上 下
12 / 137

12.カイリ殿下と…キ……

しおりを挟む
今日もカイリ殿下は現れた
陽が落ち、街では街灯が灯っている頃だ

長椅子のソファーに隣合って座ると
「変わりないか?」
と聞いてくる
「……はい」

もっと可愛げのある答え方もあるだろうけど、上手く言葉にならない

「いつも時間が取れなくてすまない。今日は少し話をしたいと思ってな」

(お話チャンスかもしれない!)

「私も!聞きたいことがあるんですが、よろしいですか?」

「あぁ。なんだ?」

了承を得たところで、私は疑問に思っていたことを聞いていった

「何で毎日来てくれるんですか?お忙しいはずなのに。わざわざここまで…」
「様子が気がかりだからな。君は浄化ができないのだろう?私の魔法は浄化とは異なるものだ。」

「浄化じゃないけど。浄化できてる???」

「そうだな……説明が不十分だったな。」
「私の魔力の特性は『置換』だ。魔力を他のものに置き換えたり、変化させたり、使い方によっては便利なものだ。」
「君に施してるのも、この魔法を応用している」

難しすぎて分からない……

「今は、魔力の穢れを散らしているだけで、気にならなくなっているだけだ。魔力の穢れを取り除いている訳では無い」
「魔力は体を流れる血液のようなものだ。涙や汗などの体液にも魔力は影響する。触れずとも、魔法を使うことはできるが、できることが限られるのでな。」

「本来なら……」

そこまで言うと、殿下は口篭り、続きを口にしてはくれなかった

「いや。それは、今は置いておこう。それより……」

と言って、私に手を差し出した

「もうそそろ慣れたか?」

これは、手を出せという合図だ
毎日同じことをしてるから、その手に自分の手を重ねるものだと刷り込まれてしまった

慣れないうちは緊張でドキドキしていたが、今はこうしていると、むしろ少し安心するし、落ち着く。でもドキドキするのは変わることなく、私の心拍数を上げた

「あの…毎日これやらないと、ダメ…なんですかね?」

「根本の穢れを取り払える訳では無いからな。私の魔力で直接中和するのが1番なんだが、それはまぁ……」
「いや。忘れてくれ」

そう言って、私の手を離すと説明を終え、他の話題を振ってきた

「いつもここでは何をしている?」

「礼拝堂でご挨拶をして、あとは…何もしていません」

「……ん?」

私の仕事は多分形式だけのご挨拶
ここにはマリア様がいますよ~。っていう存在があれば人々は安心するし、不安な気持ちが解消する。それが心の浄化に繋がるし、国の安定にも繋がる
魔力は心と繋がっている。歪んだ心は魔力を曇らせる。

「えっと…何かもっとした方がいいですかね?」

「街に出たりしないのか?」
「いいえ。この敷地から出ない……です」

この教会の敷地は特殊な結界で守られている
だから、街に渦巻く想念や、人々の負の感情にも当てられない

「出たくないのか?」
「………出ない方が良いと、言われています」

カイリ殿下は少し考えた後に、ユミさんを呼んだ

「お呼びでしょうか。カイリ殿下」
「みさきを街に連れていこうと思うのだが、支度を任せたい」

(え?)

「しかし…みさき様は魔力に対する耐性がありません。負の魔力の影響を受けやすいので、街の人混みは難しいかと存じます……」

「『護り』を与える。それなら軽い思念であれば影響は受けまい。少し出歩くだけだ。直ぐに戻ろう」

「………かしこまりました」
ユミさんは外出を許可し、準備のために部屋を出た

あの、私の意思はどこへ……別に街とか興味はなく……家でゴロゴロしていちゃダメなんですかね??

殿下は私に向き合うと、自分の手のひらを見つめるようにボソボソと何かを唱えている

「口を開けろ」
そう言って、私の顎に手を添えた

(え!?)

近い!顔が近すぎる!!赤い瞳が迫ってくるドキドキに耐えられずギュッと目を閉じた

すると、口元にふわっと唇が触れる
チュッ……チュッ……と、優しく唇が重なり、カイリ殿下の魔力が口元から伝わってくる
その魔力を受け入れるように自然と体の力が抜け、緩んだ口元からスルッと舌が入り込んで来た
(ァ……魔力が………流れてくる……)

先程何か唱えていた魔力の塊が口を通して私の中に流れてきて、その甘美な魔力にトロトロになった

すると、チュッと音を立てて唇は離れ

「護りの呪符だ。そのまま飲み込め」

と囁かれた声にしたがって、与えられた魔力を飲み込んだ

少しすると、我に帰った私は一連の出来事に恥ずかしくなり、顔を赤らめうつむいた

「みさき様、お支度を…」
ユミさんが私を呼びに来た
声のする方に向かってフラフラっと歩き始める
(あ……えっと…今……キス……して………。)
歩く速度が自然と早くなる。

(はぁーーー!!ああーーー!!!!うわぁぁーー!)
バタバタと逃げるように部屋を出て行った
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...