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対面

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「なーんか、ここに居ると平和ボケしそうだね。」
 ハミルはリュートの部屋で本を読みながらのんびりしている。

 アーディルが戦場へ旅立ってからもうすぐ三ヶ月が経とうとしているが、この邸の中は何も変化がなく、強いて言えば、庭師が来ないせいで、庭が荒れているというぐらいだった。

「う、うん…。」
「あれ?リュートさん、もしかしてちょっと早く発情期来そうなの?」
「かもしれない。」
「なら、無理しないで横になりなよ。」


*****


 リュートは番を持ってから初めて番のいない発情期を迎えた。
 体が熱く、溜まった欲が少しも発散できない。

 そんな中リュートは夢を見た。
 アーディルに抱かれ貫かれる夢を。
 まだ欲は無くならないのに、自分から離れて行こうとする。なぜか『俺のことはアディと呼べ。』と言いながら。

『いや、行かないで。まだまだ辛いんだ!やっ!』

「アディ!!」
 手を伸ばしても掴めなくて大きな声で叫び、その自分の声で目覚めてしまう。

「なんですって?殿下のことを愛称で呼ぶなんて、不埒な!」
「奥様、どうかお戻りくださいませ。」
 ハミルは女性二人に対して、額ずいてお願いをしていた。その小さな体でリュートの眠る寝台に二人を近づけないように必死になっている。

 リュートは熱を帯びた体をなんとか起き上がらせると、高貴な身分と思われる女性とその侍女らしき女性が怒った顔で立っていた。

「どなたですか?」
 まだ夜が明けたばかりで薄暗いが、リュートの白い肌と黄金の髪は薄闇でも見るものをハッとさせる。現実離れした美しさにリズベルは、アーディルの愛人を務めているのだろうと察した。
「お前、身分は?」
「身分……奴隷です。」
「なんと、性奴隷か。だから旦那様は、この者を隠しておいでなのね。奴隷のくせにこんな良い部屋にいるなんて、旦那様も甘いお人だわ。ところで、奴隷。私は女主人。お前ごときが寝台の上で私と話すなんておかしいこと。」
 リュートははっとして、だるい体でハミルの横に跪いた。
「奥様、我らは使用人部屋に移りますから、どうか捨て置きください。」
 ハミルがどうにか去ってもらおうと懇願する。
「はぁ、はぁ…んんっ…。」
 リュートは、発情を抑えられず声を漏らす。
「ん?お前……その様子は、発情してるの?オメガね!!」
 リュートの様子にリズベルはオメガと気付き、カッとなる。
 リュートの髪を引っ張りうなじを確認した。
「あうっ!」
「噛み跡!!お前!奴隷のくせに旦那様の番なの!?」
 リズベルの怒りは最高潮になる。毎夜一人なのはこのオメガのせいだったのだ。フェロモンで旦那様を惑わし番にまでなるとは。


*****
「どうかリュートさんをお許しください。」
 
「オメガの上に発情中なんて、穢らわしい。邸には置いておけないわ。」
 リュートは、庭にある小屋で、中央の柱に体を縛り付けられ、両手も後ろで縛られていた。
 発情中に自分で慰めることも出来ないのは、何よりもの拷問である。
「このようなこと、殿下がお許しになりません。」
 ハミルは、声を震わす。
「奴隷よ、何様のつもり?たとえ、この者が死んだとしても元は隣国の王女でありこの家の女主人を誰も咎めることはしないから安心しなさい。旦那様とて奴隷と私を比べることもしないでしょう。」
「ですが、殿下の唯一の番なのです。」
「だから何です?アルファにとって番なんて、他の者の手垢がつかないようにするためのものよ。唯一無二の存在だなんて思わないことね。お前も繋がれたくなかったら、静かにしていなさい。」

 その時、筆頭侍従が小屋に飛び込んできた。
「奥様!あ、番様!?」
「この方に何人たりとも触れさせるなと殿下に命じられたのです。ですから、どうか解放してさしあげてください。」
「大丈夫よ。もう触らないから。皆も触らないよう出ていきましょう。もし私の命に従わないのなら、私の故国を敵に回したとみなしますよ。」
「奥様…。」
 筆頭侍従は、うなだれた。
 ハミルも小屋を出ていくしかなかった。
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