【完結】元王子は帝国の王弟殿下の奴隷となる

ぴの

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別棟での生活

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 本棟に続く廊下さえ通らなければ、基本的には自由に動き回っていいと言われ、リュートとハミルは王宮よりも広い行動範囲に興奮していた。
 立ち入り禁止の場所には、あらかじめ鍵が掛かっていたので、開けられる扉はすべて開けたおかげで、書庫を見つけられた。
 この書庫は、政治や経済などの本は少ししかなく、大半が物語の本だったので、ハミルは大喜びだ。

 何日かは別棟の探索を楽しんだが、その後は書庫や庭園など行く場所は、決まっていく。

「しかし、こんなに綺麗に掃除してあるのに、人が見当たらないのは不思議だなあ。」
 ハミルがつぶやく。
「そうだね。庭も整えられているのに庭師も見かけないし。」
 食事は本棟の使用人が本棟と別棟をつなぐ廊下の途中まで持って来てくれるので、ハミルが取りに行き、洗濯は、ハミルが途中まで持っていくと誰かが引き上げてくれて、いつの間にか綺麗になって置かれるので、それをハミルが引き取るだけだ。
 必要なものも食事の引き渡しの時に伝えればすぐに用意しておいてくれる。 

「でもこの部屋から行ける中庭だけは、だんだん雑草が生えてくね。」
「ほんとだね。」
「ねえ、殿下に聞いてみてよ。いつの間にか綺麗になってるとか怖いよ。」
「え!?そんな瑣末さまつなこと聞けないよ。」
「いいでしょ。食事の時だって、黙って食べてるだけなんだし、少しぐらい話したって大丈夫だよ。」
「う、うーん。」
 ハミルが謎すぎて怖いと何度も言うので、仕方なくリュートはアーディルに聞くことにした。

 給仕をしながら、リュートも朝食を一緒にアーディルと食べる。
「何だ?」
 話掛けるタイミングを伺っているうちにジッと精悍な横顔を見つめてしまっていた。
「あ、あの、お聞きしたいことがあります。」
「言え。」
「邸の中がいつも綺麗に掃除してあるのですが、人が見当たらないので、不思議に思っているんです。誰がいつ掃除してるんでしょうか。」
「なんだ、そんなことか。…今だ。」
「え?」
「俺とお前が一緒にいる時に、やっている。俺がいなくなったら、使用人は引き上げているだけだ。」
「お庭も?」
「そうだ。」
「でも中庭には誰も来ませんね。」
「そこは、お前の部屋に直接入れるから誰も寄越してない。気になるならお前の側仕えに道具を渡すからやってもらえ。」
「あ、はい。自分でやってもいいですか?」
「ダメだ。日焼けする。」
 そう言うとアーディルの人差し指がリュートの頬を撫でる。
「この肌触りがなくなる。言いつけ通り庭に出るときは日傘を差せ。庭仕事などもってのほかだ。」
「はい。」
「それと、」
と言うとアーディルは、細かい装飾がされた美しい瓶を取り出す。
「この香油で髪の手入れをきちんとしろ。」
短かったリュートの黄金の髪は、肩甲骨の辺りまで伸びている。
 アーディルは、髪を伸ばすようリュートに命じていた。そして、綺麗に保つようにとも。
 残りの食事を軍人らしい速さで食べてしまうと、リュートのうなじを吸うように舐め上げてから、さっと部屋を出て行ってしまった。


 食事が終わった時間を見計らってハミルが自室から出てくる。ハミルはなるべくアーディルと顔を合わせないように気を遣っていた。
 そんなハミルに別棟の不思議な正体を明かす。
「へえ、そういうことかあ。殿下ってば徹底してるなあ。その辺の使用人が殿下の番に何かするなんてありえないのにぃ。過保護だよねぇ。リュートさんってほんとに奴隷なのかなぁ。こーんな服着ちゃってるし。」
 ハミルはリュートのヒラヒラしたドレスを掴んで裾を広げた。
 王宮にいる時は、ハミルと同じ麻の上下を着ていたが、アーディルがチクチクして痛いというので、女性が着るような、上下がつながっていて足首まで裾があるドレスを着させられている。
 肌触りの良さから高級な布が使われているのが分かる。
「何言ってるの、私は奴隷だよ。ここから出られないし、殿下が飽きれば捨てられる運命なんだ。」
「まあ、出られないようにしてるのは確かだけど…捨てられるってことはないんじゃない?」
「明日は分からないっていつもハミルが言ってることじゃないか。」
「そうなんだけど、アルファの執着とか独占欲とか異常だからさー。ベータのしかも宦官の僕ですら、いつもリュートさんから殿下の匂い感じ取れるから、よっぽどすごい匂い付けてるんだろうねえ。そんな異常な独占欲見せてるのに捨てるとかないよ。」
 本当にそうなのだろうか。リュートは考える。オメガの自分は、番が居なければ、発情期に番を求めて狂い、最悪死に至る。しかし、アルファのアーディルの方は、何人でも番が作れるし、リュートが居なくなっても困らない。

 しかも、奴隷の自分との間に子ができないように避妊薬を飲ませられている。ここにずっと居ていい理由が何も思い浮かばず、そっとため息をついた。
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