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『男女の愛はないです。なんて言い切るから、冷え切ってて僕に慰めて欲しいのかと思ってたのにさ。それなのに安定の惚気だし』

四条が呆れるようにクスクス笑うので、妙子は恥ずかしくて擽ったい。

「え、と。仕方ないです。私が幸せにしたいのは遼一さんだけですから」

『マジにブレねーしッ!はいはい、分かりました。本気で悩んでたのも分かったし、旦那大好きもよく分かったし。あーあ、旦那と知り合う前の繭村さんに出会いたかったわ。そうしたら絶対モノにしてたな』

「だから、それは今の私を気に入ってくれただけで」

『見た目のこと言ってるならそれは違うよ』

四条は妙子の言葉を遮った。

『僕、変わる前の繭村さんの事も知ってる。僕が繭村さんの企画に惚れて、どんな人か気になって見に行ったことがある。でもその時には、もう今の旦那さんと付き合ってるって聞いた。繭村さんの企画がウチで採用されて、どうしても気になって親しくなりたくて、興味本位で飲みに誘っちゃったけどさ』

四条は初めて見た時の地味で目立たない妙子が、上司に褒められた時に見せた笑顔や、一つに束ねてはいたが美しい長い黒髪が印象的で、垣間見ただけだったが妙子の人柄がわかった気がして気になった。
話を聞いていて、そうだったんだと妙子は恥ずかしくなる。

『実に惜しい。でも仕方ないね。恋愛にはタイミングは必要不可欠だ。チャンスを掴み取らなければどうにもならない。繭村さんは経緯はどうであれチャンスは掴み取ったんだから、あとは後悔しないようにするだけじゃん』

四条の言葉に妙子は勇気を貰えた。
遼一がどんな思いで妙子と結婚したのかは分からないが、本当に嫌なら結婚なんてしないはずだ。
負担というのがどういう事かは分からないが、妙子を人として好きだという気持ちは嘘ではないと思った。

「四条さんと話せて自信が持てました。私、もっと遼一さんと歩み寄れるように頑張りますッ!」

『うん。あ、でも繭村さんが離婚したら、僕、本気でチャンス掴みにいくから覚悟しとけよ』

本気とも冗談とも取れる四条の言葉に妙子は苦笑する。

「四条さん。ありがとうございます。そう言ってもらえるだけでもすっごく嬉しいです」

あははと四条は笑う。

『今度弱音吐いたらマジで口説くからな。ま、そんな日もなさそうだけどな。じゃあ、お腹出して寝るなよ。おやすみ』

「子供じゃないしッ!ありがとうございました。おやすみなさい」

電話を切ると、相談できて、話を聞いてもらえて良かったと妙子は思った。
そしてクヨクヨしていないで、ちゃんと遼一と向き合おうと決めた。
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