上 下
116 / 137

116.調査報告1

しおりを挟む
「ロイ、報告をしてくれるかい?」
トキ殿下が話題を振った

「はい。まず、宮廷内の神殿についてですが、正確な場所は分かりませんでした」
「そうか」
カイリ殿下が短く答えた

「ですが、国内外の情報を統合すると、神殿にはブルーローズが咲いていたという話もあり、そちらの線からも調査してみましたが、やはり掴めませんでした」
「ブルーローズか……」
トキ殿下が顎に手を当てて記憶を探っている

私は一体全体なんの報告会が始まったのか、私がなぜ呼ばれているのか分からずに、ボーッと話を聞いている

「みさき。何か覚えているか?」
「あまり振り返りたくない記憶なのは承知の上だけど…」

2人の視線が私に集まる

「えーっと……何の……話なんでしょうか」
私は本日の議題を聞いた

「みさきが記憶を無くしていた間の出来事は、大がかりな魔法で記憶を少し歪められている可能性が高い。恐らく、国全体に記憶操作がかかっている」

「ん?え??記憶操作?!」

「そう。父上が起こした紛争時の記述と記憶が曖昧なんだ。現にクリスタルが元々は宮廷内の神殿にあったことを覚えているものは居ないのが良い例だからね」

「そんな……」

びっくりを通り越して、訳が分からない
そんなことってあるの?
でも、私が記憶を封印されていたんだから、他の人の記憶も封印されているのもありえないことではないけど……

「国の歴史を知らずしてこの国の王を名乗ることは出来ない。もし、何者かの介入があるのであれば、それも知っておかねばならない」

「戴冠式になれば、国内外から多くの来賓が訪れるんだよ。それまでに国内のいざこざは精査しておきたいからね。既に今だって婚儀のあれやこれやも相まって、欲にまみれて名声を売ろうと言う人達の塊だから……」

「トキ……」
カイリ殿下は、少し低めのトーンでトキ殿下の会話を切った

婚儀……そっか。やっぱり。2人は結婚するんだ
だから、国の黒歴史は精算して、クリーンな状態でダリア王女をお迎えする

そう言う
ことか

私は自分の記憶を探る
後宮の皆さんとお話した時も話に出たブルーローズ……どこかで……

「ブルーローズ……私、昔、宮廷に行った時に見た気がします」

「「「「ええっ!?!?」」」」

一同が驚きを隠せず声を発した

「でも、正確な場所は分かんないんですが、なんか、見た気がするんですけど……」

うーーん。建物広かったし、私は邸内を把握していた訳では無い
断片的な風景描写と断片的な記憶が私の脳内では散らかっている

「無理はするな。あまり良い記憶ではないだろう」
私が唸っているのを見てカイリ殿下が声をかけてくれた

でも、新しい国の誕生に私ができることはきっとこれくらいだ

自分の利用価値は自分がいちばんよく知っている


私は記憶を辿った
宮廷へ連れていかれ、苦しかった日々を辿った
そのどこかで見ているはず

宮廷内の神殿……
確かに、なんか厳かな作りの場所にクリスタルが……あった

記憶をめぐらせると、どんどん体が冷たくなってくるのがわかる

体が思い出すんだ
冷たくて暗い……
クリスタルのことを……

私はロイさんの入れてくれたミルクティーのカップを手で包むように持ち、暖をとった
ロイさんの不思議な魔法で入れられたお茶は、いつまでも冷めることがない

「宮廷のどこにあるかは分からないんですが、もしかしたら、行ってみたら何か思い出すかも知れません!」

思い出せないものはしょうがない
現地に行ったら何かわかるかもしれない
そんな安易な考えで、私は宮廷に乗り込むことを提案した

「いや……。連れて行けない」
「それは最終手段にしよう」

私は名案だ!くらいの気持ちだったのに、2人はとても否定的だった

何でさ!?

「あと、後宮の噴水の件ですが」
ロイさんが次なる話題を差し込んだ

ブルーローズは諦めたということなんだろうか……
後宮の噴水って、あのお庭にあった噴水のことかなぁ
私の脳裏にはあの時の光景が頭をよぎった

「ユミ様のお話によると、先代のマリア様であるあおい様は、国内の水脈の源流である、宮廷の神殿で浄化した水を使って国内全てを浄化していたとのことですが」

「あぁ。そこにクリスタルがあったと聞いている。」

「国内の噴水や水壁、川や泉、各地の様々な場所を調査しましたが、他と別段変わったこともございませんでした。ただ……」

「ただ?」
トキ殿下が話の続きを促した

「後宮の噴水の周りの青いヒトミソウの咲き方は異常です」

異常?!青いヒトミソウって、多分青くて小さな花だよね?!水辺にいっぱい咲いてるってフェンさん言ってなかった?普通なんじゃないの?!

「元々ヒトミソウはどこにでも咲く花ですが、青い花をつけるのは水辺だけでございます。各地の噴水の周りには咲いている場所はほとんどございませんでした。」

ロイさんの報告にカイリ殿下は難しい顔をして、何かを考えているようだ

「確かに、後宮の噴水の周りは年中枯れることなく、咲き続けているな……」

「そこで、1つ仮説を立てたのですが、もしかしたら、青いヒトミソウは、あおい様の魔力に反応して咲いているのかもしれません」

お姉様の魔力……私は、青い花を思い返した
「私の教会のお庭にも沢山咲いてた気がします。あと……満月の泉のまわりにも」

思い返せば、あおいお姉様の周りには青い花が咲いていた
多分、本来は違う色の花をつけるであろうお花も、青い花として咲く
それが、お姉様の魔力の影響なのかもしれない

すると、フェンさんが口を開いた
「その仮説は正しいかもしれません。」

みんながフェンさんの方を向く
「お恥ずかしながら、私はマリア様の聖堂の結界に拒まれております」

そ……そうですね……。
フェンさん未だに入れない……ですね

「後宮の噴水にみさき様が落ちそうになるのを支えようとしたところ、水に阻まれました。あおい様の魔力に私が拒まれていると考えれば、噴水の水はあおい様の魔力の影響が強く現れているのかと存じます」

フェンさんって、以前お姉様にそんなに拒否られることしたの?
なんでそんなに拒否られるんだろう?


「一理あるな」
カイリ殿下は納得して、ロイさんの仮説を受け入れた

「して、フェン。カシェの話はどうだ?」
カイリ殿下が新たな話題を振り、フェンさんは報告を届けた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...