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44「保健室」

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放課後に保健室に呼び出されたので、帰りの支度を済ませ壮馬に一言断ってからようやく慣れてきた学校の廊下を一人歩いて目的地へ向かった。
扉をノックするとすでに待っていてくれたようで出迎えてくれた司波先生にティーポットとコップが用意されている机に案内された。

なぜか佐々木先生も一緒にいたが司波先生が文句を言わないという事は織り込み済みのようだ、俺も気にしないことにする。

お茶を飲みながら寮長会議の事を改めて司波先生から説明を受けた。
司波先生の説明を要約すると青瀬寮長は俺の体質のリバートの仕方についても把握していて他の寮長、副寮長はもし万が一具合が悪くなったら応急処置でハグをしてもらってもいいとの事だ。

は、ハグのおねがいするの?
あのオーラの塊みたいな人たちに?
…。
そんな機会が訪れない事を願っている…。
藤堂先生も担任で俺と接する機会が多いため、対応が必要であればしてくれるそうだ。
キスは相手の気持ちもあるのでよっぽどの事態にならなければしなくていいって言われたけど、よっぽどの事態がこない事を祈るしかない。


「で、大事なのはここからだよ」

司波先生の説明が一通り終わると今度は佐々木先生が大真面目な顔をして口を開いた。

「君の体質は食事と同じなんだ、常に精気を消費している。だから誰かに補給してもらわなきゃいけないんだけどこれまではハグだけの少量の精気で食いつないでいたんだよね。今はそれも解消されてそれなりに体内に溜まって貯蓄されてるから、…半分…うーん半分以下かな。でも以前よりもだいぶいい」

じっと俺の瞳を覗き込んでまた何やら精気の量を見ているらしい佐々木先生がうーんと唸った。
半分…。
壮馬とキスで半分か…。

「ちょっとだけ俺の話をしておくと、具体的に体質そのものが見えている訳じゃないんだ。その人から見えるオーラみたいなものを見て予測しているだけであてずっぽうなとこもあるんだよね。俺は色々な体質を持った人と会う機会が多くてさ、その経験則でおおよその答えを導き出しているに過ぎない。でも君の精気に関しては空腹時のオーラの色をもう見ているからこの予測はたぶんあってるはず、空腹が寒色の青とかそんな色で、今は緑ぐらいだからきっと満タンになると暖色になるんじゃないかな」

そうなんだてっきり全部見えているんだと思ってた。不思議な力であることには変わりないけど。
なんてことはないように言っているがきっとその力はこの世界でもすごい事だと思う。
司波先生も話を聞きながら感心した顔をしていた。

「ごめん長くなっちゃたね、つまり君が希望しているトレーニングをするには最低でも黄色やオレンジぐらいはいるんじゃないかな。もっともっとエネルギーが必要ってことだね」

そこまで喋っていた佐々木先生がポンと両手を叩くとにっこりと微笑んだ。

「そこでふれあいタイムを設けようと思うんだけど」
「ふ、ふれあいタイム…?」

な、なにその動物と触れ合おうみたいな名前…。
良くわからないけど続きを聞いてみない事にはわからないので俺は口を噤んで先を促した。

「まずは俺が君の精気の消費量をしばらく確認しながらどれぐらいのペースでふれあいタイムを設ければいいか決めるよ。相手は指名してもいいし、なければ当番制かな」

と、当番制…。
お世話係みたいじゃないか…。
指名するのもそれはそれで恥ずかしい気がする…。

「しばらくは俺、青瀬くん、あと桂木くんの3人で…本当はもう少し人数がほしいところだけど様子をみてみようかな」

人数は増えないでほしい。
切実に。
苦い顔をした俺を見た佐々木先生がふっと笑うと慰めるように頭をポンポンと撫でてきた。
しょうがないじゃないか、人数が増えるなんて…顔に出る程嫌なんだもん。

「常に3人が対応できれば問題ないけど俺も青瀬くんも時間に融通が利くかというとそうでもないからね。桂木くん一人にしわ寄せが行くのは大変だと思うし。まあそれは追々ね。…さて、話はこれぐらいかな」
「わっ」

するりと腰に手を回されて引っ張られたかと思ったら先生の太ももの上に座っていた。
流れるようにスマートな動きにされるがまま見上げると、にこっと微笑まれた。

え、なにこれ。

佐々木先生がちらりと目配せすると、司波先生は立ち上がって保健室から出て行ってしまった。
俺の前を通り過ぎる司波先生は俯いていて表情が見えなかった。

「あの、司波先生はどこに…」
「ん?司波先生に見られながらキスしたい?…彼が気の毒だからあんまりおすすめはしないなあ」
「キ!?」

横切った司波先生の雰囲気がどことなく悲しそうな、なんか辛そうな感じがして気になって閉まってしまった扉をじっと見つめて佐々木先生に問うと飛んでもない事を言われて一瞬にして頭が真っ白になった。

今キスって言った?

「何のために俺が来たと思ってるの、お預けされてからずっと待ってたんだよ」
「お、おあずけ?」

じわり、と頬が熱くなる。
指先にキスした佐々木先生の大人っぽい視線を思い出してしまって心臓がバクバクとうるさく鳴りだす。
見る見るうちに大人しく縮こまってしまった俺を見て瞳を細めるとそうっと伸びた指先が顎の下をするりと撫でた。
くすぐったさにピクと肩を揺らして避けるように身を捩るが佐々木先生の腕はがっちりと腰にま触れていて全くびくともせず俺の抵抗を難なく受け流している。

「いい子の先生にちゅう、して?」
「…っ…」

なんでそんなに楽しそうなんだろう。
視線を彷徨わせて、ちらりと唇をみると楽しそうに弧を描いた。
その唇はゆっくりと形を変えてん、とキスをせがむように唇を尖らせてじっと俺の次の行動を待っていた。
すこしだけ逡巡したあと拳をぎゅっと握って佐々木先生に向き直るとドキドキと震える手で肩に手を添えるように置きゆっくりと唇に自分のそれを近づける。

「っ…ん」

距離感がわからず目を瞑ったままゆっくりと顔を寄せると、ふにと触れたやわらかいもの。
それが佐々木先生の唇だと思うと頭が沸騰しそうなぐらい恥ずかしさが押し寄せてすぐに離れてしまった。
俺が唇を離してもしばらく目を閉じたままじっとしていた佐々木先生がゆっくりとまつ毛を上げると、きょとんと目を丸くして見つめ返されたが照れくさくて視線を落としてしまった。

「…うーん…」
「?…せ、せんせ?」

また目を瞑ってしばらく唸った後なんだか、困ったような顔をして佐々木先生が小さく微笑む。
色んな先生の笑顔を見てきたがそのどれとも違う。

「お預けされた甲斐は、あったかな」
「え、あ……ん………」

小さく囁いた佐々木先生に、はむっと唇を食まれて咄嗟に肩を押すように手を上げたが大した抵抗にはならなかった。
塞がれた唇はやわやわとお互いのを擦り付けるように食んでは吸ってを繰り返すので、息継ぎのタイミングがわからなくなって段々と苦しくなってくる。
苦しいのを察したのかすっと離れて俺の息が整うのを待ってから、今度はゆっくりと押し付けるように何度か唇が合わさって離れてこちらのペースに合わせるようにゆっくりとしたものへ変わった。

強張っていた身体が少しだけ緩み方からも力が抜けてはあ、と小さく息をつく。

「んっ…は、あ……♡♡」

息を吸ってちゃんと呼吸を整えているはずなのに、なぜかせわしなく肩は上下していた。
唇が熱くてぺろりと舐めて潤すとその様子を見られていることに気付いて目を伏せる。
伏せた視線を追うように屈んでもう一度チュッと軽く口付けると佐々木先生がそっと肩を押して距離を取ったのでこれで終わりのようだ。

ふーふーと呼吸を整えながら火照る身体を必死に静めていると背中に回った掌がゆっくりと落ち着かせるように撫でてくる。
以前もこうして俺が落ち着くまで背中を撫でてくれたことあったな、なんて頭の隅で思い出していると。

「んー…もっとしたいけど、唇しびれちゃいそうだね…」
「ふあ…はー♡…はー♡…」
「とろっとろだね…♡…かわいいなあ」

ゆっくりとした口付けに夢中になっていたせいで気付かなかったが、触れ合った唇はじんじんと熱を持って痺れていた。
ふっと息を吐いた佐々木先生が顔を近づけて瞳を覗き込んでくるのでじっと終えるのを待っていると満足そうに頷いて頭を撫でられる。

「うん、やっぱり俺の予想したとおり、色が緑から黄緑になってる。イイ感じだ」

もう色とか気にしてる余裕ないって…。
はふはふとめいっぱい空気を肺に取り込むことに集中する。
佐々木先生は全く動じていないようで、俺のように息が上がったり顔が赤くなったりもしていなかった。

その事に、ちょっとだけ寂しく感じたのはなんでだろう。

「ふむ、俺の身体にも特に異常はないみたいだ。キス程度じゃ精気はそこまで吸われないからかな。うんうん…興味深い…」

一人で自分の手をグーパーしたり、身体を確かめるように触ったりブツブツと独り言を呟いている佐々木先生。
その様子を空気を吸って吐いてを繰り返しながらぼんやりと眺めていると思い出したようにこちらに向き直りすごく意味深な笑顔を浮かべて微笑まれた。

「…ちなみに、アレ出しちゃうとその分精気減っちゃうからね」
「…え?…あ、あれって…?」
「夏目くんが俺に一生懸命擦りつけてたこれ」
「んあっ♡」

するりと下腹部を撫でられてビクリと震える。
先日の昂り以来意識しないようにしていた、そこに直接的な刺激を与えられて下腹が熱くなった。
ていうか無意識に擦り付けてたなんて恥ずかしすぎてこの場から逃げ出したい。
涙目になりながら必死で身体を離して佐々木先生から距離を取った。

「どうしても我慢できなくてしちゃったらその分補給してもらわないといけないから注意してね」

そ、そんな。
俺の絶望した顔に苦笑いすると、大丈夫だよと励ますように慰められたが一体どこが大丈夫なんだろうか。
この先の自慰行為を禁止されたようなものだというのに。
こちとら思春期真っただ中の男子だぞ!

「夏目くんが我慢できなくてしちゃったらさ、その分誰かからもらえばチャラになるはずだから」
「は、はい…?」

言っている意味が分からない。もらうとは?
一体何を貰うと言うのだろうか。
佐々木先生は分かっていない様子の俺に続ける。

「精液を貰えばいいんだよ」
「………」
「君の事を心配しているのに、なぜか司波先生は頑なにそれを提案しようとはしなかったけど俺は夏目くんの体質がある限りこれは避けて通れない道だと思ってる。この先キスだけじゃどうしようもない事があるかもしれない。そうなる前に、耐性みたいな意味でも慣れておいた方がいいと思うな、フェラチオに」
「……ふぇ……?」

ふぇらちおとは…?
あの、女の子がおちんちんを舐めて気持ち良くするというAVでも定番なプレイの一種のことでよいかな?
先生はなんてことないみたいに言っているけど俺はあまりの衝撃に頭をガツンと殴られたぐらいの衝撃を受けていた。

き、キスだってようやく俺は覚悟を決めてこうしてしているのに。
その上男のものを咥えろと言うのか?

む、むり。
無理だって…。
なんでおれこんな目に遭ってるの、もう意味わからん。
何この世界。

完全にキャパオーバーの頭は思考停止し、頬から涙が伝った。

「わ、わっ…ごめんね?まさか泣くとは…」
「う、うう…俺むりです…」

さっきまでの余裕そうな表情から一転して慌てながらぎゅうっと抱きしめて頭を撫でられるが、そんなことでは俺の混乱は収まりそうもなかった。
俺が落ち着くまでしばらくじっとしていたが少し冷静になったので身体を離してもらうと同時ぐらいにコンコンと軽くノックの音が聞こえて扉の向こうから司波先生の声が聞こえた。

それを合図に佐々木先生が膝から俺を下ろすと「とりあえず今日はこれでおしまい。午後の授業も頑張って」と微笑んだ。


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