僕は超絶可愛いオメガだから

ぴの

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1章 1年春〜夏

番外編 城之内の心の内側①

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 α専用中高一貫の篠宮学園は、高校からΩを特別枠で受け入れてる。
 中学から上がる同級生の中には、Ωに会えるのを楽しみにしているヤツもいたが、俺はΩには、悪い思い出しかなく、むしろ嫌っていたぐらいで、どうでも良かった。

 けど、初めてあいつ、和倉春人を見た時、あまりのΩの中のΩらしい整った容姿にギョッとした。

 どこの家の人間か警戒したが、噂ではβ同士から生まれた庶民の出だった。

 なら、社交界で出会うこともない。関わらなければいい。

 とにかく、ああいう周りにチヤホヤされて育ったような奴は要注意だ。
 どんな我儘も通ると思っているし、全人類自分の味方だと思ってるに違いない。

 案の定、入学初日から、俺のクラスのヤツらに囲まれてその中で愛想を振り撒いていた。

 その春人と一緒に行動してたという葉山亮一は、全くΩっぽくなくて、普通に話せた。
 どうもαに嫌悪があるらしく、将来αに頼らず生きたいため、ここで勉強を頑張るそうだ。

 そういうヤツは嫌いじゃない。
 自分の勉強の片手間に教えてやることを約束した。ただ、人に束縛されるのは嫌なので、偶然図書館で会えたらという条件付きだ。

 亮一との勉強は楽しかった。あいつの宇宙に関する知識は半端なくて、俺が教えている時間よりあいつから宇宙に関する事を教えてもらう時間の方が長い時もあったぐらいだ。

 そんな時間を過ごしている時ふと亮一が何でΩを嫌っているのか聞いてきた。

 隠してはないのであっさり答える。



*****
 それは、中学2年生のバース検査で俺がαと正式に判明した頃のことだった。
 城之内本家の長男である俺は、祖父と父から、これで正式に跡取りとなったと言われた。

 城之内家が手掛けている事業に興味があった俺は純粋に嬉しかった。
 夏休みに学園の寮から自宅に帰ると、親戚中がお祝いに来ていた。
 今のうちから俺に取り入ろうとしているのは分かっていたが、お祝いを素直に受け取る程俺も浮かれていた。

 ものすごい数の挨拶を終えた俺は、部屋に戻って休むことにした。

少し経った頃、それは起こったのだ。
「直哉君。」
本家のプライベート空間にある俺の部屋に分家のさらに分家のΩの娘がやってきた。

 彼女はとても美しい容姿で、他のαの従兄弟達の憧れだった。でもその容姿で従兄弟達に無理難題を吹っかけては、弄んでいるのを見たことがあり、少し苦手だった。
 ただ、7才も年上だし、従兄弟達も彼女に何か頼まれるのを嬉々として引き受けていたようだし、関係ないかと思っていたのだ。

その彼女が俺の部屋にやって来た。
「直哉君、正式に跡取りに決まって良かったね。」
言いながら、彼女は僕に触れそうなぐらい近づいてくる。
「はい、それさっきも聞きました。何か用でしょうか?」
俺は後退る。
「ふふ、緊張してる?跡取りに決まったお祝いに私のこと抱かせてあげる。」
何を言ってるんだ!
パニックになった俺は壁際に追い詰められた。
「い、いらないです。」
 まだ子どもとも言える年齢の俺は、あからさまに迫ってくる彼女に嫌悪感を抱く。
「そんなのダメ。もう発情促進剤飲んじゃったもん。そろそろ効いてくる頃よ。」
そう言って彼女は手慣れたように俺にキスしてきた。
 俺はまだその頃はそういった行為に一種の憧れを持っていた頃で、好きな相手といつかするんだと思っていた。

 なのに、甘ったるい匂いとともに押しつけられた嫌悪しかない唇。
「やめろ!!」
彼女の肩を押して拒絶すると、彼女は床に転がった。
「ひどいじゃない!!」
「出て行ってくれ。」
「ふ……もう遅いの、ほら発情してきた…」
 彼女のフェロモンが濃厚になってくる。
 嫌悪感しかないのに、そのフェロモンに生理的に反応して勃起してしまう。
 強制発情してまで成人した彼女がまだ子どもの俺に抱かれようとしてることも、嫌なのに体が反応してしまう自分にも
「気持ち悪い。」

「はぁ、はぁ…この私に向かって気持ち悪いなんて…早く、お願い、触って、我慢できない…」
「お前なんか指一本触れたくない!」
「そ、そんなにソコを大きくして何を言ってるの?ふふ…優れた容姿を持つ私に相応しいのは、あなたしかいない。」
「お前が出て行かないのなら、俺が出て行く。」
お互い息も絶え絶えになっているその時、Ωの異常なフェロモンに気づいた家令が
「坊っちゃま、坊っちゃまいらっしゃいますか?」
と扉の前で声をかけて来た。
俺が何か言う前に彼女は『助けて!!』と叫んだのだ。

 家令が緊急事態と判断したのか、俺の部屋を開ける。
 床に転がった彼女。勃起してる俺。溢れかえったフェロモン。
 薬を飲まされて強制発情させられたという彼女の言い分。
 恋やまだ見ぬ番に憧れていた俺の気持ちも何もかも、一瞬にして砕け散ってしまった。


 その後、父も祖父も俺の言ったことを信じてくれたが、隙を見せたお前も悪いと、相手の言うがままに多額の示談金を支払うことになった。

 母は、泣きながら慰めてくれた。
 あなたは悪くないと何度も言ってくれたが、砕けた俺の心は戻らなかった。

「ひでー話だな。」
亮一は泣きそうな顔で俺を見た。
「まあ、もう過ぎたことだ。」
俺が苦笑いで答えると、亮一は
「でも世の中ひどいΩばかりじゃないだろ?」
と自分を指してニヤッとする。
「だな。亮一も俺のおかげでαの認識改めたろ?」
「んーどうかなぁ。」
「お前!」
 亮一を小突きながら、俺は笑った。

 亮一との出会いがあって、Ω全体を嫌うのは、やめようと、思いを新たにしたが、容姿が特別良いΩにまでは、その考えは及ばなかった。
 だから、春人に『友達になろう。』と言われた時は、自分の容姿を使って城之内家に取り入ろうとしているのか、靡かない俺を従えたいのかどちらかと判定して、公衆の面前で春人を罵った。

 あの時の春人の顔は今でも思い出す。透き通るほど白い肌は、消え入りそうなぐらい青ざめて、心底傷ついた顔をしていた。
 けど、その時の俺は気にも留めなかった。どうせ、他のヤツがチヤホヤして慰めるんだろうと思って。ああいうヤツは、一度、人から拒絶される事も経験した方がいいとも思っていた。

しかし、
「お前のせいで、ハルちゃんがαの前に姿見せなくなっちゃたじゃないかあ!」
 あの場面を目撃した同級生から日々責められる。
 俺もそれは意外だった。αに取り入ることばかり考えているヤツなら、あれを逆手に取って他のαの同情を誘ってそうなものを。
 
 まあ、俺には、関係ない。

そう思っていたのに、図書館で出会ってしまった。
 突然、甘やかだが、良い匂いがしたと思ったら、目の前にかなり驚いた春人の顔があった。
 俺もびっくりしたが、亮一と間違えた本人の方がびっくりしてて、青ざめた顔をして、手に持った荷物を落とし、挙句にそれを拾った際に、頭を強打し、子どものように痛がる。

 何か漫画のような鮮やかな展開でつい笑ってしまった。

 慌てふためいて青くなったり、俺に笑われて赤くなったりしてる春人を見て、Ωとかそういうの関係なく『可愛い。』と思ってしまった。

 それに、俺が以前、春人に放った暴言に対して謝ると、全然恨んでもなく、むしろ自分のせいだと言う。

 俺を昔襲ったΩや他の親戚筋のΩとは全く違うとその時はっきり感じた。

 しかも、春人は考えていることが筒抜けで、警戒しているのが馬鹿らしく思える。



「ねえ、リョウくん、この問題教えて。」
春人は勉強が苦手のようだが、俺にも誰にも宿題や課題を肩代わりさせるようなことはしなかった。
 教えてもらいつつ、どんな時も最後まで自分で解く。そこも俺の知っているΩとは違う。

「ナオくん!このプリントざっと見て!」
なぜか少し怒ってプリントを見せてくる。
「ナオくんならこのプリント何分で解ける?」
少し考えて、
「5分?」
と答えた。
「ご、5分!?くぅ、これが遺伝子の差か!!僕がね!これを解くのに1時間以上はかかるんだよ!!不公平だあ!」
最近の春人の口癖が『遺伝子の差』。また言ってると思って口元が緩む。
「ああー!馬鹿にしてる。」
「してないよ。」
「ふん。別にいいけど、リョウくんの代わりに教えてよ。」
 不公平と言いつつ『だから、代わりにやって。』と言わない所が春人のいい所だ。
そう思いながら、
「いいよ。」
と言ったから、俺は笑顔を春人に向けたらしい。自分でも自覚してるが、滅多に笑わないから春人が驚いた顔をしてる。
 でもその後、嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべて『ありがとう。』と言った。

 これが前に亮一が言っていた春人の不意打ちの笑顔か。
 
 なんでこんなに可愛いんだ!?こんな俺でも心拍数が上がる。
 この可愛いさ、これこそ、『遺伝子の差』なんじゃないだろうか。
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