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見上げた青に惹かれて
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「さっき倉長くんが綺麗な女性と親しそうに話してるのを見かけたの。それで気になってこっそり後を追ったらこの店に入っていくのが見えて……ストーカーみたいで引くよね」
堪忍したように本当のことを口にした。
唐沢くんは今、どんな表情で私を見ているのだろう。
きっと軽蔑しているに違いない。そう思うと怖くて彼の方を見れない。
拳をギュッと握りながら下唇を噛んだ。
「別に引かないよ。好きなひとのことは気になるよね。俺も怜の様子が気になってこっそり見にきたところだから」
予想外の返答におずおずと顔を上げた。
「きっと亜美ちゃんが見たのは、店のオーナーの理紗さんだと思う。怜って不愛想だけど顔はいいでしょう? だからここで働いてほしいってスカウトされて働き始めたんだ」
「そうなんだ……」
やはりバイトをしているのだと知ったけれども、胸のもやもやは消えない。
なんでだろう。
近い距離で女性を接客しているところを目撃してしまったからなのかな。
私、もしかして嫉妬してる?
でも、もしかしたら倉長くんもうちみたいに経済的に苦しい家庭なのかもしれない。
だからここで働いてるとしたら……。
うちの学校は原則バイト禁止。でも経済的に厳しいなど事情があれば、学校側に届を出し許可してもらえる。私も学校に届を出してアルバイトをしている身だ。
「ここイケメン揃いのカフェで、巷では王子様カフェって呼ばれてるみたい。怜は部活がないときにここで働いてるんだ。ここ時給がよくて効率よく稼げて自転車の練習の妨げにならないから。まぁ、うちの学校ってバイト禁止だからバレたら停学を喰らうかもだけどね」
唐沢くんが苦笑いを浮かべながらこちらを見る。
リスクを負ってまで倉長くんが働く事情っていったい……。
「どうして危険を犯してまでバイトしてるの?」
思わずそう聞かずにはいられなかった。
「うーん。怜の父親って世界中でリゾートホテルを経営してて、怜にも怜のお兄さんにも早く後を継いでもらいたくてそっちの勉強をさせたいみたいでさ。怜が自転車競技に打ち込むことに大反対してるの。それでいろいろと揉めて……」
意外な形で倉長くんの家庭の事情を知ることになり、瞳を揺らしながら唐沢くんを見つめる。
「怜のお兄さんは親に言われたとおりの道を進んだみたいだけど、怜は自転車で叶えたい夢があるからそれを拒否し続けて。今は実家を出てお兄さんのマンションでふたりで暮らしてるんだ。それで学校の学費以外は親から援助を受けてなくて、自転車にかかるお金を稼ぐためにここで働いてるってわけ」
「……そんな事情があったんだね。倉長くんってどんな状況でも自分で道を切り開いてすごいや」
唐沢くんから事情を聞き終えると、さきほどまで抱いていた感情とはまったく別のものが沸々と湧き上がってきて、自然と店の方に視線を送る。
「怜が強くあれるのは、亜美ちゃんがいてくれたからだよ」
そんな声が飛んできて、意識がそちらに動いた。
「私、いつも倉長くんに助けてもらってばかりでなにもしてあげられてないよ」
思わず首を横に振る。
「そんなことないよ。怜にとって亜美ちゃんは今も昔も大切な人に他ならないから」
唐沢くんがふわりと笑いながら私の顔を覗き込んできた。
「今も昔も? それってどういうこと?」
「それはね……そのうち分かると思う」
彼はそうはぐらかし、店内で働く倉長くんに優しいまなざしを向けて微笑んだ。
堪忍したように本当のことを口にした。
唐沢くんは今、どんな表情で私を見ているのだろう。
きっと軽蔑しているに違いない。そう思うと怖くて彼の方を見れない。
拳をギュッと握りながら下唇を噛んだ。
「別に引かないよ。好きなひとのことは気になるよね。俺も怜の様子が気になってこっそり見にきたところだから」
予想外の返答におずおずと顔を上げた。
「きっと亜美ちゃんが見たのは、店のオーナーの理紗さんだと思う。怜って不愛想だけど顔はいいでしょう? だからここで働いてほしいってスカウトされて働き始めたんだ」
「そうなんだ……」
やはりバイトをしているのだと知ったけれども、胸のもやもやは消えない。
なんでだろう。
近い距離で女性を接客しているところを目撃してしまったからなのかな。
私、もしかして嫉妬してる?
でも、もしかしたら倉長くんもうちみたいに経済的に苦しい家庭なのかもしれない。
だからここで働いてるとしたら……。
うちの学校は原則バイト禁止。でも経済的に厳しいなど事情があれば、学校側に届を出し許可してもらえる。私も学校に届を出してアルバイトをしている身だ。
「ここイケメン揃いのカフェで、巷では王子様カフェって呼ばれてるみたい。怜は部活がないときにここで働いてるんだ。ここ時給がよくて効率よく稼げて自転車の練習の妨げにならないから。まぁ、うちの学校ってバイト禁止だからバレたら停学を喰らうかもだけどね」
唐沢くんが苦笑いを浮かべながらこちらを見る。
リスクを負ってまで倉長くんが働く事情っていったい……。
「どうして危険を犯してまでバイトしてるの?」
思わずそう聞かずにはいられなかった。
「うーん。怜の父親って世界中でリゾートホテルを経営してて、怜にも怜のお兄さんにも早く後を継いでもらいたくてそっちの勉強をさせたいみたいでさ。怜が自転車競技に打ち込むことに大反対してるの。それでいろいろと揉めて……」
意外な形で倉長くんの家庭の事情を知ることになり、瞳を揺らしながら唐沢くんを見つめる。
「怜のお兄さんは親に言われたとおりの道を進んだみたいだけど、怜は自転車で叶えたい夢があるからそれを拒否し続けて。今は実家を出てお兄さんのマンションでふたりで暮らしてるんだ。それで学校の学費以外は親から援助を受けてなくて、自転車にかかるお金を稼ぐためにここで働いてるってわけ」
「……そんな事情があったんだね。倉長くんってどんな状況でも自分で道を切り開いてすごいや」
唐沢くんから事情を聞き終えると、さきほどまで抱いていた感情とはまったく別のものが沸々と湧き上がってきて、自然と店の方に視線を送る。
「怜が強くあれるのは、亜美ちゃんがいてくれたからだよ」
そんな声が飛んできて、意識がそちらに動いた。
「私、いつも倉長くんに助けてもらってばかりでなにもしてあげられてないよ」
思わず首を横に振る。
「そんなことないよ。怜にとって亜美ちゃんは今も昔も大切な人に他ならないから」
唐沢くんがふわりと笑いながら私の顔を覗き込んできた。
「今も昔も? それってどういうこと?」
「それはね……そのうち分かると思う」
彼はそうはぐらかし、店内で働く倉長くんに優しいまなざしを向けて微笑んだ。
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