僕は超絶可愛いオメガだから

ぴの

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1章 1年春〜夏

僕は大胆なんです

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 朝は、食堂に行く時にいつも声を掛けてくれるリョウくんが時間になっても部屋から出る気配がなかったので、今日は僕から声を掛けることにした。
 ノックをしても返事がないので、そっとドアノブを回してみると、鍵は掛かってなかった。
部屋の内側に顔を出すようにして、
「リョウくーん。」
 と僕が呼びかけると苦しそうに
「ハル…。」
と弱々しく僕の名を呼んだ。

急いで中に入って、リョウくんが寝ているであろうベッドに行く。
「どうしたの?大丈夫?」
「うん、大丈夫。ヒートが予定より早く来ただけだ。」
 顔を赤くして苦しそうにしている。
 僕は未だヒートを経験したことがない。だからどうしてあげたらいいのか分からない。
「先生に伝えて医者を呼ぼうか?」
「いや、事前に薬は処方されてるから医者はいい。ただ、授業はしばらく休むって伝えて。」
「うん、それはもちろん。水とか食料は足りてる?」
「備蓄はしてるから大丈夫。何かあったら、緊急ボタン押すから気にしないでくれ。ほら、早く行かないと朝飯抜きになるぞ。」
 リョウくんの様子からして辛そうだけど、ヒートには慣れてそうなのが窺えて少し安心する。
 僕が居ては落ち着かないだろうから、また放課後来ることを約束して部屋を出た。

 環境の変化のせいか、ヒートの周期が狂っている新入生が多い。
 この間も兆候なく授業中にヒートが来て、運ばれたクラスメイトがいたばかりだ。

 僕にはいつ、やって来るのだろうか。

 そんなことを思いながらぼんやり授業を受けていた。
 相変わらず、僕はΩの教室棟と寮を中心とした生活をしている。もっとあちこち出歩いて伴侶となりそうなαを探さないととは思うけど、そんな気がちっとも起きなくて困っている。
 うーん、可愛さの持ち腐れだ。

 立ち回りが上手いクラスメイトは、すでに何人かのαと特別仲良くしていて、週末には、豪華な旅行に連れて行ってもらっているらしい。
 そういうセレブっぽいのとか少しは期待して入学したのに誘われても僕は断ってばかりいる。
 まあ、まだ卒業まで2年10ヶ月もあるし、焦る必要ないよね。

 リョウくんのヒートが3日目に入った時、ナオくんにリョウくんが来れないことを伝えようと考え付いた。
 リョウくんがいないのに、オマケの僕だけが会いに行くのは何だか気が引けてたけど、ナオくんに会う口実が出来たことで、堂々と会いに行ける。

 僕が図書館に入って行くところを誰にも見られないように、制服のジャケットの代わりにパーカーを羽織って、フードを被った。

 ナオくんいるかな。この時間ならαの授業も終わりだし、ナオくんの部活もない日だから確率は高いよね。

 胸を高鳴らせて定位置に行くといつもの席でいつものように背筋を伸ばして熱心に本を読んでいた。

「ナオくん。」
 ドキドキしながら声をかける。
「春人。一人で来たんだな。」
 本から顔を上げて僕を見る。
 やっぱり僕はリョウくんとセットなんだな。
「うん。実はリョウくんヒートに入っちゃって。」
「ああ。」
「3日前からだからあと4、5日かかるみたい。だからその、終わるまでリョウくんここに来られないって伝えようと思って。」
「そっか、サンキュ。」
 そう言うとナオくんは再び本を読み始めた。
 短い会話だった…。
「あの、じゃあ、またね。」
僕は、消沈したのを隠しながら努めて明るく別れの言葉を言った。
 僕が踵を返したところで、
「春人、それ。」
とナオくんが指をさす。
「ん?」
「それ、宿題。やってかないのか?」
「え!?やって行っていいの?」
「何今さら。いつもそうしてるだろ。」
「う、うん。やってく!!」
「どうしても分からないところ出てきたら声掛けろよ。俺はコレ読んでるだけだから。」
「ありがとっ!!」

 僕はいつもの通りナオくんの横に座る。
 座った後に気付いたけど、リョウくんがいないのに隣に座るって変。
 けど、座り直すのも変だからそのままの位置で宿題に取り掛かる。

 うーん、数学のここの部分やっぱり分からない。
 授業でもついていけなかった所だ。
「ナオくん。」
「ん?分からないのか。」
「うん。ここの問題。」
「ああ。」
ナオくんが問題を覗き込むと、ナオくんのサラサラとしたブルーブラックの髪が少し下に流れる。
 こうやって教えてもらうことは、あったけど二人だけなのは初めてだから妙に胸がざわつく。
 そして、ほのかに爽やかな石鹸のような柔軟剤のような匂いがナオくんから香ってくる。
 あれ?今まで無臭だと思っていたのに。
 
 その香りは僕を心地良くしてくれると同時にますます胸の奥をざわつかせる不思議な香りだった。

「春人、分かったか?」
しまった!教えてもらってたのに匂いに気を取られてた。
「ご、ごめん!僕一度じゃ理解できなくて!」
「全く、仕方がないな。」
 そういうとナオくんが僕のフワフワの髪の毛を手でくしゃくしゃってする。

 僕はそうされただけで一気に体が熱くなって顔が赤くなっていくのが分かった。
 慰められた時に少し触られたことはあったけど、こんな何でもない時に触れられたことはなかった。
 でもどうして、こんなことだけで体が反応してしまうの!?
「は、春人!お前何か出てるぞ。」
見るとナオくんの顔が少し赤い。
「出てるって何が?」
「おい、そんな潤んだ目で見るな。」
 ナオくんが何を言っているのか理解しようとしてジッとナオくんの目を見る。
 あ、瞳もブルーブラックなんだ。
 ほんとに綺麗だなあ。

 僕はその瞳に魅了されてしまったようだ。もっと近くで見たくてナオくんの断りもなしに立ち上がって近づく。ナオくんは座ったままだから、咄嗟に逃げられない状態だ。
「春人!」
「綺麗…。」
 僕は、そのまま近づいてナオくんの瞼にキスをした。
「春人っ!!」
 ナオくんの今まで一番大きな声に僕は我に返る。
「あっ、僕なんてこと…。ごめんなさい!!」
 自分のしてしまったことに気づいて慌てて謝りその場を逃げ出した。

 ナオくんと宿題を置いてきぼりにして。


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