過去と未来と彼女

アア

文字の大きさ
上 下
20 / 47

真実 part5

しおりを挟む
 咲ちゃんが家に引きこもって十年が経過したある日。私は俊太君と一緒に居酒屋で会っていた。
「こうして会うのも久しぶりですね留美さん」
「そうだね。一年ぶりくらいかな」
 言いながら、私はメニュー表に目を通し、何を頼むか考える。
 若干迷って私は焼き鳥とビールを注文することにした。
「教師が平日の夜からビール飲んでていいんですか?」
「別にいいの。はい、メニュー表」
 言いながら、私は俊太君にメニュー表を手渡す。
 そうして、メニュー表を見ながら頼むものを決めている俊太君を見ながら私はこれまでのことを思い返していた。
 あれから私は高校の教師に、俊太君は地方の公務員になった。
 私が教師になったのは咲ちゃんみたいな自分の殻に閉じこもってしまう子を出さないようにするためだ。俊太君が公務員になったのだって本人から聞いたわけではないがおそらく似たような理由だろう。
「じゃあ、僕も留美さんと同じので」
「俊太君だってお酒飲むんじゃん」
「別にいいじゃないですか。折角久しぶりに会ったんだから」
「それもそうだね」
 それから、注文した焼き鳥を食べながら私達はそれぞれ他愛のない話をした。
 他愛のない話と言っても二人とも相変わらず雑談だけは上手くなっていないので若干ぎこちなくなってしまっているのだが……
 そうして、酔いもそこそこに回ってきたところで私は俊太君に
「俊太君、私過去に戻ろうと思うの」
 と告げる。
 私のその発言に俊太君は「突然呼び出したと思ったらやっぱりそう言う話ですか」と言ったので、私は頷いた。
 五年前にタイムマシンができ、過去に戻ることが可能になったタイミングで過去に戻りたいとは思っていた。その時点では今のような役所はなく、タイムマシンも個人が簡単に使用できるものではないため諦めていたが、今こうして役所が設立されてタイムマシンを個人的な目的に使用しても問題のない社会になっているのであれば、タイムマシンを使って過去に戻るのは悪い選択ではないだろう。
「留美さん、一応聞きますけど過去を変えることでここでの歴史が変わるかもしれないんですよ。その点を理解したうえで過去に戻ろうとしているんですか?」
 もちろん、というのも少しおかしいが私だって歴史が変化してしまう可能性を考えていないわけではない。だが、それを差し引いても私は過去に戻って咲ちゃんを救いたい。昔は過去に戻ってもそれは並行世界であるため歴史を変えても未来は変化しないと言われていたが、今は役所が設立されたことで過去を変えれば今この時間の歴史が変化することになっている。
 その上で、私は俊太君の疑問に答える。
「私だって、過去を変えることで今の歴史が変わるかもしてないことはわかってる。でもそれでも私は咲ちゃんを救いたい。いじめの恐怖から解放してあげたい」
 その言葉は私の心からの言葉だった。
 高校の教師として三年過ごしている間に、私はいじめというものを目の当たりにした。そのいじめ問題は何とか解決することができたが、いじめというものの恐ろしさはダイレクトに伝わってきて、咲ちゃんを救いたいという思いをさらに強くするのには十分すぎる出来事だった。
「本気なんですね」
 私は再度頷く。
「わかりました、それなら僕も止めません。でもその代わり約束してください。どうしても一人で抱え込むのが辛くなった時は過去でそばにいる人に真実を伝えて助けを求めてください。いいですね?」
「うん、わかった」
 私はそう言って、それから過去のどこの誰の所に飛ぶか、過去での職業は何にするかについて話し合った。
 話し合いの結果、私は過去の俊太君の家に飛んで、私達の通っていた高校の教師をすることになった。ちなみに過去の俊太君の家に飛ぶことになったのは、それが一番面倒くさくないからだ。
 俊太君はさっきあんな約束をした手前か恥ずかしそうにしていたが、止めてはこなかったのでまあ問題はないだろう。
 ……そうして、私はタイムマシンに乗って過去に戻ろうとして、過去の俊太君にする言い訳を考えていなかったことを思い出した。
 しかしまあ、言い訳か……それなら、と思い浮かんだのは好きになってもらうために未来から過去に来たという言い訳だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

抱きたい・・・急に意欲的になる旦那をベッドの上で指導していたのは親友だった!?裏切りには裏切りを

白崎アイド
大衆娯楽
旦那の抱き方がいまいち下手で困っていると、親友に打ち明けた。 「そのうちうまくなるよ」と、親友が親身に悩みを聞いてくれたことで、私の気持ちは軽くなった。 しかし、その後の裏切り行為に怒りがこみ上げてきた私は、裏切りで仕返しをすることに。

処理中です...