アア

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第一章

1ー2

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 そこから十日、彼女との関係はまだ続いている。
 ここまで来たらわざわざ昼休みの時間を無駄にしてまで僕達の会話に耳を傾ける生徒はほとんどいなくなっていた。
 だが、こうなると別の問題が生じてくる。それは、この関係を断ち切ることが難しくなったという問題だ。今、僕と彼女の間の関係は彼女から断ち切られることはおそらくしばらくはない。昨日彼女から「あの作家の本がもうほとんどないから別の作家の本についても話しましょう。他に好きな作家っている?」と聞かれたときに本を読んだことのある適当な作家名を馬鹿正直に答えてしまったためである。
 だから、必然的に僕達の関係を断つには僕の方から関係を切ろうとしていくしかないのだが僕の方から彼女との関係を断った場合、陰キャの僕にさらなる悪意が向けられることは目に見えている。そうなったら、僕は今までよりも多くの悪意にさらされるだろう。
 そういうわけで僕は彼女から関係を断ち切ってくれるのを待っている。
 だが、そううまくはいかないのだろうな、と考えていたら彼女が僕の席の前までやってきた。
 そう言えば、もう昼休みだ。
「今日はこれ!」
 やってくるなり彼女は両手で僕の前に本を突き出してきた。その本は、僕の好きな作家が書いたものだ。
「あれ、今日は違う作家の本について話すんじゃないんですか?」
「うんん。今日はこの人の本について話すよ。空太君が好きな別の作家の本はこの人の本全部について話してから」
「ああ、なるほど……」
 そういうことか。
 確か、一人目の作家の本は今日の本を含めてあと二冊だ。キリがいいので一人目の作家の本についてはすべて語ってしまおうということらしい。
「それでねそれでね……」
 その一言を合図に彼女は持ってきた本の面白かった点を語り始めた。
 僕は相も変わらず彼女とは違う、それでもその本の面白いと思える部分を語る。
 そうして昼休みの終了五分前のチャイムを合図に本の面白かった部分についての話を追えると、彼女は満足気に席を立った。
「今日も楽しかった!ありがとう空太君」
「あ、いえ……」
「じゃあ、また明日も話そうね」
「……はい」
 今日もまた、「明日話そうね」か。
 一体いつになったらこの関係を断ち切ることができるのだろうか。
 なるべく早くそんな日が来てほしいなと考えながら次の授業の準備に取り掛かった。
 
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