上 下
68 / 137

68.夢は過去の暗示

しおりを挟む
耳を傾けてはいけない
心を開いてはいけない
息を殺してじっと耐える
それしか出来ない
それしか……

嫌だ
苦しい……
いや………
くるし……い
助け…


『おい!大丈夫か?』

はっ!!

私を揺すりながらカイリ殿下が私の名前を呼ぶ
『みさき!!??』

目を開くと、カイリ殿下は心配そうな眼差しで、私をじっと見つめている

パクパクと口を動かすけど、声が出ない
なんなら呼吸も上手く出来ない

「………ハッ………ッ………」

どうしよう……苦しい、けど、声が出ない……

カイリ殿下は私を起き上がらせてくれる
自身はベッドの背にもたれ、私はなされるがままに、殿下の肩に頭を預けた

「大丈夫だ」
殿下は私の背中に手を回し、頭を優しく撫でる

強ばった体から力が抜けない
ぎゅっと握りしめた手を開くことが出来ない
何故か全身にぎゅっと力が入って、何かを拒むように体は強ばる
目を閉じると、ヌルッとした不快な感触が襲ってくる

嫌だ、いやだ、イヤ…ダ

何かを拒絶する感情が身体中に広がる
殿下の肩に顔をもたれたまま、首を左右にイヤイヤと降った

自分でも何が嫌なのか、何を拒絶しているのかわからない
感情のコントロールがきかなくて怖い
何かを私の体は拒絶している

「いや……イヤッ………んーーー!んーーー!」
私はカイリ殿下にしがみつきながら、自分の中からあふれる感情と戦って、ちょっとしたパニックを起こしている

殿下は、その声を聞いて、体を離そうとするけど、私が力強くしがみついて離れないので、何かがおかしいと悟ったらしい

「大丈夫だ。少し落ち着け」
「私の目を見れるか?」
そう言って、私の目線を誘導した

口にギュッと力が入って、呼吸がまだ整わないまま、私は言われた通りカイリ殿下の目を見つめた

綺麗な赤い瞳は、私の心の奥底を見つめるように、真っ直ぐに私を見ている

私は力を抜けずに、爪が食い込む程に手を握ったまま歯を噛み締めていた

「少し力を抜けるか?」

私は自分の体をコントロールできることが出来なくて、フルフルと顔を横に振った

「仕方がない……」
と言って私の首筋をなぞる

殿下の暖かい手の温もりが、私の冷たい体を溶かしていく

見つめている先のカイリ殿下の表情は、優しくて、私の目の前にはカイリ殿下が居るという安心感に包まれる

殿下は私の顎を片手でうわむきに固定すると、ぎゅっと結んだ唇を親指で優しくなぞる
私は少しずつ呼吸ができるようになり

見つめている赤い瞳が徐々に近ずいてくると、私は自然と目を閉じた

チュッ チュッと軽く触れるだけのキスをすると、少し口を離し、また唇を重ねる

少しづつ私の体の強ばりが溶けていく

カイリ殿下は私に甘やかな口ずけを送りながら、私の手を取り、ギュッと握った手を開かせようと手首から指を滑らせた

殿下の指にからめとられるように、私は指を開く
指と指が規則正しく絡み合う
そのまま軽く手を握ると、触れている肌からカイリ殿下の暖かい体温を感じる
殿下の腕に包まれて、強ばっていた体が次第に解けていく

「ハァ………………ぁ………ん……」

ギュッと結ばれていた唇がほどけると、少しづつ口付けは深くなる

そのまま舌先から送られてくる甘美な魔力に脳が溶ける

今まで全身をおおっていた嫌悪感の塊がカイリ殿下の甘やかな魔力に変わっていく

「ぁ………ぅ……んっ…………」

もっと欲しい………
この甘さに包まれたい
自分の中のよく分からない不快感から逃げるように、カイリ殿下の魔力を求める

私の体の強ばりが溶けたのを見て、カイリ殿下は唇を離した

「……ん……っ……もっ……と……」

私は殿下の甘やかな魔力をねだった
殿下は少し驚いた表情を見せたけど、そのまま優しく微笑むと、
「そうか」
っと言って、また優しく私に口付けた

キスで送られる魔力にトロトロになりながら、私は再び眠りについた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...