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見上げた青に惹かれて
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柏原くんにありえない条件だされてから毎日、色を失ったような世界を生きている気がする。あれだけ楽しみにしていた夏休みだが、気づけば溜め息ばかりついている。
バイト帰りにそのまま家に戻る気にはなれなくて、行き宛てもなく街を彷徨っていた。
頭上からは燦燦と太陽の光が降り注ぐ。
まさに夏本場。蝉が忙しく鳴く声が耳に届くなか、学校近くの裏門坂が見える橋の上からぼんやりと周りの風景を眺めていた。
ふと緑が生い茂る裏門坂に目を向けた。
「あっ……」
坂を自転車で駆け上っていく自転車競技部の面々が見え、ハッと息を呑んだ。
一糸乱れぬ隊形は見ていて本当に圧巻。しかも上り坂をあの速さで上っていく脚力は相当のものだろう。
自然と倉長くんの姿を探す。すぐに彼の姿を見つけ、歯を食いしばりながら必死にペダルを漕ぐ姿を見て胸が熱くなった。
あの日、思わぬ形で唐沢くんから倉長家の事情を聞き、全力で彼を応援したいと思った。
だとすれば……。
橋の欄干を握る手に力を込めながら、すべての感情を呑み込むようにそっと目を閉じた。
***
辺り一面がオレンジ色に染まるなか、学校近くの公園で部活終わりの倉長くんを待っていた。
緊張から胸の鼓動は落ち着くことを知らない。
なにも永遠な別れってわけじゃないのだから、こんなふうになるのは大げさなのかもしれない。
自然にやんわりと、普通の友達に戻ろうと彼に伝えるだけの話なのだと何度も自分自身に言い聞かせながら、ブランコで遊ぶ小学生の男の子たちをぼんやりと見つめていたそのとき。
「遅くなってごめん」
聞き慣れた声が耳に届き、意識がそちらにもっていかれた。
「ううん。いきなり呼びだしてごめんね。練習お疲れさま」
とっさにベンチから立ち上がり、倉長くんの方に足を進めていく。
「亜美から会おうって言ってくれたのって初めてだよな」
うれしそうに目じりを下げながらそう言われると胸が苦しくなる。
とっさに視線を下に落として静かに息を吐いた。
「なにかあったのか?」
私の様子がおかしいと気づいた倉長くんが自転車から降りて私の顔を覗き込んでくる。
どこまでも優しい彼の姿に胸が疼いた。
明日から倉長くんとの関係がぎくしゃくしないためにも、軽いノリで関係解消のことを伝えるべきだよね。
顔を上げ、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「あの……」
「うん」
「なにかあったとかじゃないから心配しないで。ただ……そろそろ彼カノの関係を解消したいなって思ってて」
「え?」
明らかに彼の表情が強張ったのが分かったが、今更止めるわけにもいかず静かに淡々と話を続けた。
「あれから柏原くんからなんのアクションもないし。それに倉長くんってモテるから女の子のファンが多いじゃない? 学校でいろいろその子たちを敵に回すのもしんどいっていうか。だから普通の友達に……」
切なげな瞳が向けられ、そんな顔しないでと思わず心の声が漏れそうになる。
「……そっか。分かった。今まで無理させて悪かった」
次の瞬間、私の言葉を遮るようにどこか震える声が耳に届いた。
目を合わせることなく、彼が悲しげに笑みを口元に浮かべる。
それから重たい沈黙が流れ、彼がゆっくりと私に背を向けて歩き出した。
とっさに遠くなる背中に向かって伸ばした手を引っ込め、静かに拳を握る。
ああ、どうして。
今このタイミングなのだろう。
込み上げてきた感情に胸がぎゅっと締め付けられ、気づけば視界がじんわりと滲んでいた。
「私、倉長くんのことが……」
彼が公園を立ち去って数分。
オレンジ色の空をおもむろに見上げながら呟いた私の思いは。
誰にも届かない。
バイト帰りにそのまま家に戻る気にはなれなくて、行き宛てもなく街を彷徨っていた。
頭上からは燦燦と太陽の光が降り注ぐ。
まさに夏本場。蝉が忙しく鳴く声が耳に届くなか、学校近くの裏門坂が見える橋の上からぼんやりと周りの風景を眺めていた。
ふと緑が生い茂る裏門坂に目を向けた。
「あっ……」
坂を自転車で駆け上っていく自転車競技部の面々が見え、ハッと息を呑んだ。
一糸乱れぬ隊形は見ていて本当に圧巻。しかも上り坂をあの速さで上っていく脚力は相当のものだろう。
自然と倉長くんの姿を探す。すぐに彼の姿を見つけ、歯を食いしばりながら必死にペダルを漕ぐ姿を見て胸が熱くなった。
あの日、思わぬ形で唐沢くんから倉長家の事情を聞き、全力で彼を応援したいと思った。
だとすれば……。
橋の欄干を握る手に力を込めながら、すべての感情を呑み込むようにそっと目を閉じた。
***
辺り一面がオレンジ色に染まるなか、学校近くの公園で部活終わりの倉長くんを待っていた。
緊張から胸の鼓動は落ち着くことを知らない。
なにも永遠な別れってわけじゃないのだから、こんなふうになるのは大げさなのかもしれない。
自然にやんわりと、普通の友達に戻ろうと彼に伝えるだけの話なのだと何度も自分自身に言い聞かせながら、ブランコで遊ぶ小学生の男の子たちをぼんやりと見つめていたそのとき。
「遅くなってごめん」
聞き慣れた声が耳に届き、意識がそちらにもっていかれた。
「ううん。いきなり呼びだしてごめんね。練習お疲れさま」
とっさにベンチから立ち上がり、倉長くんの方に足を進めていく。
「亜美から会おうって言ってくれたのって初めてだよな」
うれしそうに目じりを下げながらそう言われると胸が苦しくなる。
とっさに視線を下に落として静かに息を吐いた。
「なにかあったのか?」
私の様子がおかしいと気づいた倉長くんが自転車から降りて私の顔を覗き込んでくる。
どこまでも優しい彼の姿に胸が疼いた。
明日から倉長くんとの関係がぎくしゃくしないためにも、軽いノリで関係解消のことを伝えるべきだよね。
顔を上げ、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「あの……」
「うん」
「なにかあったとかじゃないから心配しないで。ただ……そろそろ彼カノの関係を解消したいなって思ってて」
「え?」
明らかに彼の表情が強張ったのが分かったが、今更止めるわけにもいかず静かに淡々と話を続けた。
「あれから柏原くんからなんのアクションもないし。それに倉長くんってモテるから女の子のファンが多いじゃない? 学校でいろいろその子たちを敵に回すのもしんどいっていうか。だから普通の友達に……」
切なげな瞳が向けられ、そんな顔しないでと思わず心の声が漏れそうになる。
「……そっか。分かった。今まで無理させて悪かった」
次の瞬間、私の言葉を遮るようにどこか震える声が耳に届いた。
目を合わせることなく、彼が悲しげに笑みを口元に浮かべる。
それから重たい沈黙が流れ、彼がゆっくりと私に背を向けて歩き出した。
とっさに遠くなる背中に向かって伸ばした手を引っ込め、静かに拳を握る。
ああ、どうして。
今このタイミングなのだろう。
込み上げてきた感情に胸がぎゅっと締め付けられ、気づけば視界がじんわりと滲んでいた。
「私、倉長くんのことが……」
彼が公園を立ち去って数分。
オレンジ色の空をおもむろに見上げながら呟いた私の思いは。
誰にも届かない。
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