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7「保健室」
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「……ん…」
もぞもぞと身体を動かすと静まり返った部屋の中にシーツの擦れる音だけが聞こえた。
「ここは…」
ぼんやりする頭のままゆっくり起き上がるがまだ状況がうまく呑み込めない。
どうやら寝ていたみたいだ。
そのお陰かさっきまでの気持ち悪さはなくなっていた。
そうだ、倒れたんだった。
ここは…。
あたりを見渡し仕切られたカーテンを見つけここは先ほどまでいた保健室だとわかった。
仕切り越しに、キィと金属音がして初めて人の気配に気付く。
「夏目くん起きましたか?入っても大丈夫でしょうか?」
こっちへ近づく足音と間延びした声。
先生だ。
「はい…」
返事をするとシャッとカーテンが引かれ覗き込むように先生が顔を出した。
俺の顔色を見てほっとしたように息をついた。
「よかった、顔色も戻っていますね。運ばれてきたときは真っ青でしたから心配しましたよ」
「すみません…」
「こちらこそすみません、問診で色々と聞きすぎてしまったせいかもしれませんね。体質はデリケートな問題ですから僕ももう少し配慮すべきでした」
「先生のせいじゃありません…新しい環境にいきなり来たせいでちょっと疲れてしまっただけです…」
見るからに落ち込んでシュンと肩を落としている先生を見て慌てて否定した。
間違いは言っていない。
本当に新しい環境にいきなり来たからな。
「そうですか…、今後は体調の変化も遠慮なく言ってくださいね」
俺の言い訳に納得したのかしていないのか、それでも先生は優しい声色で気遣ってくれた。
沁みる…今の俺にはこのやさしさ…。
泣きそう。
「ありがとうございます…」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
…
「さて、歩けそうですか?寮までお送りしますね」
あ、そうだ寮に行くんだった。
片手に学生カバンを持ち、慣れたように鍵をもう一方の手に取ってこちらを見る先生。
保健室はもう片付けをすべてしてあったようで俺が起きるのを待っててくれたみたいだ。
申し訳ないな…。
西たちはまだ待っていてくれてるのだろうか、どのくらい寝ていたのだろう。
不安げな顔をしていたせいか司波先生が安心させるように笑って手にしていたカバンを軽く持ち上げた。
「僕の方から西くんたちへ先に行ってもらうようにお願いしておきましたから大丈夫ですよ。今日は入寮の初日で部屋割りの確認や荷解きをしないといけませんからね。カバンは桂木くんから預かってますので」
司波先生が持っているカバンは俺のものだった。
壮馬も先に行っているみたいだし、西たちにも悪い事しちゃったな…。
後で謝っておこう。
日は暮れていないがあまり人の気配を感じない廊下を二人で歩く。
歩いていると微かに遠くから足音や声が聞こえ生徒がいるようだがそれもわずかでほとんどの生徒は帰ってしまっているようだ。
「初日から迷惑かけてしまってすみません…」
「謝らないでください。大丈夫ですよ、夏目くんが気に病むことは何もないですから、ね?」
ふふとフワフワした笑い声でフォローしてくれる先生。
ますます申し訳なくなってしまうが、きっと何を言ってもこうして俺に気を遣わせないように返してきそうだ。
ぐっと堪えて話を変えることにした。
「そういえば、教員寮なんてあるんですね」
問診の時に言っていた、教員寮という言葉がちょっと気になっていたので話題を変えるついでに聞いてみる。
「そうなんですよ~。学校との距離がないから長く寝ていられるしご飯も寮のご飯がでるから料理をしなくてもいいし味も最高においしいし…なにより!生徒たちが学生生活を楽しんでいる姿を見られて僕にとっては、あ…いや…ちょっと喋りすぎました。すみません…」
先生は早口で捲し立てていたが途中で我に返ったのか顔を赤らめてううんと咳払いをしてふーっと呼吸を整えていた。
普段はおっとりしたしゃべり方なので早口でも喋れるんだと妙に感心してしまった。
なんかちょっとかわいいな。
はにかむ先生につられて俺も笑ってしまった。
生徒たちことを考えている熱心な先生なんだな。
いろんな生徒から慕われていそうだ。
「夏目くん、すみませんが昇降口で待っていてください。僕はいったん職員室へ寄ってきますので」
では後ほどと司波先生は言い残し職員室へ、俺も一人昇降口へ向かう。
下駄箱で靴を履き昇降口で待つが手持無沙汰になりなんとなしにポケットに手を入れた。
カサリと紙きれが指先にあたった。先生から貰った電話番号の紙だ。
そういえば保健室でもらったなと思い出したので今のうちに登録しておこう。
スマホを取り出し、番号を打とうと画面を付けると新着の知らせがあった。
怖いけど確認しないと…冷えた指先でスライドしお知らせをタップする。
攻略対象キャラページが更新されていた。
スクロールする。
現れたのは金髪の男だった。
誰だ?全く見覚えがないぞ…。
一体どこで会った?
攻略対象のキャラはクラスメイトにはいなかった。
入学式のあと俺が行ったのは保健室だけだし…。
記憶をたどっていると、暗闇でキラッと光ったピアスが頭をよぎった。
保健室を出てからちょっとして気を失うまでの間にそんなようなことがあったような…。
…。
顔よく見えなかったから覚えてないや…。
もぞもぞと身体を動かすと静まり返った部屋の中にシーツの擦れる音だけが聞こえた。
「ここは…」
ぼんやりする頭のままゆっくり起き上がるがまだ状況がうまく呑み込めない。
どうやら寝ていたみたいだ。
そのお陰かさっきまでの気持ち悪さはなくなっていた。
そうだ、倒れたんだった。
ここは…。
あたりを見渡し仕切られたカーテンを見つけここは先ほどまでいた保健室だとわかった。
仕切り越しに、キィと金属音がして初めて人の気配に気付く。
「夏目くん起きましたか?入っても大丈夫でしょうか?」
こっちへ近づく足音と間延びした声。
先生だ。
「はい…」
返事をするとシャッとカーテンが引かれ覗き込むように先生が顔を出した。
俺の顔色を見てほっとしたように息をついた。
「よかった、顔色も戻っていますね。運ばれてきたときは真っ青でしたから心配しましたよ」
「すみません…」
「こちらこそすみません、問診で色々と聞きすぎてしまったせいかもしれませんね。体質はデリケートな問題ですから僕ももう少し配慮すべきでした」
「先生のせいじゃありません…新しい環境にいきなり来たせいでちょっと疲れてしまっただけです…」
見るからに落ち込んでシュンと肩を落としている先生を見て慌てて否定した。
間違いは言っていない。
本当に新しい環境にいきなり来たからな。
「そうですか…、今後は体調の変化も遠慮なく言ってくださいね」
俺の言い訳に納得したのかしていないのか、それでも先生は優しい声色で気遣ってくれた。
沁みる…今の俺にはこのやさしさ…。
泣きそう。
「ありがとうございます…」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
…
「さて、歩けそうですか?寮までお送りしますね」
あ、そうだ寮に行くんだった。
片手に学生カバンを持ち、慣れたように鍵をもう一方の手に取ってこちらを見る先生。
保健室はもう片付けをすべてしてあったようで俺が起きるのを待っててくれたみたいだ。
申し訳ないな…。
西たちはまだ待っていてくれてるのだろうか、どのくらい寝ていたのだろう。
不安げな顔をしていたせいか司波先生が安心させるように笑って手にしていたカバンを軽く持ち上げた。
「僕の方から西くんたちへ先に行ってもらうようにお願いしておきましたから大丈夫ですよ。今日は入寮の初日で部屋割りの確認や荷解きをしないといけませんからね。カバンは桂木くんから預かってますので」
司波先生が持っているカバンは俺のものだった。
壮馬も先に行っているみたいだし、西たちにも悪い事しちゃったな…。
後で謝っておこう。
日は暮れていないがあまり人の気配を感じない廊下を二人で歩く。
歩いていると微かに遠くから足音や声が聞こえ生徒がいるようだがそれもわずかでほとんどの生徒は帰ってしまっているようだ。
「初日から迷惑かけてしまってすみません…」
「謝らないでください。大丈夫ですよ、夏目くんが気に病むことは何もないですから、ね?」
ふふとフワフワした笑い声でフォローしてくれる先生。
ますます申し訳なくなってしまうが、きっと何を言ってもこうして俺に気を遣わせないように返してきそうだ。
ぐっと堪えて話を変えることにした。
「そういえば、教員寮なんてあるんですね」
問診の時に言っていた、教員寮という言葉がちょっと気になっていたので話題を変えるついでに聞いてみる。
「そうなんですよ~。学校との距離がないから長く寝ていられるしご飯も寮のご飯がでるから料理をしなくてもいいし味も最高においしいし…なにより!生徒たちが学生生活を楽しんでいる姿を見られて僕にとっては、あ…いや…ちょっと喋りすぎました。すみません…」
先生は早口で捲し立てていたが途中で我に返ったのか顔を赤らめてううんと咳払いをしてふーっと呼吸を整えていた。
普段はおっとりしたしゃべり方なので早口でも喋れるんだと妙に感心してしまった。
なんかちょっとかわいいな。
はにかむ先生につられて俺も笑ってしまった。
生徒たちことを考えている熱心な先生なんだな。
いろんな生徒から慕われていそうだ。
「夏目くん、すみませんが昇降口で待っていてください。僕はいったん職員室へ寄ってきますので」
では後ほどと司波先生は言い残し職員室へ、俺も一人昇降口へ向かう。
下駄箱で靴を履き昇降口で待つが手持無沙汰になりなんとなしにポケットに手を入れた。
カサリと紙きれが指先にあたった。先生から貰った電話番号の紙だ。
そういえば保健室でもらったなと思い出したので今のうちに登録しておこう。
スマホを取り出し、番号を打とうと画面を付けると新着の知らせがあった。
怖いけど確認しないと…冷えた指先でスライドしお知らせをタップする。
攻略対象キャラページが更新されていた。
スクロールする。
現れたのは金髪の男だった。
誰だ?全く見覚えがないぞ…。
一体どこで会った?
攻略対象のキャラはクラスメイトにはいなかった。
入学式のあと俺が行ったのは保健室だけだし…。
記憶をたどっていると、暗闇でキラッと光ったピアスが頭をよぎった。
保健室を出てからちょっとして気を失うまでの間にそんなようなことがあったような…。
…。
顔よく見えなかったから覚えてないや…。
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