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9「入寮初日」
しおりを挟む「では僕はこれで、青瀬くんあとはお願いしますね。」
夏目くんがんばってと茶目っ気たっぷりのガッツポーズをして司波先生は去っていった。
さっきまでは事情を知る司波先生がいてくれたから何とも思わなかったけど急に一人になると不安だ…。
しかもこんな陽のオーラの先輩と二人きりとか…。
「さて、夏目。君の部屋割りの確認からしようか」
青瀬寮長に案内されて玄関のホールの掲示板に張り出された寮の部屋割りを確認する。
「1年生は基本的に1階が寮部屋なんだが君の部屋は…ああ今年のラッキー枠なんだな」
「え?ラッキー枠?」
「ああ、君は持ち上がり組じゃないのかな。ラッキー枠というのは1人部屋ということだ。寮部屋は2人1部屋なんだが入寮生が奇数の時は1人余るだろ?1人で1部屋使えるというのがラッキー枠というわけだ。」
それは確かにラッキーだ…。
体質のせいでなんかあった時に同室の奴がいたら大変なことになるからな。
もしかしたら体質があるから1人部屋になった可能性もあるけど、どっちにせよ助かった。
「これが君の部屋の鍵だ。スペアは無くすなよ」
部屋の確認後、寮長から鍵を貰った。
アンティーク調の大き目な鍵だった。
一見するとアクセサリーとかインテリアみたいに見えるぐらいおしゃれ。
スペアと合わせて2本。
スペアって地味にどこに保管するか困るよなあ。
鍵を見てみると、部屋番号と魚のマークが彫られていた。
ここが海寮だからなのかな。
「律!」
急に背後から大きい声で名前を呼ばれてビクッと肩が跳ねた。
ドッドッと心臓がまだびっくりしたまま慌てて振り返る。
「っそうま…!」
見慣れた顔。
唯一俺が俺であるということを知っている親友。
ちょっとの間離れてただけなのに。
涙腺が緩みそうになって必死で堪えたが声は震えてしまった。
知っている顔がいるだけで心が少しだけ落ち着いた。
駆け寄りたい衝動をぐっと抑えてその場に留まって待っていると壮馬が駆け足でこちらへ寄ってくる。
「倒れたって…大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃ‥‥大丈夫だった…よ…?」
全然大丈夫じゃないし言わなくちゃいけないことがたくさんあるがここでは言えない。
ひくっと口元を引きつらせながらとりあえず笑っておく。
「…そうか」
怪しむように顔を歪めた壮馬だが、周りに人がいるためそれ以上は何も言ってこなかった。
「寮長、あとは俺が引き継ぎます」
「ああ、えーっと君は」
「桂木です。夏目とは出身校が同じ友人です。自分は荷解きが終わってますので手伝えます」
「そうか、桂木。じゃあお願いしても構わないかな」
寮長は正直かなり忙しそうだった。俺と部屋割りを見ている間も誰彼来て何かを問われていたし現在進行形で後ろで何人か待っている様子が伺える。
なので俺も壮馬に合わせることにした。
「すまないな、18時から食堂で3寮合同の入寮歓迎会があるからそれまでは自由にしていてくれ。」
申し訳なさそうに眉毛を下げて謝る顔もイケメンだ。
「それじゃああとは頼んだ」
爽やかに笑って俺の肩へぽんと手を置き去っていった。
「…っ」
さ、去り方もイケメン…。
うう…なんなんだ…ドキドキする…。
普段の俺なら絶対こんなことないのに、体質のせいだよなこれ…そうでないと困る…。
いや絶対そうに決まってる!
「…律、本当に大丈夫か?」
寮長の姿も消え二人になってから静かに問いかけられる。
「全然大丈夫じゃないよ‥‥どうしよ…壮馬…」
ふえ…。
泣きそうになりながら壮馬を見る。
「おまえ…なんでそんな顔真っ赤なんだよ…」
うっと顔を歪め引くようなそぶりをされた。
なんだよ…そんな冷たい態度とるなよ…俺たち親友だろ。
「とりあえず俺の部屋行こ…なんか俺1人部屋らしいから」
「なんだそれ、いいな。俺なんて……まあいい。聞きたいことはたくさんあるしな。これ部屋に持ってく備品が入ってるからチェックして持ってくぞ。お前の荷物は部屋に届いてるはずだ。」
壮馬の後をついて行くと段ボールがいくつか置いてあった。この中に備品が入っているみたいだ。、
みんなが持っていた段ボールはこれだったのか、自分の名前にチェックを入れてひとまず部屋を目指すことにする。
寮の廊下を歩いているとざわざわと荷解きや準備などをしている生徒たちの話声が聞こえてくる。
みんな慌ただしく荷物を運んだり片付けたり忙しそうだ。
そういや壮馬の部屋どこなんだろ。
「壮馬って部屋どこなの?俺と近い?」
「…いや、近くはない」
ゆっくり歩みを止めて振り返った壮馬が一つの扉を指さした。
「ここが俺の部屋」
指さした部屋は103。ここが壮馬の部屋か。玄関ホールから近くていいな。
同室は誰なんだろう。
後で聞いてみよう。
「俺の部屋はたしか…」
「110室だ」
思い出そうとしていたら壮馬の方が先に答えた。
110かー。結構離れちゃったな。大丈夫なのかな?
体質のこともあるしできれば近い方が良かった…。
ちょっとだけ寮生活が不安になってきた。
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