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37「幽霊騒動7」※

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「大丈夫、先生に任せなさい」

酷く甘美な声色だった。
耳元で囁かれた甘い声に腰がゾクゾク震える。
背に回された手のひらがすうっと背中をなぞった。

「ひっ、触らないで下さ、…っ、…あ、♡♡」
「うーん女の子の声だと、いけないことしてる気分になるなあ…」

くっついたまま間近で見詰められて、とろけた顔を隠すこともできず背中を伝う指先にピクリと小さく身体が跳ねた。
瞳は興味深そうに俺の顔を観察している。

ジワジワと頬が熱をもって視界が潤んで甘くなった声が勝手に口から洩れた。

「や、アッあ…、せ、せんせ…っ♡♡」
「これは、チャームなくてもなかなか…いいね、乗ってきたサービスしてあげよう」

ペロリと舌で唇と潤すと背中を這う手は優しく腰を撫でてそのまま尻まで降りてきた。
思わず身体を前のめりにその手を避けようとするが、余計に密着してしまう。これは悪手だ。
反応を楽しむように柔らかく揉みしだき軽く開いた股の間にするりと滑り込んだ指先。
一際強い刺激にビクリと腰が震えてしまった。

「っんん♡♡♡………はっ…そ、そこ…♡♡」
「うんうん、きもちいいね」

以前体質が出た時のことが脳裏に蘇り、触れられたところがじわりと熱とぬめりを帯びた。
夢中になって壮馬に擦り付けてたところだ…。
思い出された感覚が上乗せされて股の間が期待に疼く。
俺はそこが気持ちいいともう知っている。

そうだ、きもちいいとこ…♡

指がくにくにと確かめるように何度も柔らかく押したり擦ったりする度にぞわぞわとした感覚がそこから伝わってくる。
少しだけ固くなっているコリっとしたところ。

「っ……あ、…♡……んん♡」

指で触られても…気持ちいい…♡♡
あ、あ…♡♡♡
優しく触られるの、好き…♡♡

「はあっ……あ♡あ♡……っひ♡」

優しく撫でられると意志とは関係なくそれに反応するように声が漏れ出てしまう。

すりすりと触られたと思ったら少し力を入れて押されたり、かりっと引っ掻かれたり。
未知の刺激にただただ腰を震わせる。
ずっとゆるく触られて、気持ちいのが止まらない。

あ、ー…♡♡
頭の、中まで…痺れてる…♡♡ずっときもちいい…♡♡♡
もっと、されたい…。

与えられる刺激にうっとりしていると佐々木先生の瞳が楽しそうに細められて、夢中になっていた自分に気付かされる。すでに熱い頬がさらに熱を帯びてジワリと汗が滲んだ。



「…口あけて」

すりすりと指先が唇を撫でる。
反射的にぎゅっと力が入って閉じてしまった俺の唇。

また撫でられる。
猫の喉を撫でてるみたいな優しいタッチで先生が促す。

「先生に見せて、口の中…」
「…♡…っ…あ…」
「うん、いいこ」

言われた通り唇を開いてしまいそうになった瞬間。

「…っっ!…キ、キスはいけません…っ…」

ガバリと司波先生が起き上がって青い顔で佐々木先生を静止したので触れそうだった唇はギリギリのところで止まって離れて行った。
驚いた声を上げた佐々木先生が顔を顰めた。

「え、キスしてないの?じゃあ普段どうやって戻してるの」
「…っ…は、ハグです…」

俺がおずおずと答えると驚きを隠せない顔をして片手で顔を覆った。
ふうとため息をつくと苦い顔をして呟いた。

「あー…そりゃあさ、真っ青になるわ。全然足りてないよ精気」
「…え?」
「うーん…とりあえず今日はこのまま戻っておこうか…」

悩んだ様子で思案した佐々木先生が難しい顔をしながらもぎゅうっと程よい力で俺の事を抱きしめた。
まだ熱を持った身体は抱きしめられてふるりと震えるが、背に回った掌で優しく背中を撫でながら落ち着かせるようにするとジワリと温かく覚えのある感覚。

「っ…ふ……」

男の身体に戻っていた。

じんじんとまだ疼く股の間が気になって膝を擦り合わせていると佐々木先生がその様子をじっと見ていることに気付いて、慌てて姿勢を正す。

うう、恥ずかしい。
でも余韻の引かない身体のせいで淫らな気持ちが引いてくれない。

あのまま先生に触られていたら、なんて考えてしまって余計にもじもじしてしまった。


「深呼吸して、ちょっと刺激が強すぎたね…」

苦笑いして申し訳なさそうに眉を下げた佐々木先生に吸ってー吐いてーと俺の背中を撫でながら促されて深呼吸を繰り返す。
熱かった身体もすこし和らいで落ち着いてくるとほっと身体から力が抜けた。









「夏目くん、すみません…あれこれ偉そうなことを言っておきながら僕は君の体質を治めることもできなかった…」

司波先生は安静を取ってベッドに横になりながら沈んだ声で呟いた。
目に見えて落ち込んでいる。

「もうちょっと俺が遅かったらたぶん司波先生ぶっ倒れてたよ、ギリギリセーフ!よかったね生きてて」

司波先生が入れたお茶を勝手に啜りながら軽い口調で佐々木先生がウインクした。
笑えないんですけど…。

でも先生がそうなってしまった原因は俺にある。
俺が先生にくっついてしまったせいだ。

「先生…俺がくっついたりしたからこんなことになってしまったんです。ごめんなさい…」
「夏目くん。自分を責めないでください…君は悪くない…僕が…」

そこまで言って言葉を区切ると司波先生が困った顔をした。

「…でもこれから一体どうしたら…僕では対応できないんじゃ学校や寮で何かあった時に壮馬くんが掛かり切りになってしまいます…」

お茶の入っているコップを頭上に軽く掲げて佐々木先生が穏やかに微笑んだ。

「俺が協力しますよ。乗りかかった船だし、可愛い夏目くんと触れ合えるなんて役得だ。それにその体質…すごく興味がある」
「あ、あ、あなたという人は!仮にも教師ですよ!そんなこと大っぴらに言うなんて…!」
「相変わらず頭が固いですね、司波先生は」

ははは、と快活に笑いながら佐々木先生がねえ?と首を傾けてこちらへ視線を寄越されたが俺はその視線をただ受け止めるだけでいっぱいいっぱいだった。

佐々木先生に助けてもらうの…?
先ほどの事を思い出し顔がボンっと火が付いたように真っ赤になってしまった。
触れた指先はどこが気持ちいいのか熟知しているように迷いがなかった。
ああいった事に慣れている大人の男性。
まったく経験のない俺は見事に翻弄されてしまった。

「俺は役に立ちますよ?ね、夏目くんもそう思うでしょ?」
「…うう…」

佐々木先生の言葉に同意は出来ず唸る。
確かに、いま身体はすこぶる調子がいい。
どんな原理かわからないが佐々木先生は体質が見えるし、司波先生になにか呟いて体調を軽くしたように俺にも戻る時にもなにか特別なことをしたのかもしれない。

でも。
でも…。
ううう…なんかめっちゃえっちだった…。

壮馬に頼れないし協力者もいないってことは佐々木先生に頼るしかないってことだ。
またあんなことするの…?

苦悩する俺の様子を見た司波先生が悲しそうな顔をした。

「…どんなに体質の事を勉強しても、君が困っていて苦しいときに僕は何もできないなんて…。せめてリバート対応ができれば…」
「司波先生…」
「すみません弱音を吐いてしまって…僕にできる事を探してみます。…体質についてもう一度調べてみますね。あとトレーニングは急務だと思います。今後こんなことがあっては、今回はなんとか収まりましたが次うまくいくとは限りません」

司波先生の言葉にうんうんと頷いているときょとんとした顔で佐々木先生が会話に割って入ってきた。

「トレーニング?もしかしてあれ?体質をコントロールするって言う。…あんまり今の夏目くんはやらない方がいいと思うけどなあ」

考えるように顎を指で擦るとそのままその指先を俺に向けて目を細め意味深な表情を浮かべて口を開いた。

「それよりさっさとセッ…ぶっ!」

言い終わる前に枕が佐々木先生の顔目掛け飛んで、そのまま綺麗にクリーンヒットした。
投げたのは司波先生だ。

ぜーぜーと荒い息を吐きながらもナイスコントロールで顔に当てていた。
ジロリと睨む殺気立った表情に面食らう。
あまりの迫力に司波先生が知らない人のように見えて唖然として見ているとはっとしたように気まずそうに再びベッドに横になって小さな声ですみません…と呟いた。

佐々木先生はなんて言おうとしてたのかな…。

「……はいはい、ならせめてキスぐらいしないと…。で、トレーニングするなら満タンになってからだよ。今の夏目くんは精気がすっからかんなんだから…今度こそぶっ倒れるよ?」
「ダメです!調書ではハグなどの接触での摂取を本人が希望していますので」
「夏目くんーそんな事書いたの?今まではそれで何とかなっていたのかもしれないけど、そんなんじゃこの先ずっと体調悪いまま過ごす事になるよ。今からでもキス可にしてリバート対応してもらった方がいいと思うな」
「佐々木先生…!」
「司波先生だってわかっているでしょう?…君の体調のためにも、トレーニングのためにも。急ぎたいなら尚更ね。俺結構真面目に言ってるからね?ちゃんと考えておきなよ…倒れて取り返しがつかなくなる前に」

2人の言い合いに入る隙もなくただ聞いていると飛んできた枕をポンポンと叩きながら佐々木先生が声のトーンを落としこちらを見た。
知らず知らず喉がゴクリと鳴って握った掌に力が籠もる。






司波先生が俺の事を送って行こうとしてくれたのだが、まだ安静にしているようにと佐々木先生に諭されて帰りは佐々木先生が送ってくれることになった。

「夏目くんって司波先生と知り合いなの?」
「いえ、この学園に来て初めて会いました」
「…そっかー。知り合いじゃないのか」

寮に向かう道すがら前を歩く佐々木先生から聞かれてそれに答えるが納得したのかしていないのかふーんと唸っていた。
知り合いじゃないと思うけど、俺が知らないだけでこのゲームの主人公とは顔見知りって可能性もあるのかな。
でもそれなら初めてあった時に何かしら俺に対して言ってくると思うんだけど司波先生にそんな素振りなかった。
考え込んでいると振り返った佐々木先生がふっと眉を下げて微笑んだ。

「あ、気になっちゃうよね。勘でそう思っただけだから。俺の勘って結構当たるんだよ。今日先生の部屋に行ったのもその類だったんだけど…今回はハズレだったか。結構自信あったんだけどな」
「…言っていることがよくわかりません」
「あはは、うーん。そうだね、…もうちょっと親しくなったら教えてあげるよ♡」
「…」

佐々木先生の勘…。
部屋に入って来た時に”嫌な予感”って言っていたのも勘ってやつだったのか。

体質が起きてからずっとわからない事だらけで頭がもう考えることを拒否していた。
早くベッドに潜って寝たい…。




非常口を開けてもらって廊下を見たが人がいる気配はなかったので音を立てないようゆっくりと歩き出そうとした時、不意に肩を掴まれ顔を耳元に近づけた佐々木先生が楽しそうな声で囁いた。

「次はキスできるといいね」
「…っ!!」

ちらりと見上げた瞳は細められ唇がゆっくりと弧を描いた。
その動きがスローモーションのように目に焼き付いて暫く固まっていたがはっとして何か言おうと口を開いた時にはすでに佐々木先生は来た道を戻っていて離れた先にいた。
いつの間に…。

楽しそうに手を振っていた。

わたわたと狼狽えている様を見て吹き出して笑っているのが離れていてもわかった。

悔しさと恥ずかしさの混ざった気持ちのまま一目散に逃げるように寮部屋へ入りベッドへ潜り込む。

バクバクと心臓がうるさい。
囁かれた時に唇を無意識に見てしまった。
それに気付かれていた。
く、悔しい。
掌で転がされている。

はあと一息ついて天井を見つめる。
身体は疲れているのに妙に頭は冴えてしまってまだ眠れそうになかった。

少しだけ落ち着いた頭がさっきまでの事を勝手に考えだす。




ゼンゼン足りてないって。
言ってた。


俺が思っているよりも、体質は問題だらけだ。
この先ずっと体調が悪いままだって言われた。

それは困る。


”せめてキスぐらいしないと”

キス…。
だ、誰とすんの…?

取り返しがつかなくなる前にって、佐々木先生は俺の精気が無くなったらどうなるのかわかっているような言い方だった。
考え得る良くない事ばかりが頭に浮かんでどんどんと気分が暗くなっていってしまう。

実際ここ最近の体調の悪さは精神的にかなり来ているし…。
キスでどうにかなるのならどうにかしたいぐらいには参ってしまっているのだ。


ぐぐぐ、とこぶしを握り締めて覚悟を決めた。

キス…すればいいんだろ…。
たいしたことない、キスぐらい…。


……うう。
俺ファーストキスだってまだなのに…。





体質が出てパニックになっていたせいでスマホの通知が来てるのに気づいたのは朝になってからだった。

”佐々木景伍(ササキ ケイゴ)”
ずっと気になっていたまだ出会っていない攻略対象者の一人は佐々木先生だった。





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