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13「対策会議と消灯」

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お風呂は広くて気持ちよかった。
新入生らしき生徒たちがまばらにいてそこまで混んでなかったし、なんならちょっとわくわくしたぐらいだった。
三ツ矢もはしゃいでた。



寮部屋でも思ったけどこの世界の暮らしはゲームの設定のおかげか現実より建物も設備も豪華でちょっとした旅館ぐらいの快適さがある。
もちろん規則があるから自由って訳ではないんだけど。


さてあとは消灯時間を待つだけとなった訳だが。

お風呂から上がってから俺の部屋へ戻ってからスマホの情報を色々確認していた。
壮馬もいる。壮馬の部屋は三ツ矢がいるから、こういった情報の確認は俺の部屋でやるしかなさそうだ。

三ツ矢はニヤニヤしてごゆっくりーと言いながら自室へ帰っていった。
やっぱあいつとは仲良くなれないかもしれない…。


「そういえば、さっき司波先生のアイコンが増えてたんだよね」

そういいながらスマホを操作し目当てのアイコンを見つける。
司波先生のアイコンをタップすると、先生のミニキャラから吹き出しが出てきた。

「えーと、ワンポイントアドバイス”体質を明かす相手は慎重に選ぼう”だって」
「それだけか?何回かタップしたらもっと喋ったりしない?」
「んー、うん。そうだねこれだけ、もしかしたら時間がたつと変わったりするかも、時々確認してみるよ」
「他には、何か増えたことあるか?」
「そうだなあ、寮長と三ツ矢のプロフィールが見れるようになったのと、あ…攻略のヒントだって」
「見せてくれ」

2人して画面を覗き込む、先生のアイコンの下にヒントと書かれた項目があった。
これはかなり助かる。恐る恐るタップしてみる。
どんなことが書いてあるんだろ。

「えーっと…」

なになに?攻略を進めたいなら体質を有効活用しよう!女体化による各キャラとのラブイベントで好感度が上がっていくよ!
序盤は体質を使って積極的にキャラクターと関わっていこう。
もしかしたらあのキャラとも仲良くなれるかも…!?

「…」
「…」

お互い文字を読んだはずだが、どちらも言葉を発しなかった。
なにこれ?どういうこと?

「…どーしたらいい?これ…」

泣きそうになりながら壮馬を見るが、苦い顔をしたまま考え込んでいる。
しばらくして口を開いた。

「…女体化はこのゲームの肝のようだしこれは絶対避けられないだろうな。その上、進行度合いによっては攻略対象のキャラ達に秘密を明かしてシナリオを進めていかなければならないってとこか?…どうやって女体化するかは全く未知だからな、それまでは様子見するしかなさそうだな…」

苦々しく吐き捨てるように壮馬が呟いた。

シン、と静まった空気の中、どちらも喋らずただ時間が過ぎていく。





「…なんか近くないか?」
「え?」

重苦しい空気にぽつりと壮馬が呟いた。
近い?
なにがと思い壮馬の方を見るとすぐ目の前に壮馬の顔が、そして肩が触れ合うほど近く寄り添うように座っていた。

「え!?あれ?ごめ…気付かなかった…っ」

本当に気付かなかった。いつの間にこんなに近付いていたんだろう?
スマホを見るのに夢中で無意識に近付いていたのかな?

離れなきゃと思うのに、触れ合ったところから伝わる体温を逃したくないとでも言うように身体がそこに固定されたみたいに動かなかった。
壮馬は動かずこっちをじっと見ている。
俺も見返すと自然と見つめあう形になってますます混乱する。

ど、どうしよう!

慌てて視線を外すと壮馬の胸元が目に飛び込んできて、しかもなぜかその胸元がキラキラ輝いて見えたから大変。
そこへ視線が吸い込まれるような感覚だ。

なんだかとてつもなくその胸に飛び込みたい。

一度そこへ目線が行くともうそのことでいっぱいになってしまう。

なんで?と頭は混乱しているが壮馬に抱き着きたい衝動を抑えるので気持ちがいっぱいになっていた。
絶対そんな事言えないし、言ったら終わる。
と口を噤んでいたはずなのに。


「…あの………抱き、しめても…いい…?」

なんか勝手にしゃべってた。
口から出た言葉はもう戻せない。羞恥に顔が熱くなる。

何言ってるの…!?俺!?

「…なんで?」

あー!そうだよね!
すごい一段と低いトーンで返された、なんで?の声。
壮馬の目が死んでる!ごめん!



自分でも申し訳ないと思うが、もう言ってしまったのだから仕方がない。
恥ずかしさで泣きそうになりながらなんとか説明してみる。

自分でもどうしてそうなったのかわからない旨、なぜか無性にそういう気分になったということを何とか伝えると。
わかってくれたのかわかっていないのか壮馬が小さく息を吐くと、そろそろとこちらへ身体を向けてくる。

「これも体質のせいなのか?」
「わ、わかんないけど。俺もおかしなことを言っている自覚はあるよ…」
「…体質についてもう少し詳しく知りたいな…わからないことだらけだ…」

俺に言うと言うよりかは自分の頭の中を整理しているような感じで呟いた。

そして、こちらを一度見てからすっと腕を広げて待つ仕草をする。
あんまり乗り気じゃないのが態度に出ていて申し訳ない気持ちになるが俺はその好意に甘えることにした。

「ありがと…」

すとんと、壮馬の胸元に顔を寄せ抱き着く。

とても安心するのと同時にドキドキ、と心臓が鳴っている。
うう、なんで。壮馬とは普段から一緒にいてそんな胸が高鳴ることなんてなかったのに。
さっき泣いた時は安心の方が強かった、今はそれとは違う気がする。

じわじわ伝わる体温が心地よい…。
この温もりをずっと求めていた気さえした。

今まで感じたことのない感覚だ。
これは本当に自分の気持ちなのか?
それとも…。

「…俺向こうの世界でも壮馬に抱き着いたことないしそんな事思ったこともないのに…ごめんね…」
「…しょうがないだろ。いいよ俺の身体くらい貸してやる」

どうせ、勘違いもされてるしな。
ぼそりとつぶやいた言葉はロビーでの一件のことだろう。ふはっと思わず笑うと頭上の壮馬がむっとした顔をして笑うな、とほっぺをつねってきた。

嫌だと思いながらもこうして要望を聞き入れてくれたり、一緒に考えてくれたり…。

壮馬の匂いをすうっと吸うともっとドキドキしてきた。
これ以上は危険な気がするのでお礼を言って離れることにした。

本当はもっとこのままでいたかったなんて、これは自分の意志じゃないと言い聞かせて。


離れた後何故だか壮馬の顔を見ることができなくて気まずい。
壮馬もそっぽを向いて黙っている。

この世界には長居しちゃいけない気がする、早く戻る方法を探さなきゃ…。


そうこうしている間に部屋にあるスピーカーからチャイムが鳴った。
扉の向こうが騒がしくなっていく、消灯の時間が来たみたいだ。


正直助かった…。









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