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21「保健委員」

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今日は保健委員の当番の日だ。
壮馬には朝ごはんを一緒に食べた時に伝えておいたから授業が終わってからすぐ俺は購買で買っておいたお昼ごはんのパンが入った袋を片手に保健室へ向かった。

学校生活で初めにやる事と言えば係決め。
この学校でももちろん委員決めがあって俺は保健委員に立候補した。
というのも司波先生がもしやりたい委員や係がなかったら保健委員をお勧めしますなんて言われたのだ。

実際別にやりたいものもなかったので助言通り保健委員となった。
保健委員であれば保健室に出入りしていても怪しくないからと体質のカモフラージュできると言うのも理由の一つにある。


で、今日は保健室の当番なのでお昼ご飯を先生と一緒に食べてから備品のチェックなど雑用を行う予定だった。


「こんにちは、司波先生。保健の当番で来ました」
「夏目くん、いらっしゃい~」

ふわふわした先生の心地よい声とにこにこと柔和な雰囲気に疲れていた気持ちが少し軽くなる。
やっぱり先生には癒し効果がある気がする。
そういえば保健委員に決まった事を先生に報告したらすごく喜んでくれてたな。


「ささ、座って。まずはご飯を食べましょう」

すでにテーブルには紅茶が入ったカップがふたつ並べられていた。
本来保健委員だからと言ってこの部屋で一緒にご飯は食べないらしいのだが、先生にお昼を誘われたので二つ返事でおっけーしてしまった。

いただきまーすとテーブルに買っておいた購買のパンを広げて二人でご飯を食べる。
先生も同じように今日はパンらしい。
なんだか嬉しそうにパンをかじっている。
アンパンが好きなのかな。
和むなあ、俺までにこにこしてしまう。

「あれから体質は出ましたか?」
「えっと、はい。あの一回だけ…」
「そうですか、その時は桂木くんがサポートしてくれたんですか?」
「はい、俺の寮の部屋だったので」
「ああ、それは良かったです。学校で授業中とかに異変を感じた時は保健室に来てくださいね」

体質の事も俺の事も心配してくれるしいつもニコニコしている司波先生。
優しそうに細められた目でこちらを見るのでますますほわほわしてしまう。
ああ、癒される…。


「…そういえば夏目くんは体質を抑えることができるんでしたっけ?」
「え?抑える…?」
「ああ、その様子だと知らないようですね。身体の変化とかそう言った状態変化の体質はある程度訓練すれば自分のタイミングで発動させることもできるらしいですよ。体質が代々発現する家は生まれた時から訓練を行っているとか。君の場合だと完全に体質を制御するのは無理そうですが、タイミングをずらす程度であれば出来るかもしれません。学校内で体質が発現しそうになった時に役に立つかもしれないですよ。…そこで夏目くん、トレーニングをしてみませんか?」

体質って鍛えられるんだ…。
昨日の感覚を思い出すがどうやってあの状態になってから女体化するのを抑えられるのかまったくわからない。
でも、もしできるのならやってみたい。

そうすれば、壮馬が気まずい思いをしなくて済むかもしれないし…。

「トレーニングってどんなことをするんですか?」
「そうですねえ、まずは体質発現の状態で過ごしてみるところから始めるのはどうでしょうか」
「そ、それってつまり…女の姿で過ごすってことですか?」
「はい、平たく言うとそうなりますね。自分の体質の状態を知るというのも大事なことですからね」

女体化した状態で過ごすってことは寮部屋から一切出られないし、もし誰かが来たら終わりじゃないか。
考えていることがわかったのか司波先生がさらに続ける。

「さすがに学校内や寮内ではできませんので、休みの日に外出許可をもらってやりますよ。もちろん僕もついて行きますので安心してくださいね。あ、トレーニングするとなると桂木くんにも協力いただかないといけませんから彼の許可も必要になりますね」

今壮馬とは少しいつもの調子に戻ってきたとはいえまだ気まずいし、その理由である女体化のトレーニングなんてものに付き合わせたら余計に拗れそうだ。
できれば壮馬は巻き込みたくないな…。

「…先生じゃだめですか?」
「えっ!?」

先生とであれば、事情も知っているしなにより体質の事を詳しく熟知している。
何かあっても素早く対応してくれそうで心強い。
だからいつもの調子でにこにこしながらいいですよなんて言ってくれるかと勝手に思っていたら俺が提案した時にものすごく困った顔をされてしまった。
目に見えて狼狽えているのがわかる。

「えーっと…そうですね…うーん…」

ものすごく悩んでいるようだ。
そんなに困らせるつもりはなかったのだけど…。
いつもにこにこしてるし優しいからついつい甘えた事を言ってしまったかもしれない。
だとしたらとても悪いことをしてしまった。

見るからに落ち込んでしまった俺をみて慌てたように先生が手を振った。

「嫌だと言う訳じゃ決してありませんよ!…その…あの…」

珍しく歯切れが悪く、どう言ったものかと思案している様子が見て取れた。
ますます申し訳なくなってしまう。

「あのですね…その、僕と夏目くんが街で一緒にいるというのは誰かに見られても、そこまで問題ないと思います。ですが…夏目くんは夏目くんでも体質が発現した女性の姿の君と二人というのは、万が一誰かに見られた場合の事を考えると……うーん…倫理的によろしくないかな、と…僕一応先生ですし…。協力したい気持ちは山々なんですが…」
「え、あ…そ、そうですね!…確かに…」

申し訳なさそうに、そして物凄く言いにくそうに司波先生が言った言葉にはっとさせられる。
確かに若い女の子と一緒にいる司波先生なんて不健全すぎる。
それにそのことが万が一学園や生徒たちに知られたら司波先生の立場が危うくなるなんてこともあり得る。
俺のせいでそんな目に遭わせる訳にはいかない。

そうなると壮馬にお願いするしかないのか…。


「…でも、そうですね…、夏目くんは…その…僕と……」
「え?」


考え込んでいたせいでぼそりと言われた言葉がよく聞き取れなくて聞き返したが、司波先生は苦笑いしてなんでもないです、とだけ呟いた。
何か真剣な顔をしていたがそれ以上はなにもいう気はないのか黙ってしまったので俺もそれ以上聞き返すことはできなかった。


「…やはり同じ年頃の子といた方が…違和感が少なくて安全だと思います。もしかして桂木くんの都合が悪いのかな?それなら他の協力者を作るというのも手だと思いますよ。桂木くん一人ではどうにもならない時もあるかもしれませんし、僕も普段は職務がありますからいつでもすぐに行ける訳ではありませんので…。まあ、その場合信頼に足る人物であるという絶対条件がありますが…協力を仰ぐにしても慎重にいかないといけないのですぐには難しいですね」
「協力者…ですか」
「これは一つの案なので絶対という訳ではありません、夏目くんが嫌だったら探す必要はないです。…でももし必要だと思ったなら探してみるのも良いと思いますよ。その時は僕にできることがあれば協力しますので」

トレーニングは自分の体質を知るためにもやってみたいが、壮馬のこともあるしちょっと時間がいるかもしれない。

それに協力者か…。
こんな秘密を明かせる相手なんてできるのかな。


とりあえずトレーニングの件は次回の保健委員の当番の日まで待ってもらうことにして、残りの昼休みを保健室でまったり過ごした。





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