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110.ダリア様

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協会の正門で待っていると、馬車がこちらに向かってくる

馬車!?

そうか。今まで、転移の魔法であっちこっち連れて行ってもらってたけど、普通は馬車で移動する

ましてや、貴族のご令嬢たる2人が乗っているなら、この豪華な馬車は納得の仕様だった

「おまたせしてしまったかしら?」
「いえっ!ありがとうございます」
中からアルバさんが出てきて、私を迎え入れてくれた

お買い物ってどこ行くんだろう?
身分の高い人の買い物って、きらびやかな品々を行商人が、持ち込んで来るのではないんだろうか?

「普段から街にお出かけするんですか?」

「えぇ。街には色んなものが沢山あるわ」
「見ていてとても楽しいもの」

2人は日頃からお出かけを楽しまれている様子だった

「あ。見て。あの公園の花時計の設計をしたのはライラちゃんよ。」

通りがけの公園には大きな花時計があった

「季節によって咲く花が変わるから、時期ごとに違った景色が見られるわよ。」

私が興味深々で眺める姿を見て、アルバさんが声をかけてくれた
「降りてご覧になる?」

「はい!」
近くに馬車を止めて花時計の近くまで歩いていく
近づくと、どんどん大きく見えてくる花時計
ぎっしりと敷き詰められたお花は太陽に向かって凛と咲いていた

色とりどりの花はグラデーションになるように円を描き、中心から時計の針が時を刻んでいる


すると、後ろから話し声が聞こえてきた

『こちらが、王宮から見えた花時計ですのね?』

『土地の魔力の力を借りて、季節ごとに異なった花が咲くように設計されている』

聞きなれた声、私はその声に反応して振り返った
そこには、見慣れた2人の男性にエスコートされ、豪華なドレスに身を包んだ美しい女性が立っている


『近くで見ると、お花一つ一つが綺麗に咲いているわ。きっと庭師さんが丁寧にお世話なさってるのね』

女性は私に気づくと、チラッとこちらに目線を送り、わざとらしくカイリ殿下の腕に自分の腕をからめて、ピッタリとくっついた

「みさき?なんでここに?」
トキ殿下がこちらに気づいて、ハッとした表情をして、口元を片手で覆う

きっと、あの綺麗な女の人がダリア様だ
カイリ殿下と仲睦まじいご様子……

私は、無言でペコリとお辞儀をした

「お二人のお知り合いの方ですの?ご紹介してくださる?」
ダリア様と思われる女の人は、カイリ殿下の腕を離さずに殿下を上目遣いで見上げながら話す

気まずそうにカイリ殿下が私に向かって口を開いた
「こちら、隣り国の国王の長女、ダリア王女だ」

「ダリアと申します」
慣れた仕草で挨拶する姿が板についている
本物の姫君だ
私には無い、王族の気品と優雅さを持っている

紹介されるような肩書きを持っていないので、わたしは普通に挨拶をした
「みさき……と申します」
ペコリとお辞儀をするだけの、優雅さの欠けらも無い挨拶をした

カイリ殿下は眉間にシワを寄せながらこちらを眺め、何か言いたそうにしている 

私はとっさに左手を隠した

「……みさき?……」
トキ殿下の声が聞こえると同時に、私はその場から逃げ出すように立ち去った
アルバさんとメリナさんが後ろから慌てて追いかけてくる

「みさきさん?」

「………。」

感情が追いつかなくて言葉が出ない

「……ごめんなさいね……実は昨夜2人と逢いたくないと言っていたことを聞いたから、何かあったのか気になって……」
「気分転換にもなるかしら。と思って外に誘ったのだけれど……。ここに2人がいらっしゃるとは思ってなくて……」

アルバさんとメリナさんは私を気遣ってくれる
なのにすいません
何かもう、自分がよく分からない

お買い物の空気を私が壊してしまったので、馬車に乗り、そのまま帰宅路についた

教会に着くと、メリナさんが私の左手を取って、両手で包むように握って言った
「これを私から言うのは違うのかもしれないけれど……。お二人のことを信じてあげて。」

アルバさんも、メリナさんの手の上から、自身の手を重ねて言った
「今は少し国政が忙しくて、お会いになれないかもしれないけれど、みさきさんのことを想われているわ」


2人と別れて、私は部屋に戻って窓際の薔薇を眺める
いつもは、咲きかけの蕾がキラキラと綺麗に見えるのに、今日は悲しげに頭を垂れているようだった……
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