16 / 26
疑惑
しおりを挟む
「リズベル様、別棟に旦那様はいないはずですのに、メイドや侍従たちがいつも決まった時間に、食事を運んでいるんです。」
ある日、侍女のマリーがそう報告してきた。
「使用人のではなくて?」
「いえ、食事の内容を見た感じ貴人が召し上がるようなものでしたよ。それに使用人のためでしたら、自分で取りに行くか食べにいくのではないでしょうか?」
「そうね…。変だわ…。もう少し様子を探っておいてちょうだい。」
そうリズベルは言い置いたものの気にしていなかったが、マリーの再びの報告で疑念が生まれる。
「リズベル様、やはり別棟にはどなたかお住まいのようです。」
「変ね…側室や愛人は一人もいないはずよ。」
「もしかしたら、隠し子かもしれないですよ。」
「なるほど…。正妻の私に知られたら、私の祖国と関係が悪くなると考えたのかもしれないわ。庶子とはいえ、頻繁に別棟に会いに行ってらっしゃるもの。ご自分の子が可愛いに違いないわ。今のうちにその子と仲良くなっておけば、旦那様に感謝されるわね。」
「リズベル様…その子のこと可愛がるのですか?」
「ええ、私の子が生まれるまでの間だけね。」
「そうですか。」
マリーはホッとしたように呟く。
リズベルはマリーを伴って、別棟に向かうことにした。
「奥様、その先は別棟しかございませんよ。」
別棟と本棟をつなぐ渡り廊下の入り口に立っている護衛兵に声を掛けられた。
「知っているわ。」
「奥様、お通しできかねます。」
護衛兵が立ち塞ぐ。
「おどきなさい。兵士ごときが、奥様のなさることを止めるとは!」
侍女と護衛兵が言い争っていると、筆頭侍従が通りがかる。
「奥様、殿下からそちらに行くのを禁止されているのでは?」
「ええ。けれど、旦那様はあと二ヶ月お戻りになれないわ。そうなるとこの邸を守るのは女主人の私よ。何か悪いことが起きてないか確かめなくては。」
「なりません。そちらに奥様が行かれることは、固く禁じられております。」
「黙りなさい。使用人があちらへ頻繁に出入りしているのは知っています。そのように必死で行くのを止めるのは、旦那様に隠れて使用人達が悪さしているではなくて?」
「そのようなことは決してございません。」
「そう。なら私が今から確かめに行っても問題ないわね。さっ、行くわよ、マリー。」
もう侍従は止められないと思ったのか、急いで別棟に向かう。リズベルの歩みは遅いので、やってくる前に、ハミルに知らせに行った。
「ハミル!」
「あなた様は!?こちらへ来てはならないと言われてたのに、どうしたんですか?」
侍従を始め、あらゆる使用人もアーディルが不在の間は、別棟への立ち入りを禁止されていて、本棟と別棟をつなぐ廊下までしか行けないはずだった。
「申し訳ございません。ですが、もうすぐ奥様がこちらにいらっしゃいます。
「奥様?」
「ああ、先日殿下はご結婚されて…それより
番様はいまどちらに?」
「窓辺で読書をしています。」
「とにかく、奥様に見つかっては大変なことになります。この部屋から出ずに、鍵をかけてください。念のためハミルの部屋の奥にお連れください。いいですね!」
侍従はそれだけ急いで言うとすぐに出て行った。
「ハミルどうしたの?誰か来たようだけど。」
リュートが本から顔を上げた。
「あーうん。侍従が隣の僕の部屋に隠れろって。」
「なんで?」
「やばいやつが来たらしいよ。」
「ふーん。使用人すら来ないここに物好きな…。」
リュートは、ここに使用人が来なくなったのは、アーディルがいないから、奴隷である自分だけのために別棟を整えておく必要がないと使用人達に思われている、と考えていた。
実際は、万が一でも間違いが起こらないよう、アーディルから別棟へ立ち入らないよう厳命されていた。
その代わり食事や本をたっぷり用意して渡すようにとも言われている。
「まあ、とにかく隠れていようよ。やばいやつってことはさーやばいことになるってことだから。」
「ふふ、何それ。分かったよ。」
2刻ほどハミルの部屋にこもっていたが、何の騒ぎも起きなかった。
「もう大丈夫かな。」
ハミルが部屋を出ると、リュートの部屋は穏やかそのもので、部屋の鍵もかかったままだった。
「ハミル…そろそろお腹すかないかい?」
昼ご飯を食べ損ねてもうすぐ夕刻になる。
「うん、すいたー。なんか大丈夫そうだから、僕向こうに行ってもらってくるね。」
いつもなら、廊下の真ん中に食事のカートが置いてあるはずだが、今日は時間がだいぶ過ぎたせいかそのカートも引き揚げられてしまったらしい。
ハミルは本棟の入口に立っている護衛兵に、声を掛けた。
「ねえ、食事を用意して欲しいって侍女か侍従に伝えてくれない?」
護衛兵は、少し考えたが、この奥には主人が大切にしている貴人が住んでいると聞いていた。その貴人の要望なのだろうと思い、言われた通りにすることにした。
護衛兵がいなくなるとハミルが見たことがない侍女がやって来た。
「ねえ、時間がかかるから、私がお食事を持っていきますよ。」
「えっ?この先は僕以外入ったらダメって知らないの?新人さん?」
「え、ええ、そうなの。あなた以外誰も入らないの?」
「そうだよ。殿下がいない間は、みんなはこの廊下の途中までしか行けないよ。」
「どうして?」
「それは、殿下の命令だからさ。僕は暇だし、ここでずっと待ってられるよ。君は、さっさとここから離れた方がいい。」
「そう。」
侍女は不満そうに離れて行った。
*****
リズベル達が別棟に行った時、広すぎて探しきれなかったが、侍女のマリーは、やはり誰かいることを確信した。
「女主人の私が何も知らないなんて、この先ずっと軽んじられるなんて耐えられないわ。」
「リズベル様、旦那様がお帰りになるまで2ヶ月あります。必ず隙がありますから、別棟の住人に会いに行きましょう。」
「ええ!」
ある日、侍女のマリーがそう報告してきた。
「使用人のではなくて?」
「いえ、食事の内容を見た感じ貴人が召し上がるようなものでしたよ。それに使用人のためでしたら、自分で取りに行くか食べにいくのではないでしょうか?」
「そうね…。変だわ…。もう少し様子を探っておいてちょうだい。」
そうリズベルは言い置いたものの気にしていなかったが、マリーの再びの報告で疑念が生まれる。
「リズベル様、やはり別棟にはどなたかお住まいのようです。」
「変ね…側室や愛人は一人もいないはずよ。」
「もしかしたら、隠し子かもしれないですよ。」
「なるほど…。正妻の私に知られたら、私の祖国と関係が悪くなると考えたのかもしれないわ。庶子とはいえ、頻繁に別棟に会いに行ってらっしゃるもの。ご自分の子が可愛いに違いないわ。今のうちにその子と仲良くなっておけば、旦那様に感謝されるわね。」
「リズベル様…その子のこと可愛がるのですか?」
「ええ、私の子が生まれるまでの間だけね。」
「そうですか。」
マリーはホッとしたように呟く。
リズベルはマリーを伴って、別棟に向かうことにした。
「奥様、その先は別棟しかございませんよ。」
別棟と本棟をつなぐ渡り廊下の入り口に立っている護衛兵に声を掛けられた。
「知っているわ。」
「奥様、お通しできかねます。」
護衛兵が立ち塞ぐ。
「おどきなさい。兵士ごときが、奥様のなさることを止めるとは!」
侍女と護衛兵が言い争っていると、筆頭侍従が通りがかる。
「奥様、殿下からそちらに行くのを禁止されているのでは?」
「ええ。けれど、旦那様はあと二ヶ月お戻りになれないわ。そうなるとこの邸を守るのは女主人の私よ。何か悪いことが起きてないか確かめなくては。」
「なりません。そちらに奥様が行かれることは、固く禁じられております。」
「黙りなさい。使用人があちらへ頻繁に出入りしているのは知っています。そのように必死で行くのを止めるのは、旦那様に隠れて使用人達が悪さしているではなくて?」
「そのようなことは決してございません。」
「そう。なら私が今から確かめに行っても問題ないわね。さっ、行くわよ、マリー。」
もう侍従は止められないと思ったのか、急いで別棟に向かう。リズベルの歩みは遅いので、やってくる前に、ハミルに知らせに行った。
「ハミル!」
「あなた様は!?こちらへ来てはならないと言われてたのに、どうしたんですか?」
侍従を始め、あらゆる使用人もアーディルが不在の間は、別棟への立ち入りを禁止されていて、本棟と別棟をつなぐ廊下までしか行けないはずだった。
「申し訳ございません。ですが、もうすぐ奥様がこちらにいらっしゃいます。
「奥様?」
「ああ、先日殿下はご結婚されて…それより
番様はいまどちらに?」
「窓辺で読書をしています。」
「とにかく、奥様に見つかっては大変なことになります。この部屋から出ずに、鍵をかけてください。念のためハミルの部屋の奥にお連れください。いいですね!」
侍従はそれだけ急いで言うとすぐに出て行った。
「ハミルどうしたの?誰か来たようだけど。」
リュートが本から顔を上げた。
「あーうん。侍従が隣の僕の部屋に隠れろって。」
「なんで?」
「やばいやつが来たらしいよ。」
「ふーん。使用人すら来ないここに物好きな…。」
リュートは、ここに使用人が来なくなったのは、アーディルがいないから、奴隷である自分だけのために別棟を整えておく必要がないと使用人達に思われている、と考えていた。
実際は、万が一でも間違いが起こらないよう、アーディルから別棟へ立ち入らないよう厳命されていた。
その代わり食事や本をたっぷり用意して渡すようにとも言われている。
「まあ、とにかく隠れていようよ。やばいやつってことはさーやばいことになるってことだから。」
「ふふ、何それ。分かったよ。」
2刻ほどハミルの部屋にこもっていたが、何の騒ぎも起きなかった。
「もう大丈夫かな。」
ハミルが部屋を出ると、リュートの部屋は穏やかそのもので、部屋の鍵もかかったままだった。
「ハミル…そろそろお腹すかないかい?」
昼ご飯を食べ損ねてもうすぐ夕刻になる。
「うん、すいたー。なんか大丈夫そうだから、僕向こうに行ってもらってくるね。」
いつもなら、廊下の真ん中に食事のカートが置いてあるはずだが、今日は時間がだいぶ過ぎたせいかそのカートも引き揚げられてしまったらしい。
ハミルは本棟の入口に立っている護衛兵に、声を掛けた。
「ねえ、食事を用意して欲しいって侍女か侍従に伝えてくれない?」
護衛兵は、少し考えたが、この奥には主人が大切にしている貴人が住んでいると聞いていた。その貴人の要望なのだろうと思い、言われた通りにすることにした。
護衛兵がいなくなるとハミルが見たことがない侍女がやって来た。
「ねえ、時間がかかるから、私がお食事を持っていきますよ。」
「えっ?この先は僕以外入ったらダメって知らないの?新人さん?」
「え、ええ、そうなの。あなた以外誰も入らないの?」
「そうだよ。殿下がいない間は、みんなはこの廊下の途中までしか行けないよ。」
「どうして?」
「それは、殿下の命令だからさ。僕は暇だし、ここでずっと待ってられるよ。君は、さっさとここから離れた方がいい。」
「そう。」
侍女は不満そうに離れて行った。
*****
リズベル達が別棟に行った時、広すぎて探しきれなかったが、侍女のマリーは、やはり誰かいることを確信した。
「女主人の私が何も知らないなんて、この先ずっと軽んじられるなんて耐えられないわ。」
「リズベル様、旦那様がお帰りになるまで2ヶ月あります。必ず隙がありますから、別棟の住人に会いに行きましょう。」
「ええ!」
9
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
獅子王と後宮の白虎
三国華子
BL
#2020男子後宮BL 参加作品
間違えて獅子王のハーレムに入ってしまった白虎のお話です。
オメガバースです。
受けがゴリマッチョから細マッチョに変化します。
ムーンライトノベルズ様にて先行公開しております。
溺愛オメガバース
暁 紅蓮
BL
Ωである呉羽皐月(クレハサツキ)とαである新垣翔(アラガキショウ)の運命の番の出会い物語。
高校1年入学式の時に運命の番である翔と目が合い、発情してしまう。それから番となり、αである翔はΩの皐月を溺愛していく。
獣人王と番の寵妃
沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――
お世話したいαしか勝たん!
沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。
悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…?
優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?!
※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる