俺は絶対に男になんてときめかない!~ときめいたら女体化する体質なんてきいてない!~

立花リリオ

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2「攻略対象」

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「…げ」
「なんだよ」

スマホを弄っていた壮馬が心底嫌そうな声を出した。
とても嫌な予感がする。

見たくないが、横からスマホをのぞこうとすると逃げるように手を上げて華麗に避けられた。
俺より背が高いのだから手を上げられたら届かないしこれでは見えないじゃないか。
肩を引っ張って手繰り寄せようとするが力も敵わなかった。
ぐぬぬ、悔しい…。


「おい!情報は共有しろよ!俺ら仲間だろ!」
「…」

少し腕がぐらつく、迷っているらしい。
が、しばらくして力が抜けてスマホがコトンと俺の掌の上へ乗せられた。
そしてその画面を覗き込んだ。

口があんぐり、目が点とはまさにこのこと。

「えー…っと……???」
「俺が聞きてえよ…」

マジで頭痛になりそう…と呟き天を仰ぎ見る壮馬。


「なんでお前まで攻略キャラなんだよ…」


先ほど見ていたページとは違う、壮馬が弄っていたせいか。
プロフィールと書いてあるそのページはキャラの情報が載っていた。
そしてまだ会ったことのない攻略キャラの中に一人だけ公開されているキャラがいる。
桂木壮馬…。

えっと?かつらぎそうまって…?
未だ天を仰ぎ見ているこの人かな。

プロフィールの立ち絵も同じ髪型で顔の特徴も似ている。
ていうかそのまま、目の前の桂木壮馬その人だ。

そういやさっき俺が見てた電話のページにも壮馬のマークがあったわ…。
攻略キャラだと思ってなくてスルーしてた…。

あ、好感度もある…にっこりマークだ。親友だしな。

あれ、でもこれって。

「…親友ルートでめでたくグットエンディング迎えたら元の世界に帰れたりしないかな…」

ぼそっと呟く。
こういうのってエンディングを迎えれば元の世界に帰れるって漫画とかでよくあるパターンだろ、きっと…。
希望があればまだこの世界でもやっていける気がする。

「親友ルートか…そんな都合よくいくか?まあ、選択肢は多い方がいいけどな…」

考え込むように壮馬も呟いた。

「もし親友ルートがあるならこのまま学園生活を過ごせばいいだけのはなしだからな。でも、そのスマホには公開されていない情報が多すぎる。これから開示されてくる情報によって俺たちの立ち回りも変えていかないといけないだろうな…」







俺たちがこの世界で目覚めた時、芝生の上で寝ていた。
正確にはなぜか壮馬に抱きしめられた状態で倒れていたのだが…目が覚めた時には二人して横たわっていたのだ。
気を失ったのか、どうしてここにいるのか前後の記憶は霞がかかったように思い出せない。
先ほども言ったように、俺たちは日本に暮らすのただの学生で学校から帰っている途中だったはずだ。

ちなみにこの気を失っている間に例のオープニングを見たようだ。壮馬も同じものを見たらしい。



こんな漫画みたいな街並みじゃなく、雑踏とした街の中で暮らしていた。

だから目が覚めた時に明らかな違いを感じた。
こんな世界は知らない、一見するとそこは日本の街並みなのに妙に整っていて…まるで理想を具現化したような世界。
学校も何もかも作り物みたいに綺麗すぎる、街の中にある汚い部分がまるでない。

それは壮馬も同じだったようで、訝しんだ顔をして顔を見合わせた。
あたりを探索してみたが、学校の外へ出ようとすると見えない壁のようなものがあって出られなかった。
現実ではありえないことにさらに頭が混乱する。

この状況は恐怖以外の何物でもなかった。

ここは日本じゃない、俺たちふたりぼっちでわけのわからない世界にいる。
帰れるのか、もしこれが漫画とかでよく見るような異世界転生だとしたら、俺たちは元の世界では死んでいるのかもしれない。
一生このままこの世界に閉じ込められるかもしれない。

怖さだけが先立ち、不安が次から次へ頭に浮かんでくる。
気が付けば身体もわずかに震えていた。

不意に壮馬が俺の手を掴んだ。
力強く安心させるように、触れたところから壮馬の熱が伝わる。

「俺たちの名前がこのスマホにあるってことはこの学校の生徒ってことだ」

「さっきも言ったがこの世界が本当にBLゲームの世界ならエンディングを迎えたらどうにかなるかもしれない。でもこのままおとなしくゲームの流れに従わなくても帰れる方法が見つかるかもしれないだろ。調べよう、2人で」


力強い瞳がこちらを見ていた。
本当に壮馬ならやってのけそうだ。
俺一人だけだったらきっとパニックになっていたが壮馬がいるおかげでなんとか平静を保って居られている。


「絶対に帰るぞ」

手は繋いだままに、スマホを貸すように言われたので差し出すと画面を食い入るように見つめながらスライドをしていった。
またなにか調べているようだ。
きっと壮馬だって怖いだろうに、俺が怖がったから…。

昔からずっとそうだ、壮馬はいつだって…。

「そうだな!とにかく今は情報を集めよう」

握られた手にぎゅっと力を込めて俺たちは決意を新たにした。


ここはどこなのか、本当にゲームの世界なのか。
俺たちはどうしてこの世界へやってきたのか。
わからないことだらけだけど、元の世界に俺たちは絶対に帰るんだ。




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