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見上げた青に導かれて
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カラオケ店を出て歩きだすと、自然と重い溜め息が漏れた。
「……断ればよかったな」
それができなかった自分の弱さを呪いたい気分だ。
あとで優香に謝りの連絡をいれようと心に誓いながら人通りの少ない裏通りを抜け、駅のアーケード街に出ようとしたそのときだった。
「亜美ちゃん!」
男の人の声が耳に届き、そちらに意識が流れた。
「あっ!」
瞳を見開きながら足を止める。
声をかけてきたのは、さっきカラオケ店で『ふたりでここを出ようよ』と誘ってきた柏原くんだった。
なぜ彼がここに現れたのだろうと心が騒めきだす。
「亜美ちゃん、ハンカチ忘れてた」
目の前に差し出されたパステルピンクのハンカチにハッとした。そのまま息が上がった様子の彼を見上げる。
「……すみません。わざわざありがとうございま……」
軽く頭を下げてから差し出されたハンカチを受け取ろうとすると、腕を引かれ彼の顔が間近に迫った。
「こ、こういのは困ります! 止めてください」
頭のなかがパニックになり、とっさに柏原くんの手を払いのけてしまった。
「ちょっと揶揄っただけじゃん。てか、いつまでそうやって純情ぶってんの?」
さっきまでのやわらかい雰囲気は影を潜め、向けられたまなざしには苛立ちが見て取れる。きっと私の態度が彼を怒らせてしまったのだろう。
怖くなって思わず後ずさりしたら、あっという間にコンクリートの壁に押しやられてしまった。
「ま、強情な女の子も嫌いじゃないけど」
ニヤリと笑う彼が瞳に映る。ふいに顎を掴まれ、とっさに目を瞑り顔を背けたその刹那。
「その手、彼女から離してもらえます?」
低く苛立ちを含んだ男の人の声が耳に届き、瞳を開けてそちらを見た。目に飛び込んできた光景に一瞬、思考が停止する。
「く、倉長くん……?」
そこにいたのはクラスメートの倉長くんだった。制服姿の彼がこちらに足を進めてきたと思えば、そのまま私と彼の間に割って入り私の顎にかかっていた彼の手を掴んだのが見えた。
「いきなりなんなんだよ? 邪魔すんな」
柏原くんが不服と言わんばかりに眉を顰め、倉長くんを睨む。
「そういうわけにはいかないんで」
倉長くんは一切怯むこともなく、毅然とした態度でそう言い放った。
見て見ぬふりをすることだってできたのに。
どうしてほとんど関わったことのないただのクラスメートである私を助けてくれようとするのだろう。
ぴりぴりと空気が張り詰めていくなか、大きな背中を見つめるしかできない。
「亜美ちゃん、コイツといったいどういう関係なわけ?」
柏原くんの視線がこちらに流れてきてクラスメートだと伝えていいものか悩んでいると、先に倉長くんが口を開いた。
「亜美は、俺の彼女だから」
「はっ? 彼女?」
柏原くんの驚いたような声が聞こえた。
……今、倉長くん、なんて?
か、彼女って……言わなかった?
高速な瞬きを繰り返していると、倉長くんがこちらを振り向き私の手を取ってから再び柏原くんに視線を送った。
「過度なスキンシップされるとこっちもいい気しないんで。二度と彼女に近づかないでもらえます? 行こう、亜美」
「……っ」
まったく頭と心がついていかないなか、倉長くんが私の手を取って駅のアーケード街の方に向かって歩き出した。
「……断ればよかったな」
それができなかった自分の弱さを呪いたい気分だ。
あとで優香に謝りの連絡をいれようと心に誓いながら人通りの少ない裏通りを抜け、駅のアーケード街に出ようとしたそのときだった。
「亜美ちゃん!」
男の人の声が耳に届き、そちらに意識が流れた。
「あっ!」
瞳を見開きながら足を止める。
声をかけてきたのは、さっきカラオケ店で『ふたりでここを出ようよ』と誘ってきた柏原くんだった。
なぜ彼がここに現れたのだろうと心が騒めきだす。
「亜美ちゃん、ハンカチ忘れてた」
目の前に差し出されたパステルピンクのハンカチにハッとした。そのまま息が上がった様子の彼を見上げる。
「……すみません。わざわざありがとうございま……」
軽く頭を下げてから差し出されたハンカチを受け取ろうとすると、腕を引かれ彼の顔が間近に迫った。
「こ、こういのは困ります! 止めてください」
頭のなかがパニックになり、とっさに柏原くんの手を払いのけてしまった。
「ちょっと揶揄っただけじゃん。てか、いつまでそうやって純情ぶってんの?」
さっきまでのやわらかい雰囲気は影を潜め、向けられたまなざしには苛立ちが見て取れる。きっと私の態度が彼を怒らせてしまったのだろう。
怖くなって思わず後ずさりしたら、あっという間にコンクリートの壁に押しやられてしまった。
「ま、強情な女の子も嫌いじゃないけど」
ニヤリと笑う彼が瞳に映る。ふいに顎を掴まれ、とっさに目を瞑り顔を背けたその刹那。
「その手、彼女から離してもらえます?」
低く苛立ちを含んだ男の人の声が耳に届き、瞳を開けてそちらを見た。目に飛び込んできた光景に一瞬、思考が停止する。
「く、倉長くん……?」
そこにいたのはクラスメートの倉長くんだった。制服姿の彼がこちらに足を進めてきたと思えば、そのまま私と彼の間に割って入り私の顎にかかっていた彼の手を掴んだのが見えた。
「いきなりなんなんだよ? 邪魔すんな」
柏原くんが不服と言わんばかりに眉を顰め、倉長くんを睨む。
「そういうわけにはいかないんで」
倉長くんは一切怯むこともなく、毅然とした態度でそう言い放った。
見て見ぬふりをすることだってできたのに。
どうしてほとんど関わったことのないただのクラスメートである私を助けてくれようとするのだろう。
ぴりぴりと空気が張り詰めていくなか、大きな背中を見つめるしかできない。
「亜美ちゃん、コイツといったいどういう関係なわけ?」
柏原くんの視線がこちらに流れてきてクラスメートだと伝えていいものか悩んでいると、先に倉長くんが口を開いた。
「亜美は、俺の彼女だから」
「はっ? 彼女?」
柏原くんの驚いたような声が聞こえた。
……今、倉長くん、なんて?
か、彼女って……言わなかった?
高速な瞬きを繰り返していると、倉長くんがこちらを振り向き私の手を取ってから再び柏原くんに視線を送った。
「過度なスキンシップされるとこっちもいい気しないんで。二度と彼女に近づかないでもらえます? 行こう、亜美」
「……っ」
まったく頭と心がついていかないなか、倉長くんが私の手を取って駅のアーケード街の方に向かって歩き出した。
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