人生のやり直しを夢見た私は異世界で人生のやり直しを始めた

来実

文字の大きさ
上 下
53 / 174

53.ハグと私と緊張と……

しおりを挟む
2人に送られて教会に帰ってきた私は
今、
トキ殿下の腕の中におさまって身動きが取れないでいた



カイリ殿下は後宮の方の様子を見に戻って行った

トキ殿下に付き添われながら部屋に到着する
カイリ殿下がお部屋訪問に来るのは大分慣れたと思ったけど、トキ殿下が私の生活空間にいるのは、なんだか不思議だ

あれ?でも、幽閉生活してるのに、結構自由に出歩くのかな?

「ここに来て大丈夫なんですか?」
「ん?あぁ。カイリがアレコレ手を回してくれちゃったから、大人しく外に出ることに。ね。」
そう言って、トキ殿下はソファーに座った

引きこもり辞めたんだ……

「なので……」
と言いながら殿下は私の手を強めに引き寄せる

「うわっ!!」
私はバランスを崩して、そのままトキ殿下に抱きついた
「すみませんっ!!」
慌てて離れようとしたけど、トキ殿下にしっかり抱きとめられていて、動けない

「あの……離して………欲しいのですが……」
「ん?なんで?」

いやいや。不可抗力で抱きついたままホールドされるって、心の準備というものが~…

そして、とても短いはずだけど、体感はとても長い時間が過ぎて今に至っている


「あの……いつまでこのままなんでしょうか……」

このドキドキに耐えられない
顔を上げたらトキ殿下に肌が触れ合う位置で目が合ってしまうし、かと言って、この抱きついたままの姿勢では私の恥ずかしいメーターが振り切ってしまう

「あ。苦しかった?」
そう言ってトキ殿下は腕のホールドを緩めて、私を少し体から離してくれた

開放されると思って油断した私は、そのまま腕から逃れようとソファーから降りるように体勢を整えた



トキ殿下は立ち上がろうとした私を開放してくれる訳ではなく、そのままバックハグをキメた

「ええっ!あのっ!!」
「ん?こっちの方が好きなのかなと思って」

いえいえ違います
離して貰える気配は無く、私は前のめりにうつむきながら、これからどうやってこの緊張に耐えれば良いか考えることにした

「う~ん……そうじゃないよ。こっち。」
と言いながら、トキ殿下は、私の目元を片手で覆いながら自分に背を預けるように私の姿勢を変えた

ひゃぁぁ!!!
トキ殿下の体温を背中に感じながら、私の顔の上には、トキ殿下の顔がある

目元を覆っていた片手を頭の上にずらし、サラサラと髪を撫でながら呟いた

「君が恥ずかしがり屋さんなのはわかっていたけど、もう少し慣れてくれると嬉しいな」

慣れるって何にですか!?
そもそも、私の生活にこんなに人と密着して触れ合うという習慣は無いのですがっ……

「まぁ、でも、カイリが嫌われたって言うのもわかる気がするな……クスッ」
そう言うと、トキ殿下はクスクスと笑いを堪えながら呟く

「先日は随分素直だったのにね?」

あぁぁぁあぁぁぁ……
恥ずかしさの思い出を引っ張り出さないでくださいぃーっ!
行き場のない手で顔を覆った

「とりあえず、力を抜いてもっと僕に甘えればいい」

甘えるって……苦手です……
そういえば、アルバさん達がトキ殿下に甘え方を教わると良いという話をしていたのを思い出した

「あのぉ……ルイ君とルカ君って、昔からあんな感じじゃなかったんですか?」

「ん?ルゥ達はまぁ、境遇も魔力もちょっと特殊だから仕方がなかったけど、僕にとっては可愛い弟だからね」
「2人には人の心の声が筒抜けみたいなものだから、周りを遠ざけてしまうのは仕方がなかっただろうね」

その2人をどうやって甘々にしたんだろう……

「アルバさんが、トキ殿下は甘えさせ上手だと言ってました」

「え?そうなのかい?別に普通だと思うけど……」

トキ殿下は後ろから抱きすくめていた私を軽く抱き上げ、自分の膝の上にのせると
「それがお好みなら……」
私の頬をトキ殿下の指先がなぞる
「僕は歓迎だけど?」
そう言って顔をすっと上向きにさせられて、トキ殿下とバッチリ目が合う
真っ直ぐ見つめてくる紫色の綺麗な瞳

わわわわわわわっ!!

目線が泳ぐ

「あ……あの……っ……!」
私は力なく抵抗する

すると、トキ殿下は柔らかく微笑み、
「そんな表情も可愛いけど、まずは……」
そう言って私を下ろし、普通にソファーの上に座らせてくれた
並んで座っているトキ殿下は、私の手をそっと握る

「この緊張を解かないとね」

ようやく開放されたわりには、ドキドキが止まりません
緊張するなという方が無理な話で
トキ殿下の手のひらの上で転がされてるだけですハイ

このまま手は離して貰えないのだろうか……

緊張は解ける訳もなく、ドキドキは少しおさまりつつ、無言に耐えられない私は、トキ殿下の方をチラリと見た

「ん?」

「いえ……」

誰か、トークの話題をください……

「フフッ……」
いきなりトキ殿下は笑いだした

「ごめんごめん。いつまでそんなにガチガチに緊張したままなのかなって思ってたんだけど、何も喋らなかったらもっと緊張するね?」

クスクス笑いながら話すトキ殿下は、とても楽しそうだ

「そうだ。明日一緒に出掛けようか?」
「え?どこへ?ですか?」

唐突な提案に驚くと

「ん~どこに行くとか全然考えてないけど……」
「どこか景色が良い所にしようか。どうだい?」

「はい。」
どう答えればいいのか分からず、ぶっきらぼうに答えてしまった

「じゃあ明日また迎えに来るよ」
そう言って握っていた私の手をすくい上げると、指にチュッとキスを落として部屋を去っていった


トキ殿下……距離感近すぎて私の心臓がもたない
こうして私のお出かけが決まった

結局あの噴水は何だったんだろう
トキ殿下の攻撃がすごすぎて、すっかり忘れていた

お姉様の声がした
あれも一体なんだったのか……
頭痛は不思議と消えていた


うーーん。
考えても私に分かることはなくて
とりあえず寝て明日のお出かけに備えることにした
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...