上 下
26 / 137

26.お誘い

しおりを挟む
私も魔法が使えるのだろうか?

お姉様は魔法が使えた
でも、使い方を教えては貰えなかった
『あなたもいずれ使えるようになるわ。その時がきたら。』
そんな感じではぐらかされて、結局教わる前にいなくなってしまった……
ソファーでぼーっと考えていると

「みさき様?」
ティーセットを持ってエリちゃんが現れた
慣れた手つきでティーカップにお茶を注ぐ

「あ。ありがとう」
ハーブのいい香りが漂っている

「こちらは、ライラ様からお茶と一緒に贈られてきた御品でございます」
そう言って、小さな黒い蕾がついた植木を差し出す

ライラさん。確か、黒薔薇の御屋敷の人だ
私は後宮見学ツアーのことを思い出した

光の魔力って言ってたよな……
そんな魔力が私に存在するのだろうか?

「薔薇かなぁ?」
エリちゃんに聞くと、

「おそらく、そうかと思われます。どちらに飾られますか?」
「うーん。陽の当たるとこがいいよね?」

「そうですね……。みさき様のお部屋は日当たりも良いですし、折角ですので、お部屋に飾られてはいかがでしょうか?」
「そっか。じゃあ、部屋に飾ろっかな」

エリちゃんは「かしこまりました」と言って、薔薇を持って部屋を出る
すると、入れ替わりでユミさんが入ってきた

「みさき様。カイリ殿下がいらっしゃっております」

殿下の訪問はいつも突然だったりするが、そんな毎日を過ごす度に、この突然の訪問にもあまり動揺せずにお迎えできるようになった

カイリ殿下は、いつぞやと同じグッタリした空気を身にまとって現れ、ソファーに座った
「みさき。宮廷に来てくれないか?」

「はえっ?!」

訪問には驚かなくとも、カイリ殿下の予想だにしない発言には驚かざるを得ない

「ルゥ達が会わせろとうるさい……」
そう言うと、頭を抱えてソファーにもたれた

(断れなかったんだろうなぁ~)

すると、ユミさんが
「カイリ殿下。宮廷へは……。」
と、言葉を濁した

そういえば、前にユミさんに、宮廷へは行ってはいけないと言われたのを思い出した
(あれ?なんでダメなんだっけ?)
そんな風に考えていると

「そうだったな……。」
殿下は何かを思い出したように頷いた

「確かに宮廷は空気が悪い。朝廷の役人も多いし、淀んだ魔力の巣窟だ。そんな場所に連れては行けないか……」
そして、少し考えた挙句

「宮廷から少し離れたところに、来賓をもてなす用に建てられた別邸がある。そちらならどうだ?」
ユミさんに代替案を提示した

「……。お勧めはできかねますが……そちらであればまだ……」

あと一押しでユミさんの方が折れそうな気配

「では、別邸の方で準備しよう。人避けはルイにやらせる。人の認識を偽る魔法をかける。さすれば建物自体そこにあることを認識することは出来なくなる。自分で言い出したんだ。きっちり仕事はしてもらう」

「それでどうだ?」

「わかりました」
ユミさんは、浮かない顔をしつつも私の別邸訪問を許可した

「それでは、明日。迎えに来る」
そう言って私に手を差し出した
その手に自分の手を自然と重ねると、殿下はフワッと少し微笑んだように表情を和らげた

なんだか胸がキュンとする……
少しの穏やかな時間が過ぎると、私の手を名残惜しそうに離し、宮廷へと去っていった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...