見上げた青に永遠を誓う~王子様はその瞳に甘く残酷な秘密を宿す~

結城ひなた

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見上げた青に導かれて

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映画を観終えた頃には昼近くになっていたので、ひとまず映画館の下の階にある飲食街に向かうことにした。昼ご飯を食べた後に、電車で隣町にある遊園地に行こうという話になっている。

「ラスト、最高だったな」

「そうだね。私、ウルッときちゃった」

下の階に向かうエスカレーターに乗ると、前にいる唐沢くんと千佳が映画の話で盛り上がっていた。傍からみるとカップルにみえるほどにふたりは仲がいい。

お似合いだなと思いながらエスカレーターを降りて飲食街を歩き始めたところ、突如視界が揺れ足元がふらついた。

「亜美?」

倉長くんが私の異変に気付き、足を止めて私の顔を覗き込んできた。その様子に気づいた千佳と唐沢くんもこちらに視線を送る。

「亜美、なんかあった?」

すぐに千佳が私のもとにかけ寄ってきてくれた。

「ううん。なんでもない。大丈夫だよ。なんかつまずいちゃったみたい」

「そうなの?」

「うん」

そう答えたものの、本当は映画を観ている途中から身体がだるくて悪寒と気持ち悪さに襲われていた。でも、場の雰囲気を壊したくなくて必死に平静を装う。

ご飯を食べる間に少し身体を休めたら体調が回復するかもしれない。そんな淡い希望を抱きながら千佳たちのあとを歩いていたそのときだった。

「悪いけど、俺たちここで抜けるな」

隣を歩いていた倉長くんがそう言って私の腕を引くと、私の視界は一変した。それは彼が私のことを抱き上げ、唐沢くんたちに背を向けてスタスタと歩き出したからだ。

慌てて後方を見たら驚いたように目を見開く唐沢くんと千佳の姿が目に飛び込んできた。周りの通行人もざわざわとしだし、羞恥心からじたばたと足をばたつかせた。

「みんなが見てるから下ろして」

「ちょっとおとなしくしててもらえる?」

倉長くんは周りの視線なんかまったく気にしない様子で、凛とした表情で私を抱きかかえたまま歩みを進めていく。

「あの人、めちゃくちゃカッコいい」

「あんな人にお姫様抱っことか羨ましい」

すれ違う若い女の子たちのそんな声が聞こえてきて頬が熱くなっていく。こんなところを学校の誰か見られでもしたら、また噂を立てられるかも。

なによりも、周りの視線が痛い。

「恥ずかしいから下ろして。お願い! 倉長くんってば」

見上げながら再度懇願すると、突如、彼の瞳が降ってきて心臓が跳ね上がった。

「俺からしたら、しんどそうな亜美を連れ回してそのまま過ごす方が恥ずかしいけどな」

「え?」

思わず目を丸くした。

「具合、悪いんだろ?」

そこには申し訳なさそうな表情を浮かべる姿がある。

「いつから気づいてたの?」

「映画の途中あたりからおかしいと思ってた。さっきもふらついてただろう? もっと早く声をかけてやれなくて悪かった」

人気がない広場のベンチに私を下ろし、彼が前にしゃがみこんで心配そうに見つめてくる。

「倉長くんはなにも悪くないよ。迷惑かけてごめんなさい」

頭を下げると彼が私の肩に触れ、上体を起こされた。

「ちょっとここで待ってて。すぐ戻るから」

やわらかな声色が耳に届き、静かに頷く。彼は自分が着ていた上着をそっと私の肩にかけてひとり駅の方面へと歩いて行った。

それから少しして倉長くんが走って私のもとに戻ってきた。手に持つビニール袋からミネラルウォーターのペットボトルを手渡され、遠慮気味にそれを受け取る。

「ありがとう」

促され口にすると、少しだけ体調がよくなった気がした。

「少し楽になった気がする」

「それはよかった。すぐそこにタクシーを呼んだからひとまず家に送るよ」

彼が私の前に腰を下ろし、背中に乗れと手で示す。

どうやらおんぶしてくれようとしてくれているみたいだ。

「い、いいよ。歩けるから」

だけど、恥ずかしいからそこは全力拒否を決め込んで首を横に振る。

「こういうときは素直に彼氏に甘えればいいんだ」

彼は私をとことん甘やかす。

それに素直に甘えていいものなのだろうか。

戸惑っていると彼が背を向けて再び私の前にしゃがみ込んだ。

「ほら、行くぞ」

穏やかな声に導かれるようにそっと彼の肩に手を置く。

「……お言葉に甘えさせてもらいます」

願わくは、この高鳴る鼓動が背中から伝わっていませんように。

そんなことを心の中で呟きながら、彼の温もりに身を預けた。
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