俺は絶対に男になんてときめかない!~ときめいたら女体化する体質なんてきいてない!~

立花リリオ

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42「ファーストキス」

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俺の寮部屋に帰ってくるなり、当然のように一緒に入ってきて内鍵を掛けると扉の前に立ちふさがった壮馬が口を開いた。

「説明してくれ」

重たい空気の中、俺は頭の中を整理しながらなんとか説明した。
具合の悪い原因は精気不足で具合が悪かったという事、そのために佐々木先生に補給してもらっていた事。
ハグだけじゃ足りないと言われてキスする必要があるという事。
協力してくれる人を増やす事。

夜中の移動中に誰かに見られて幽霊騒動になっていた事。これは俺も今知ったことだけど…。


拙いところも多々ある俺の話を何も言わずにただ聞いている壮馬の表情からは感情が読み取れなくて不安になりながらも隠さず全部の事を洗いざらい打ち明けた。
全て話し終えるまでじっと黙ったままの壮馬が一言ぽつりと零した。

「…つまりキスしたらお前の具合は良くなるんだな?」
「たぶん…」
「わかった」

一言そう返すと壮馬が俺の方へ一歩近づく。
近付いた分だけ俺は後退した。

「…壮馬?」

なんだか嫌な予感がして声を掛けたのだが壮馬はさらに距離を詰めてくる。
鬼気迫るオーラにたじろぎながら迫ってくる壮馬から逃げるように更に後ろへ下がっていく。

わかったとはいったい…。

「キス、すればいいんだろ」
「いやいやいや、そんな簡単に言うけど…俺だよ?体質が出て女の姿ならまだしも、俺今男だし…壮馬が無理してすることないんだよ?」

今にも顔を近づけて来そうな壮馬に汗をかきながら必死で声を掛けるが気にした素振りもなく顔を覗き込んでくる瞳にジワリと目元が熱くなった。
な、なんでそんなに躊躇がないんだよ。

焦りながらじりじりと下がるが寮部屋は狭いせいで距離を取ることが難しそうだ。
背後を気にして動きが鈍ったところに腕が伸びてきて肩を掴まれてしまった。

「俺がお前にあんな態度取ったからお前は俺に頼れなくなって、倒れそうなくらいギリギリの状態になったんだろ…。元の世界に戻る事で頭がいっぱいだったから、余裕がなくて…、ずっと律が辛そうなのわかってたのに変に意地張って声すらかけられなかったから…」

じっと見詰めてくる瞳は泣きそうに歪んでいて、思わず動きを止めてしまった。
痛みを隠さず絞り出すように喋る壮馬に抵抗する気力が奪われていった。

「こんな事態を招いたのは俺のせいだ」

自分の事を責めている壮馬の姿に胸が苦しくなる。
こうなってしまったのは俺のせいで壮馬は何も悪くないのに。
俺の方こそ、壮馬の事避けて黙ったまま自分だけで動いた結果がこれだ。

壮馬のため、と言いながら逃げてたのは俺の方だ。


「律、俺は帰るために最善を尽くす、戻れなくちゃ意味がない。俺はお前と帰りたいんだあの日常に。…だからもう迷わないし出来ることはなんだってやる」
「お、俺だって同じだよ!一緒に帰りたい…壮馬と一緒に」

じわと目頭が熱くなりながら壮馬の思いに答えるように精一杯頷いた。
壮馬もうん、と小さく頷いて小さく笑った。

久しぶりにちゃんと顔を見て話せた気がする。
ずっと隠していた事が明るみに出たせいか俺の肩の荷も少しだけ軽くなった気分だ。

そうだよ、俺たちの目的は帰る事だ。

そのために俺だって頑張るって決めたのだ。
壮馬もずっと同じ気持ちだった。
体質のせいで見えなくなっていたお互いのわだかまりが解けて本来目指していた道に戻れたような気がする。


そう決意を新たに固めていたら、目の前に暗い影が差した。
視線を移すと壮馬の顔が間近にあってぎょっとするが同時に肩を掴まれてしまっていて身体を引こうにもびくともしない。

「あああ、ちょっとまって…まってってば」
「まだなにかあるのか?」
「え!いや…ほ、ほんとにするの?」
「する。…俺がしなくてもキスはしないといけなんだろ?あのよくわかんない調子のいい先生とか寮長と…だったら俺がする」
「で、でも…」
「俺とはできない?」
「そ、そういう事じゃなくて…」

唇がもう触れてしまうほどの近距離で止まったままかなしげに眉を寄せてこちらを見つめる目は子犬のそれだ。
壮馬の顔が間近にあって、伏せられたまつ毛の長さに一瞬気を取られる。
目を伏せた壮馬の表情が妙に大人びていて、ドキドキと心音が上がった。

できるとか、できないとかじゃない。
わかってるするしかないって。
でも、でもさ。

「…は」
「は?」
「……俺!初めてなんだってば…!」

なんでこんなこと言わなきゃいけないんだ。
言い放った後暫し沈黙が流れたと思ったら目をパチパチさせて壮馬が小さく知ってると囁いた。

反論する前に寸前で止まっていた唇は塞がれていた。
俺、初めてだって言ったよね!?
初めてだからなんだって言われるとそりゃそうだけど…。
心の準備とか、あるじゃん…。

「んんっ………」

ちゅっと軽く触れてから離れた唇は一瞬過ぎてあっという間の出来事だった。

ふわっとしたのが触れて壮馬の吐息が唇を撫でて離れて行った。
これがキス…。
こんな感じなんだ。

な、なんか思ってたのと違ったかも…。
あっけなく俺の初めては壮馬に奪われてしまった。

壮馬に…。
向こうの世界ではする可能性のなかった相手に。


「これでもう初めてじゃなくなったな」
「そ、壮馬お前っ!」

普段あまり笑わない壮馬の瞳が楽しそうに細められてぽやっとその顔を見つめていたらその隙を狙ったようにもう一度唇が触れた。
不意を突かれて抵抗が一瞬遅れてしまった。

「…んあっ…ちょっと……んっ」

先ほどと違い確かめるように軽く食むと離れる。
触れただけの時と違って、唇同士がむにゅっと合わさりぞわりと腰が震えた。

「二回目」
「ひ、なんでそんなのりのりなの…っ」
「ん…さん、しー…」
「…あ、う…んんっ♡」

身体に力が入って呼吸もいつすればいいのかわからずぎゅっと閉じたままの唇を温かくて柔らかい壮馬の唇で塞がれては離れる。
ただ唇が触れているだけなのに、顔や体も熱を持ってじわりと汗ばんできた。

隙を見て浅い呼吸をしてなんとか空気を体内に取り込んでいる傍からちゅっと吸われてますます空気が足りなくなってしまって苦しい。

壮馬は数を数えながら徐々に触れる時間を長くしていて、唇同士が触れたり吸い付かれたり色んな角度でやわやわと食むように唇で挟まれたりと様々な触れ方をしてきた。
初めて触れた時は感じなかったのに唇同士が合わさるとそれだけでたまらない気持ちになって、湿った吐息が触れるだけでもお腹の下がぞわぞわして足が小さく震えてしまう。
抵抗のために突っ張ていた手は今壮馬に縋るように掴むので精一杯だった。
恥ずかしさに閉じた瞳の目尻には涙が溜まっていた。

「ちゅ…っ…はあ…♡♡……んん♡♡」
「……なな…はち……」

荒くなった息が勝手に甘い声を上げて自分の意志では止められなくて、自分のこんな声聞きたくないのに媚びたような声が耳に届く度に羞恥に身体が熱くなる。

「ぅ、ふ、…♡♡……あ、あ…、はあっ♡♡♡」

言葉を発する余裕もなくなって小さな喘ぎと荒くなった呼吸だけが俺の口から洩れてもお構いなしに何度もキスされた。
いつの間にかぴったりと下半身が触れ合っていた。
自分の意志ではどうにもできない揺れる腰を押し付けるとじんじんとお腹の下が疼くように熱くなってたまらない。

「はあ、はっ…♡♡……んん……んっ♡♡」

下半身が熱を持ち掛けたところでふうと一息ついた壮馬が身体を離した。
俺は思わずぎゅっと背中を掴んでしまいそうになってしまったが寸でのところで手をパーにしてぎこちなく距離を取った。

一瞬離れて行く壮馬を引き留めようとしてしまった。

くっついていたぬくもりが無くなった身体は一気に冷えていく。





「とりあえずこれだけしておけばいいだろ…」
「…心の準備もなしに…おれの、初めてが…」

はふはふと呼吸を繰り返しながら呟く。
ファーストキスどころか…両手で足りないぐらいされてしまった。
なぜか満足そうな壮馬と呆気に取られている俺。

「いっぱいしといた。あいつらにしてもらわなくてもいいぐらいにな、…体調はどうだ?」

なんてことないように言い放つ壮馬に面食らったが体調について聞かれて確かめるように両手をグーパーしてみると、なんだか先ほどまでよりも指先にも力が入っているように感じた。
こんなことで本当に良くなるのかと半信半疑だった俺は驚きに目を開いて壮馬に向き直った。

「…な、なんかすごく良くなった気がする…!」

佐々木先生に戻してもらった時以上に身体に力がみなぎっている気がする。
以前の俺の体調に戻っている。

「すごい!壮馬すごいよ!キスってすごい…!」

久しぶりに身体が軽い。
ハグで応急処置してもらっていた時とは明らかに違う。
身体に精気が満ちている感じがする。

今なら全力でダンスとかできちゃいそう!踊れないけど!

嬉しくて飛び跳ねてしまった。
笑いかけると壮馬も小さく笑い返してくれてなんだか久しぶりに穏やかな雰囲気になれたことも相俟って二倍嬉しい。

そうだ、この感じ。
ダルさがない。
ふらつきやめまいがない。
当たり前に感じていた健康の有難みを噛み締める。



「念のためもう一回ぐらいしとくか?」
「っ!!きょ、今日はもういいよっ」

じっと俺の顔を見つめてくる目が本当にしそうなので慌てて両手で口元を隠すと、苦笑いされてしまった。
な、なんか壮馬ってこんな感じだったっけ?

ドキ…。

いやいや、ドキってなんだよ。
何を動揺してるんだ。
きっと久しぶりにちゃんと話したせいだ。

ふーと思考を追い払ってから、改めてちらりと壮馬に視線を送るとある事に気付く。

あれ…。
壮馬の耳真っ赤だ…。
余裕そうにしてるけど壮馬もそれなりに緊張してたのかな。

そ、そっかー…。
ふーん。


「おい、なにニヤニヤしてるんだよ」
「えっ別に…なんでもないよ!」

緩んだほっぺたをきゅうっと摘まもうとしてきた手を避けて逃げると追いかけてくるので俺もさらに距離を取るために足に力を込めて狭い寮部屋の端っこから端っこへ移動する。
そんなじゃれあいを数分したあと、疲れた俺は息を上げながら休憩!と声を上げた。
ソファに座りぽつりぽつりとお互い気まずかった時間を埋めるように色々な話をした。




「…あの、壮馬。避けちゃってごめん…、もう隠し事するのやめるし、困ったらすぐに壮馬に相談する。だから、これからまた一緒に手がかり探してくれる?」
「当たり前だろ…。謝るのは俺もだ。でも、もう覚悟を決めたから。…絶対に帰るぞ」
「…うん!」

この時俺はまだ壮馬と仲直り出来た事と体調が良くなったことを喜ぶだけでこの先の事なんて何も考えていなかった。
精気摂取のためにこれから色んな人とハグしたりキスしたりしなきゃいけないなんて事はすっかり頭の中から抜け落ちていたのだ。



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