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19「初めての女体化」

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「これって…」

あ、声も高くなっている。
これは明らかに女性の声だ。しかもかわいい。鈴の音という表現がぴったりな声。

胸元をちゃんと見たくて俯いたら両サイドからふわふわした髪の毛がたらりと垂れた。
先ほどはあまりの衝撃に気付かなかったが髪の毛も伸びている。
セミロング、慣れない長い髪の毛に気を取られしばらく触ってみる。
うむ、サラサラ。つやっつや。綺麗だ。

髪の毛を弄るその先に見えるふたつのふくらみが俺が動くたびにぷるぷるとやわらかそうに揺れている。

「…っお、おっぱい…」

俺も男なので今自分についているとは言えおっぱいに興奮せざるを得ない。
ごくりと生唾を飲み込みまじまじと見つめる。
つい興奮して、先ほどまでの事がすっぽりと抜けてしまい両手で胸を掴み押し上げて強調するようなポーズをとって壮馬に話しかけてしまった。

「これ、すごいっ壮馬!見て見て」

これが俺の体質なのか。
本当に女体化している。
ちゃんと自分の身体という認識をもって俺の意志で動いている。自分で寄せるようにした腕に当たる感触は柔らかい変な感じだ。
きゅっと寄せるとただでさえ大きかった胸がふにゃんと形を変えて歪むそれは自分についているものでちょっと面白くなってしまう。

すごい、おっぱいすごいよ。
やわらかいしぐにゃぐにゃしてる。

「うわあ、やわらかい…」
「おい、やめろ…」

力なく諫める壮馬だが視線はしっかりと胸元を見ていた。

熱視線と言っていいぐらいじっと見つめられてなんだか急に自分のしていることが恥ずかしくなり動きがぎこちなくなってしまう。
揺れる胸を見ている壮馬とそんな壮馬を見つめる俺。

「わ、悪い…」

俺の視線に気が付いたのか、こちらに気付くとはっとしたように慌て勢いよく手で顔を覆い隠し一言謝られた。
見ていたことに対する謝罪だろうが俺の方から見るように言ったので別に気にしないのに。
真っ赤な頬と汗をだらだらかきながら必死で顔を逸らしている壮馬なんて初めて見た…。


でもまあ、なんか俺も恥ずかしくなってきたからもうやめておとなしくしておこう…。
あのまま続けてたら変な気分になりそうだったし、これ以上友の前で痴態を晒したくない。





「…体調はどうなんだ?どこかおかしいところはないか?」
「う、うん…あの、さっきの治まったら…楽になったし今は特に悪いところはないよ…」
「…これがお前の体質なんだな。完全に女の姿だ」
「そうみたい」
「髪の毛まで伸びるのは想定外だな…人前で女の姿になったら誤魔化しようがない」

改めて今の自分を見てみると髪の毛は肩にかかるくらいあるし、胸元もきゅうきゅうと部屋着を押し上げている。
隠しようがないぐらいの女の子の姿だ。

服の下はどうなってるんだろう。
…ごくり。
好奇心がむくむくと湧くがさすがに脱いで確かめる勇気はなかった。



軽く深呼吸した壮馬が覚悟を決めたような顔でこちらを見る。


「今はお前の部屋の中とはいえ、長時間その姿でいるのは危険だ……その、戻るために…ハグを、だな…」

歯切れが悪くごにょごにょと最後の方までよく聞き取れなかった。
壮馬は依然顔が赤くて、ちょっと汗もかいている。

長時間この格好でいるとどんなトラブルがあるかわからないみたいなことを言いたかったのかな。
確かにこんな姿で思春期の男たちの前に出るなんて恐ろしすぎる。

えっと、戻るためにはハグしなきゃいけないんだよな。
本当にそんなことで戻るのかな。でもやってみないとずっとこのままだ。

「ハグ…する?」

首を傾げ問うと壮馬が、うぐ…と声を詰まらせて黙ってしまう。
壮馬の反応にやっぱり嫌だよなあと思う。なんか申し訳ない…。

しゅん、と落ち込みながらもお願いするしかないので何とかハグしてもらえるように…うーん、例えば可愛く言ってみるとか?いや今の俺の顔ってどうなってるんだろう?美少女なのかなそれとも男の時の俺の顔がそのまま女になったみたいな見た目なんだろうか。
うんうん唸っていると壮馬が咳ばらいをして覚悟を決めたように近づいてきた。

「本当に戻れるかどうか試しも兼ねてるから、その…抱きしめるけどじっとしてろよ…」
「うん」

そろそろっと腕を回して抱きしめられた。
俺もじっとしてみるが、身体に変化はない。
というか壮馬が遠い。極力触れないようにしているのがひしひしと伝わってくる。
男の姿の時に抱きしめられた時だってもう少ししっかりしていたのに、もっとぎゅっと抱きしめた方がいいんじゃないかな。

そう思い、俺の方からもぎゅうっと背中に手を回してくっついてみた。
途端ビクリと強張っていた身体が跳ねた。先ほどよりも壮馬の体温が上がった気がする。

「っおい…あ、あんまりくっつくな…」
「えーでも、戻る気配がないから…もっとくっついた方がいいかなと思って」
「そうかよ…あー…くそ…」
「…ご、ごめん」
「ちがう、嫌な訳じゃない……」

そこまで言ってなんでもないとまたもや歯切れ悪く会話を途切れさせてしまう壮馬。
なんだかこの姿になってからの壮馬はぎこちない、いつものように接してほしいと思ってしまう。

女の姿のせいなんだろうけど、中身は俺のままなのに。
複雑だ。

モヤモヤするので力を込めてぎゅうぎゅうとしがみ付くようにくっついてみた。
俺のおっぱいがむにゅむにゅと壮馬の身体に当たっている感触がある。
くっつくと必然的にそうなってしまうから、どうしても当たってしまうのだ。


あ…。
そ、…そっか…。

どこか耐えるようにしている壮馬を見て察した。
無防備に押し当てられるそれを意識するなって方が無理がある。

そんなつもりはなかったが自分から当てている状態だし…。

同じ男としてこの状況は確かに色々と辛いのかもしれない。
でも、俺が戻れるように耐えてくれているみたいだ。

だから俺も余計な事を考えないように戻れるよう集中する。
やってる事は頭で戻れ戻れと念じるだけだから効果あるのか全然わからないけど。


念じてみたが、身体に何の変化がないのでしょうがない目を瞑ってひたすら待ってみることにした。

目を閉じると五感が研ぎ澄まされてくる。体温や匂いが先ほどよりも感じられた。

壮馬の香りとがっしりした身体に包まれている安心感。
頭をそっと胸元へ傾け預けるように擦り寄る。
身体が少し華奢で小さくなっているのかもしれない、なんだか壮馬の胸板が大きく感じた。

肌が触れ合っているところからじわじわと温かい何かが自分の中に流れ込んでくるような。
不思議な感覚。

胸元にもたれかかっているので壮馬の心臓の音が聞こえた、バクバクと早い心音。
それに体温も高くあったかい。



「…っ…」

じわじわと伝わるところから身体が熱くなっていく。
そして先ほどとは違い緩やかに身体が戻っていくのがわかった。

先ほどは余裕がなくてわからなかったが今度は髪の毛や胸が元の姿に戻っていくのをしっかりと自分の目で確認できた。
骨とか伸び縮みしているはずなのに身体に痛みはない。
痛いのは嫌だけどこれはこれでちょっとこわいんだけど。


緩やかな戻りだったが時間にしてわずか30秒ほどぐらいで元の姿に戻っていた。

そろそろと腕を下ろし壮馬から離れる。

「俺戻ってる?」

クルクルと全身を確かめるように回ってみる。
声も元に戻っているし髪の毛も元通りだ。

「ああ、…すげえな、どうなってんだ…まじで」

驚きを隠せないように壮馬が感嘆した。
俺も自分の身体なのにどうなっているのかまったくわからない。


せっかく元に戻れたのだが、お互いそれ以上の言葉が出なくてシン、と重たい沈黙が流れる。





「…悪い、ちょっと外出てくる…」

そう言い残して壮馬は部屋を出て行ってしまった。
出ていく後ろ姿を見送って、俺もベッドへ再び寝ころんだ。
これが体質、女体化。


後ろ姿でもわかるほど、壮馬の耳は真っ赤だった。





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