俺は絶対に男になんてときめかない!~ときめいたら女体化する体質なんてきいてない!~

立花リリオ

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41「幽霊騒動11」

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本題とは何ぞやと思いながら座り直し緑茶を啜っていると程なくして来客を知らせるチャイムが聞こえ司波先生が出迎えに向かった。
戻って来た司波先生と一緒にやって来たのは、‥‥青瀬寮長と、壮馬。

部屋に入って来たのは俺の知っている人物で固まったまま見ていると二人もそんな俺に気付きどちらも言葉を発することなく見つめあうというよくわからない時間が流れた。
見かねた佐々木先生が声を掛けて、促されるまま空いているクッションへ座る二人。

司波先生の部屋は寮部屋と比べれば広いが男が5人ローテーブルを囲むとさすがに圧迫感があった。

佐々木先生はここからが本題だと言っていた。
青瀬寮長はおそらく協力者への打診として呼び立てたのだろうけど、壮馬も一緒に?

えっと…これはまずいのでは…。
内心焦っている俺を余所に場を仕切るように佐々木先生が声を上げた。

「さて、揃ったね」
「先日の件についてまずお話させてください」

先日の件?
口を挟める雰囲気ではないので頭に疑問を浮かべながらも黙ったままじっとして話に耳を傾ける。

「あの夜、アビス寮一階の廊下で青瀬くんが対峙したのは夏目くんです」
「…は…?」
「え!?」

思わず俺まで声が出てしまったが直ぐに口を噤んだ。
ああ、そうか…そこから説明しないといけないのか…。

視界の端で壮馬が目を丸くさせて唖然としているのが見えた。

壮馬は関わってないからこのことは知らないはず、だし…できれば黙っておきたかったのだけど…。
やっぱりこれは良くない、この流れを止めるだけの術がなくぎゅっと手を握った俺の頬にたらりと汗が伝った。

隣では司波先生の言葉に納得していない様子の青瀬寮長が即座に言葉を返す。

「あり得ません。俺が会った渦中の人物は顔こそ見えなかったですが、女性でした。そう司波先生にも伝えたと思います。夏目とは寮の風呂で一度会っていて彼が男であるというのをこの目で見ています」
「夏目くんは性別が変わるという特異な体質を抱えています。体質を戻すためには何かしらの対応をしないといけない事はご存じですよね?あの日はそのために僕たちの教員寮へ行く途中だったんです」

「見た目がちょっと変わるからね、髪の長さとか、体型とか。それを隠すためにバスタオルを被って歩いてたんだよね?夏目くん」
「は、はい…あの、俺の姿を見られないようにと思って、…バスタオルぐらいしか隠せるものがなくて」
「それを見た、スピカの寮生から例の幽霊の噂が広まったと言った、…そんなところでしょう」

バスタオルを被って廊下を歩いていたのは確かだ。

司波先生は今幽霊の噂って言った。
俺のバスタオルを被って歩く姿が幽霊に見えたって事なのか?
そう言えばあの時佐々木先生もそんなようなことを言っていたような。

つまり、…噂の大元は俺だった?

言われてみれば俺が消灯後の廊下を出て歩いた次の日に噂が流れ始めていた。
バスタオルを被って歩く俺を誰かが見ていて噂を流したって事になる。
一気に血の気が引いて行った。
俺が怖がっていたのは俺だったってこと…?

壮馬は口を開いたまま固まっていたが、ぐっと口元を引き締めたと同時にこちらへ視線を向けた。
思わずビクリと肩が震える。
どういうことだと目が訴えているが俺は視線を彷徨わせて、何も言えずに逸らしてしまった。
壮馬に秘密にしてやっていたことがばれてしまう。

青瀬寮長が天を仰ぎ一度息をつくと強張った表情で頷いた。

「正直まだ理解できていませんが、わかりました。ここまで情報を明かしたという事は何か俺にやるべきことがあるということですか?」
「話が早くて助かります…。青瀬くんには協力者になってほしいのです」
「寮長が事情を知っていれば今よりも何かと融通が利きそうだし、俺からもお願いするよ」
「協力者ですか」
「具体的には定期的に夏目くんとスキンシップをとってほしいんだよね。ハグとか、キスも出来れば有難いんだけど」
「キス…」

対して驚いた様子もなく俺の方を見ながら呟いた。
こちらを見る青藍の瞳に居たたまれず目を伏せる。

「キスで補給できる人数は多い方がいい」
「佐々木先生、夏目くんの意志を尊重してください」
「夏目くんはリバート対応の許可を出したんでしょう?なら問題ないと思うけど」

「…さっきから何の話をしているんですか?」

少しいらだったように壮馬が声を上げた。
明らかに怒りを含んだような声色に表情も硬く目に見えて困惑している。

「そ、壮馬っあの…」
俺が説明しようとしたら司波先生がこちらに目配せして代わりに口を開いた。

「夏目くんのここ最近の体調不良はご存じですよね?精気をハグで摂取しているだけでは足りなくなってしまったため他の方法で摂取する必要が出てきたのですが、そのために新たな協力者を探していたんですよ。桂木くんは夏目くんの体質を知る関係者なので今回情報を共有する必要があると思いお呼びしました」

司波先生の言葉をぼんやりと聞きながら、困惑を映した瞳が縋るようにこちらを見た。

あ…。

俺は間違えた。

こんな顔をさせたかった訳じゃない。
自分にできる事を、と思って動いていたのに。
今、どう弁解してもこの状況を変えることは出来ないとはっきりとわかる。

「なんだそれ…律、俺には大丈夫だって言ってたのは嘘だったってことか?」
「…ごめん」

何を言ってもいい訳になってしまうし心配していた壮馬に嘘をついていたのは本当だから素直に謝罪した。
顔を見れず視線は下へ下がっていく。

納得していない様子の壮馬が肩をぐっと掴みこちらを見るように促すが俺は顔を上げる勇気がなかった。

「なんで俺に言わなかった?」
「……だ、だって…」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。今は青瀬くんに協力をお願いできるかどうかのが先だよ」

佐々木先生が話を切ると、話題はまた青瀬寮長に戻った。
壮馬は苦々しく佐々木先生に鋭い視線を向けるがそれ以上口を挟むことはしなかった。
俺たちの険悪な空気には誰も触れないようにしながら話は進んでいく。

「協力は無理でも寮内で事情を把握すべきだと思って今回すべてお話しました」
「なるほど、そうですね…。ここまでの騒動に発展してしまいましたからね」

ちらりと俺と壮馬を一瞥してから、考えるように唇に手を当てて数秒。

「わかりました、いいですよ。俺にできる事ならよろこんで」
「ありがとうございます。良かった…、青瀬くんなら信頼できるし適任です」
「…え、あの…つまり?」
「夏目、よろしくな」

戸惑った俺の問いかけにあまりにあっさりと青瀬寮長は頷いたので俺は目を丸くして絶句した。

ええーーー!!!?
寮長あっさり承諾しすぎでは!?

そんな爽やかに俺に向かって笑顔向けてるけど、本当にわかってるのかな。
だ、だって、それってつまり寮長とハグしたりキスするかもしれないってことで。

そんな簡単にいいですよなんて言って大丈夫なんだろうか。

正直簡単に協力者になってもらえるとは思ってなかったので楽観視していたけど青瀬寮長とそ、そういう事するかもしれないという事実が一気に現実味を帯びて汗が額に滲んだ。



「まずはこれ以上大事になる前に、各寮長達に共有します。体質の詳細は省いて時間外の行動の認可をお願いしようと思っています」
「ええ、そうですね。…来週寮長会議があるのでその時にでも」
「はい、そのために今日急ぎで集まっていただきました。それとリバート対応の注意点などについてもいくつかありますのでもう少し時間をいただいてもいいですか?」

俺をそっちのけでなにやら話し込んでいる二人。
隣では黙ったままじっとしている、強張った面持ちの壮馬。

一気に進展した俺の体質にまつわる色々な事。
ああ、頭がパンクしそうだ。

冷や汗をかきながら目だけキョロキョロと動かして状況を読もうとしているといつの間にか隣にやってきた佐々木先生がふと目を細め肩をポンと叩いてきた。

「よかったね、夏目くん。青瀬くんイケメンだしラッキーじゃないか」
「佐々木先生面白がらないでください…」

イケメンだからなんだって言うんだ。

「とりあえず、今日の話はこんなところかな。後日また寮長たちとどうするか決めていこう」
「はい…」

解散と言われて俺と壮馬だけ部屋から出ることになってしまったが、正直まだこの部屋に残っていたい。
そんな俺の事などつゆ知らず背中を押されてしまったので渋々玄関へ向かうしかなかった。

「…彼は事情を知らないみたいだねちゃんと2人で話しておくんだよ?」

玄関へ向かおうとした時こそっと耳打ちされて肩を励ますようにポンポンと叩かれた。
そうだ、今から俺は壮馬に事情を説明しなきゃいけない。

「桂木くんも、夏目くんから話を聞いて今後キスのリバート対応するかどうか決めておいてね、もし無理だったら俺や青瀬くんがいるから無理しなくても大丈夫だよ」

佐々木先生は安心させるように言っているようだけど壮馬の顔は険しく見返していて俺の肝は冷えっぱなしで、わかりました!と上擦った声で返事すると壮馬の背中を押して部屋を後にした。

心配かけたくないだけだったのに、これは最悪の状況だ。
きっと怒っている。

俺のしていることはずっとから回っているような気がする。
最悪のタイミングで全部バレた。

これからどうしようと考えながらノロノロと靴を履いて玄関を出ると、壮馬が仁王立ちしてこちらをじろりと見てていた。
刺さる視線を受けながら重い足取りで壮馬の元へ向かった。





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