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23「調理室」

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部屋で三ツ矢が待っているから自然と気持ちが急ぐ。
玄関ホールに着くと、ホールを通り抜けた先にも部屋があることに気付いた。
今までここを通っていたのに全然気が付かなかった…。

どうやら向こうは寮部屋じゃなさそうだ。
少しだけ足を止めて部屋を見つめていたが今は三ツ矢の方が優先だ。

再び歩き出そうとした時に後ろから声を掛けられた。

「あっち気になる?」
「え?」
「あれは調理室だよ。誰も使ってなかったら好きに使っていいし、終わったら全部元に戻して綺麗にしておけばいいよ。まああんま料理する奴おらんくていつもガラッガラなんだけどね」

振り返ると2人の青年がいた。
一人はマッシュカットに右の目元に黒子のある青年と跳ねる前髪をヘアピンで髪を止めた青年だった。
どちらも初めて見る顔だ。
出で立ちから上級生に見える。

「お、教えてくれてありがとうございます…」
「いいよー別に。あの部屋気付かん奴は卒業まで気付かんらしいから」

カラカラ笑う泣き黒子先輩。

「俺、2年特進の天城玲(アマギレイ)よろしく、合鍵の君」
「よろしくお願いします。俺は1年の夏目律で…って、合鍵の君?」
「見てたよ、合鍵渡してたところ」
「あっ…!」

にんまりしながらぶいとピースされる。
なんのピースなんだろ。
でも見てたって、例のあれだよな…。

誤解なんだけど、否定したら余計変な感じになっちゃうかな?
…どうしよ…壮馬をこれ以上困らせたくないんだけど…。

「あ、あのあれは誤解で…俺、伝統の事を知らなくてですね…できればそっとしておいてほしいって言うか…そのお…」
「おい、もういいだろ、困ってる」
「…っはは、わかってるよ」

ずっと黙って場を見守っていたもう一人のヘアピン先輩が止めるように間に入ってきた。

「ごめんね、冗談。大丈夫だよ変な噂にはなってないから…たぶん。俺は面白いなーとは思ったし掴みとしてはいいんじゃない?お笑い枠みたいなね?まあ、めっちゃスベってたけど、くくっ…。あ、律くんって呼んでいい?律くんは今暇?俺らと一緒に―」
「どこか行くところだったんだろ?邪魔して悪かったな」
「えっと…はい…」

矢継ぎ早に捲し立ててくる天城さんにタジタジしていたら間を割ってヘアピン先輩がまた助け船を出してくれた。
ほっとしてこくこく頷く。

「えーもう行っちゃうの?もう少し話そうよ、一緒に談話室行こーよ」
「だめだ、お前はしつこいから。じゃあな。俺はこいつと同じ2年特進の不破(フワ)だ。またな」
「ざんねんだなあ。また話しよーね。律くん」

ぶう、とほっぺを膨らませている天城さん、それをあしらう様に不破さんが行くぞと引っ張って階段を上がって行ってしまった。
そうか、上級生だから上の階なんだな。

合鍵のこと変な噂にはなっていないって言っていたけど…本当に大丈夫かな…。
たぶんて…。

あの先輩2人は結局なんだったんだろう。
俺が調理室を見ていたから声を掛けてくれただけなのかもしれないと思いたいが天城さんには変に興味を持たれてしまっている気がするし。

出会いイベントみたいなものかと思ってしまったけど、手に持っていたスマホを見てみても通知は来ていなかった…。


あれから2週間経ったがまだ3人しか攻略対象は出てきていない。
別に攻略対象キャラが出てきてほしい訳じゃないんだけど…どんな人なのか気になるという好奇心から来る興味はある。


今考えることじゃないか…。
気を取り直して購買に行こう。






購買にやってきた。
俺以外にも数名生徒の姿があり、品物を物色していた。
店内は色々なお菓子や、日用品などちょっとしたドラッグストア並みの品揃えだった。

前回はお昼ご飯のために立ち寄ったのでパンやお惣菜のコーナーぐらいしかまともに見ていなかったからこんなにも色々売っているとは思わなかった。
売っている物は向こうの世界でも馴染みのあるものばかりだった。

最初はお菓子を見ていたのだが、ふと別の棚が視界に入る。
色とりどりの見覚えのある可愛いパッケージ。

これだ、これがいい。

しかもこんな物まであるのか!
思わずテンションが上がる。
丁度調理室の話を聞いたばかりだしタイミングもばっちりだ。


閃いた俺はそれらを買って急いで三ツ矢の元へ戻った。





 
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