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真実 part5
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咲ちゃんが家に引きこもって十年が経過したある日。私は俊太君と一緒に居酒屋で会っていた。
「こうして会うのも久しぶりですね留美さん」
「そうだね。一年ぶりくらいかな」
言いながら、私はメニュー表に目を通し、何を頼むか考える。
若干迷って私は焼き鳥とビールを注文することにした。
「教師が平日の夜からビール飲んでていいんですか?」
「別にいいの。はい、メニュー表」
言いながら、私は俊太君にメニュー表を手渡す。
そうして、メニュー表を見ながら頼むものを決めている俊太君を見ながら私はこれまでのことを思い返していた。
あれから私は高校の教師に、俊太君は地方の公務員になった。
私が教師になったのは咲ちゃんみたいな自分の殻に閉じこもってしまう子を出さないようにするためだ。俊太君が公務員になったのだって本人から聞いたわけではないがおそらく似たような理由だろう。
「じゃあ、僕も留美さんと同じので」
「俊太君だってお酒飲むんじゃん」
「別にいいじゃないですか。折角久しぶりに会ったんだから」
「それもそうだね」
それから、注文した焼き鳥を食べながら私達はそれぞれ他愛のない話をした。
他愛のない話と言っても二人とも相変わらず雑談だけは上手くなっていないので若干ぎこちなくなってしまっているのだが……
そうして、酔いもそこそこに回ってきたところで私は俊太君に
「俊太君、私過去に戻ろうと思うの」
と告げる。
私のその発言に俊太君は「突然呼び出したと思ったらやっぱりそう言う話ですか」と言ったので、私は頷いた。
五年前にタイムマシンができ、過去に戻ることが可能になったタイミングで過去に戻りたいとは思っていた。その時点では今のような役所はなく、タイムマシンも個人が簡単に使用できるものではないため諦めていたが、今こうして役所が設立されてタイムマシンを個人的な目的に使用しても問題のない社会になっているのであれば、タイムマシンを使って過去に戻るのは悪い選択ではないだろう。
「留美さん、一応聞きますけど過去を変えることでここでの歴史が変わるかもしれないんですよ。その点を理解したうえで過去に戻ろうとしているんですか?」
もちろん、というのも少しおかしいが私だって歴史が変化してしまう可能性を考えていないわけではない。だが、それを差し引いても私は過去に戻って咲ちゃんを救いたい。昔は過去に戻ってもそれは並行世界であるため歴史を変えても未来は変化しないと言われていたが、今は役所が設立されたことで過去を変えれば今この時間の歴史が変化することになっている。
その上で、私は俊太君の疑問に答える。
「私だって、過去を変えることで今の歴史が変わるかもしてないことはわかってる。でもそれでも私は咲ちゃんを救いたい。いじめの恐怖から解放してあげたい」
その言葉は私の心からの言葉だった。
高校の教師として三年過ごしている間に、私はいじめというものを目の当たりにした。そのいじめ問題は何とか解決することができたが、いじめというものの恐ろしさはダイレクトに伝わってきて、咲ちゃんを救いたいという思いをさらに強くするのには十分すぎる出来事だった。
「本気なんですね」
私は再度頷く。
「わかりました、それなら僕も止めません。でもその代わり約束してください。どうしても一人で抱え込むのが辛くなった時は過去でそばにいる人に真実を伝えて助けを求めてください。いいですね?」
「うん、わかった」
私はそう言って、それから過去のどこの誰の所に飛ぶか、過去での職業は何にするかについて話し合った。
話し合いの結果、私は過去の俊太君の家に飛んで、私達の通っていた高校の教師をすることになった。ちなみに過去の俊太君の家に飛ぶことになったのは、それが一番面倒くさくないからだ。
俊太君はさっきあんな約束をした手前か恥ずかしそうにしていたが、止めてはこなかったのでまあ問題はないだろう。
……そうして、私はタイムマシンに乗って過去に戻ろうとして、過去の俊太君にする言い訳を考えていなかったことを思い出した。
しかしまあ、言い訳か……それなら、と思い浮かんだのは好きになってもらうために未来から過去に来たという言い訳だった。
「こうして会うのも久しぶりですね留美さん」
「そうだね。一年ぶりくらいかな」
言いながら、私はメニュー表に目を通し、何を頼むか考える。
若干迷って私は焼き鳥とビールを注文することにした。
「教師が平日の夜からビール飲んでていいんですか?」
「別にいいの。はい、メニュー表」
言いながら、私は俊太君にメニュー表を手渡す。
そうして、メニュー表を見ながら頼むものを決めている俊太君を見ながら私はこれまでのことを思い返していた。
あれから私は高校の教師に、俊太君は地方の公務員になった。
私が教師になったのは咲ちゃんみたいな自分の殻に閉じこもってしまう子を出さないようにするためだ。俊太君が公務員になったのだって本人から聞いたわけではないがおそらく似たような理由だろう。
「じゃあ、僕も留美さんと同じので」
「俊太君だってお酒飲むんじゃん」
「別にいいじゃないですか。折角久しぶりに会ったんだから」
「それもそうだね」
それから、注文した焼き鳥を食べながら私達はそれぞれ他愛のない話をした。
他愛のない話と言っても二人とも相変わらず雑談だけは上手くなっていないので若干ぎこちなくなってしまっているのだが……
そうして、酔いもそこそこに回ってきたところで私は俊太君に
「俊太君、私過去に戻ろうと思うの」
と告げる。
私のその発言に俊太君は「突然呼び出したと思ったらやっぱりそう言う話ですか」と言ったので、私は頷いた。
五年前にタイムマシンができ、過去に戻ることが可能になったタイミングで過去に戻りたいとは思っていた。その時点では今のような役所はなく、タイムマシンも個人が簡単に使用できるものではないため諦めていたが、今こうして役所が設立されてタイムマシンを個人的な目的に使用しても問題のない社会になっているのであれば、タイムマシンを使って過去に戻るのは悪い選択ではないだろう。
「留美さん、一応聞きますけど過去を変えることでここでの歴史が変わるかもしれないんですよ。その点を理解したうえで過去に戻ろうとしているんですか?」
もちろん、というのも少しおかしいが私だって歴史が変化してしまう可能性を考えていないわけではない。だが、それを差し引いても私は過去に戻って咲ちゃんを救いたい。昔は過去に戻ってもそれは並行世界であるため歴史を変えても未来は変化しないと言われていたが、今は役所が設立されたことで過去を変えれば今この時間の歴史が変化することになっている。
その上で、私は俊太君の疑問に答える。
「私だって、過去を変えることで今の歴史が変わるかもしてないことはわかってる。でもそれでも私は咲ちゃんを救いたい。いじめの恐怖から解放してあげたい」
その言葉は私の心からの言葉だった。
高校の教師として三年過ごしている間に、私はいじめというものを目の当たりにした。そのいじめ問題は何とか解決することができたが、いじめというものの恐ろしさはダイレクトに伝わってきて、咲ちゃんを救いたいという思いをさらに強くするのには十分すぎる出来事だった。
「本気なんですね」
私は再度頷く。
「わかりました、それなら僕も止めません。でもその代わり約束してください。どうしても一人で抱え込むのが辛くなった時は過去でそばにいる人に真実を伝えて助けを求めてください。いいですね?」
「うん、わかった」
私はそう言って、それから過去のどこの誰の所に飛ぶか、過去での職業は何にするかについて話し合った。
話し合いの結果、私は過去の俊太君の家に飛んで、私達の通っていた高校の教師をすることになった。ちなみに過去の俊太君の家に飛ぶことになったのは、それが一番面倒くさくないからだ。
俊太君はさっきあんな約束をした手前か恥ずかしそうにしていたが、止めてはこなかったのでまあ問題はないだろう。
……そうして、私はタイムマシンに乗って過去に戻ろうとして、過去の俊太君にする言い訳を考えていなかったことを思い出した。
しかしまあ、言い訳か……それなら、と思い浮かんだのは好きになってもらうために未来から過去に来たという言い訳だった。
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