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見上げた青に涙して
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「なぁ、亜美?」
夕日が沈み次第に辺りが暗くなり始めたころ、倉長くんが声を掛けてきた。
「どうしかしたの?」
なんだかソワソワと落ち着かない感じに見える。
いったいどうしたというのだろう。
首を傾げながら様子を窺う。
「やっぱり俺、こういうのを自然にやるのは無理かも」
次の瞬間、苦笑いを浮かべながら倉長くんがポケットの中からなにかを取り出したのが見えた。
「これ、なに?」
目の前に差し出したのは、ピンクのリボンがかけられた長方形の箱だ。
瞬きを繰り返しながら返答を待つ。
「誕生日プレゼント」
まさかの返答にハッとして、両手で口元を覆った。
「誕生日おめでとう。亜美にとって笑顔溢れる素敵な一年になりますように」
彼が照れくさそうに瞳を揺らす。
そんな姿がかわいらしく思えて顔を綻ばせた。
「ありがとう。すごくうれしい。開けてもいい?」
「ああ」
高鳴る鼓動を感じながら、ゆっくりとリボンをほどいていく。
「わぁ……素敵」
箱を開けたらハート型がモチーフのピンクゴールドのネックレスが目に飛び込んできた。
「倉長くんが選んでくれたの?」
「ああ。最終的に選んだのは俺。そのまえに堀田さんにアドバイスもらって選んだんだ。めちゃくちゃ亜美の好みが分かっていて、さすが親友だなって思った」
「そうだったんだ。じゃあ千佳にも感謝だね」
優しい千佳の顔が頭に浮かび、穏やかな温もりが心を満たしていく。
「ネックレスつけてやろうか?」
「うん。お願いします」
倉長くんが口元に弧を描きながらネックレスを手に取って私の後方へと回り込んだ。
トクトクと胸を高鳴らせながら待つ、この時間さえももはや愛おしい。
「つけ終わったよ」
少ししてやわらかな声色が届き、鞄の中から鏡を取り出し首元のネックレスを確かめた。
「すごく可愛い。ありがとう」
「気に入ってくれてよかった」
クシャッとした顔で笑う倉長くんを見て、愛おしさが込み上げてくる。
今日一日たくさんの優しさに触れて、ますます気持ちが膨れ上がっていく。
「倉長くん、大好きだよ」
自然と心の声が漏れてしまった。
普段、こんな風に面と向かって想いを口にしたことがないから急に恥ずかしさが込み上げてきて、気がつけば行き場を失った視線を目の前の砂浜へと向け駆け出していた。
さらさらとした砂浜の上に私の小さな足跡が刻まれていく。
「亜美、あんまり勢いよく走ると転ぶよ」
倉長くんもすぐに立ち上がり、私のあとを追って来る。
「大丈夫! 私そんなに……きゃっ!」
〝ドジじゃないから〟そう言いかけたそのとき。砂浜に足をとられ態勢を崩し、転ぶと思い反射的に目をつぶった。
だけどいっこうに訪れない衝撃。
その代わりに身体に感じる温かいぬくもりにゆっくりと目を開けた。
「ほら、俺の言うとおりになっただろ」
倉長くんの腕の中にいることに気づいた。
目の前には綺麗な顔がある。息遣いさえも伝わってしまいそうな距離感だ。
一気に胸のドキドキが加速していく。
向けられるまなざしは私を真っ直ぐに捉えて離さない。
「亜美……」
声色は甘く優しい。
口元を弓なりにする彼がより顔を近づいてくる気配がして、そっと瞳を閉じるとふたつの影が重なった。
夕日が沈み次第に辺りが暗くなり始めたころ、倉長くんが声を掛けてきた。
「どうしかしたの?」
なんだかソワソワと落ち着かない感じに見える。
いったいどうしたというのだろう。
首を傾げながら様子を窺う。
「やっぱり俺、こういうのを自然にやるのは無理かも」
次の瞬間、苦笑いを浮かべながら倉長くんがポケットの中からなにかを取り出したのが見えた。
「これ、なに?」
目の前に差し出したのは、ピンクのリボンがかけられた長方形の箱だ。
瞬きを繰り返しながら返答を待つ。
「誕生日プレゼント」
まさかの返答にハッとして、両手で口元を覆った。
「誕生日おめでとう。亜美にとって笑顔溢れる素敵な一年になりますように」
彼が照れくさそうに瞳を揺らす。
そんな姿がかわいらしく思えて顔を綻ばせた。
「ありがとう。すごくうれしい。開けてもいい?」
「ああ」
高鳴る鼓動を感じながら、ゆっくりとリボンをほどいていく。
「わぁ……素敵」
箱を開けたらハート型がモチーフのピンクゴールドのネックレスが目に飛び込んできた。
「倉長くんが選んでくれたの?」
「ああ。最終的に選んだのは俺。そのまえに堀田さんにアドバイスもらって選んだんだ。めちゃくちゃ亜美の好みが分かっていて、さすが親友だなって思った」
「そうだったんだ。じゃあ千佳にも感謝だね」
優しい千佳の顔が頭に浮かび、穏やかな温もりが心を満たしていく。
「ネックレスつけてやろうか?」
「うん。お願いします」
倉長くんが口元に弧を描きながらネックレスを手に取って私の後方へと回り込んだ。
トクトクと胸を高鳴らせながら待つ、この時間さえももはや愛おしい。
「つけ終わったよ」
少ししてやわらかな声色が届き、鞄の中から鏡を取り出し首元のネックレスを確かめた。
「すごく可愛い。ありがとう」
「気に入ってくれてよかった」
クシャッとした顔で笑う倉長くんを見て、愛おしさが込み上げてくる。
今日一日たくさんの優しさに触れて、ますます気持ちが膨れ上がっていく。
「倉長くん、大好きだよ」
自然と心の声が漏れてしまった。
普段、こんな風に面と向かって想いを口にしたことがないから急に恥ずかしさが込み上げてきて、気がつけば行き場を失った視線を目の前の砂浜へと向け駆け出していた。
さらさらとした砂浜の上に私の小さな足跡が刻まれていく。
「亜美、あんまり勢いよく走ると転ぶよ」
倉長くんもすぐに立ち上がり、私のあとを追って来る。
「大丈夫! 私そんなに……きゃっ!」
〝ドジじゃないから〟そう言いかけたそのとき。砂浜に足をとられ態勢を崩し、転ぶと思い反射的に目をつぶった。
だけどいっこうに訪れない衝撃。
その代わりに身体に感じる温かいぬくもりにゆっくりと目を開けた。
「ほら、俺の言うとおりになっただろ」
倉長くんの腕の中にいることに気づいた。
目の前には綺麗な顔がある。息遣いさえも伝わってしまいそうな距離感だ。
一気に胸のドキドキが加速していく。
向けられるまなざしは私を真っ直ぐに捉えて離さない。
「亜美……」
声色は甘く優しい。
口元を弓なりにする彼がより顔を近づいてくる気配がして、そっと瞳を閉じるとふたつの影が重なった。
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