってしまう。

「葉山君、手…………」

恥ずかしくて堪らず美峰が言うと、優星も焦った顔で手を離した。

「あ、すみません!ついッ!」

慌てて優星が手を離した。
本当はもっと握っていて欲しい。
でもこれ以上、優星の温もりを感じたら、自分の気持ちを告白したくなってしまうが、次もプライベートで会えると分かったら、今は自分の気持ちを抑えるしかなかった。
しばらく沈黙。
降りる駅になった。

「家まで一緒に行こうか?」

駅に降りて優星が明星をおんぶしている。たまに目を覚ますが、はしゃぎ過ぎてよほど疲れているようだ。

「大丈夫です。でも目を覚まして柊木さんが居なかったらきっと怒るかも。面倒じゃなければ、家まで一緒に来てくれますか?」

明星を思っての言葉だろうと分かっていても、まだ優星と一緒に美峰もいたかった。

「うん。良いよ。まだそんなに遅くないし、家まで送るよ」

次の乗り換えの電車は座れなかったが、寝ぼけ眼の明星は優星に寄っかかりながら美峰のジャケットを掴んで離さなかった。
優星とまだ一緒にいられて美峰は幸せだった。
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