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3「入学式」

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「おや?どうかしましたか?」

不意に背後から妙に間の抜けた声が聞こえた。

「そこのお二人~。手を繋いで仲良しなのは大変良い事ですが、新入生かな?もうすぐ始業式が始まってしまいますよ~」

聞いていると力が抜けそうになるゆったりしたしゃべり方だ。
慌てて手を放して振り返ると、そこにはもさもさした髪の毛に眼鏡をかけた男性がいた。
くたびれた白衣のようなものを着ており見た目からして学生ではなさそうだ。
口調と同じようにのっそりとした動きでゆっくりとこちらへ近づいてきた。


「………君は…」

目が合った。
相手が俺を見て驚いた顔をしている…。
じっとこちらを見たまま押し黙ってしまった。
一体何なんだ…?

しばらく見つめられて戸惑っていると間に壮馬が入ってきた。

「あの…」
「え?ああ…君たちは新入生だね?僕はここで保健師として勤めている司波です」
「は、はい…」
「ようこそ星辰ヶ丘学園へ。さあ入学式が始まりますよ。講堂へ案内しますね」

柔和な笑みを浮かべて司波先生がこちらです、と歩き出したので俺たちは後に続いたのだった。



「2人とも校舎に入らずにずっとあの場にいたんですか?案内のアナウンスが流れたと思うんですが…」
「え!?いや、あの…アナウンス聞き逃してたみたいで…ほ、ほらここの桜並木がきれいで夢中になって写真撮ったりしてたせいかな…あはは」

先を歩く司波先生からの質問に慌てて答えるが我ながらこんな言い訳で通じるのか…?
隣で壮馬も呆れた目をしていた。
だって、思いつかなかったんだもん…。

「そうだったんですか、綺麗ですよねえ。並木の桜とバラ園はこの学園の自慢なんですよ。新入生の方はあのあたりで写真を撮るのが定番なんですよ」

先生は俺の下手な言い訳には気にした素振りを見せず学園の庭について色々話してくれた。
とりあえずは大丈夫かな…?
まだドキドキしている。緊張で嫌な汗をかいていて身体が熱くなってきた…。
嘘をつくのは苦手なんだ…。


「クラスの確認をしたいから君たちのお名前、教えてくれますか?」
「俺は桂木壮馬(カツラギ ソウマ)です」
「夏目律(ナツメ リツ)です…」
「桂木くんに、夏目くんだね。僕は先ほども言ったけどここで保健師をやっている司波(シバ)です。ケガや病気以外にも生徒のお悩み相談とかもやってるからふたりとも困ったことがあったら保健室においでね」

くるりと振り返ってふわふわした声の司波先生が笑う。
なんだかこの喋り方のせいかニコニコした目元のせいか、この先生癒し効果すごいな…。
お悩み相談とかしたくなっちゃいそう。

俺はあることに気付いた。
スマホだ。攻略キャラがシルエットになっていたあれ。

もし先生が攻略キャラなら出会った時に解禁されるはず…。
たとえゲームジャンルが違っても根本は一緒だろう、出会うと情報が解禁されるみたいなね。


こっそりスマホを開いて見たが、さっきと同じままでキャラクターのプロフィールは壮馬のイラストだけだった。

でもなんとなく納得した。
この先生なんか髪の毛もっさりしてて先ほどからずっと目をつぶっていると言うか…微笑んでいて…。
そう!いわゆる糸目キャラのようだ。
攻略対象ではない感じがする、ゲームの中で言うサブキャラかモブキャラってやつなのかな。

…。

まあもし先生が攻略対象だったとしても俺は男と恋愛なんてしないけどな!?
あぶないあぶない…、なんか意識しすぎて変な方向に考えてしまっている。
ちょっと落ち着いた方がいいな。

何気なく画面をスライドしていたら、攻略キャラの下に先生らしきアイコンが。
あれ、これさっきはなかったぞ。

詳しく見たいけど今は歩いているし、先生も目の前にいる。
後で確認する必要があるな。


「そうだ!思い出しました」
前を歩いていた司波先生が急に声を上げたので慌ててスマホをしまう。

「どうしたんですか?」
同じく驚いたような顔をして壮馬が続きを促した。

「夏目律くん、僕はあなたを探していたんですよ」

司波先生がふふと柔らかいほほえみを湛えたまま振り返って俺をじっと見た。
そういえばさっきもじっと見られたな、俺のことを探していたからだったのかな?

「いやあすっかり忘れてました。どこかで見た顔だなあって思ってたんです」

俺たちを見つけた時から手に持っていたファイルをパラパラと開いて書類を確認しながら一人納得したように頷いている先生。
ちらりと俺の写真が見えた。入学用に撮った証明写真みたいだ。

「夏目くん君は放課後に保健室に来てください。少しお話を聞きたいので」

お話と言われてもなにかあっただろうか?
というか、俺だけなのか?

「えーと…そうですねちょっと具体的には言えないのですが……あ、桂木くんは知っているので問題ないですね…。夏目くんの体質について、入学時の申請がありましたよね。その確認です。なかなか特殊な体質なのでちょっと保健師としてはサポートしないといけないと思いまして、ええ」
「な……はい…」

資料を確認しながらつらつらと言っているがなんのことやらさっぱりだ。
先生が壮馬は知ってるって言ってるけどなにを知ってるんだろ。
ちらりと壮馬を見るが俺と同じようにぽかんとしている。
当然俺たちは知らないよな…。


特殊な体質ってなんだよ…。



ピンと頭の中で糸がつながった。

先ほどのあれだ。
オープニングの俺が絶対誰にも言えない秘密があるって言ってた。
それが関係しているのではないだろうか。

いやいや俺の秘密ってなんだよ…。
こわすぎるだろ…。

知りたいような知りたくないような。
不安が胸を渦巻くまま司波先生に案内されて俺たちは入学式へ向かったのだった。



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